真っ白なガスの中の由布岳山頂

 

由布岳正面登山口から望む由布岳

 

 県道11号線、いわゆる「やまなみハイウェイ」に乗り九重側から水分峠を越え湯布院盆地が一望に見渡せる場所に来ると正面に由布岳が見える。右脇に飯盛ヶ城を従えた双耳峰で堂々としている。周りに山がない独立峰なのでその存在が一際目につく。

 「くじゅう登山口」バス停で地元のお母さんと別府行きのバスが来るまで話をしていた。話し好きのお母さんは、私が「千葉から大分の山に登りに来た」と言うと、ビックリし、「私など外の県に行ったことがない」とローカル色丸出しで話を続ける。「由布岳は湯布院の町から見える西側は穏やかな形をしていますが、反対側の東側は崩落が激しく、その崩落を少しでも和らげるよう工事が進められています。地域の人達が農作業をする畑まで崩れてくる土砂の被害にあうので大分県に陳情しての工事です。何事も表側の顔と裏側の顔があるんですねえ」としみじみと語った。

 その由布岳に南側の正面登山口から登った。登山口は湯布院〜別府間の「やまなみハイウェイ」の最高所の峠に位置する。入口の登山届け記帳箱に登山届けを投入し牧場の草原を歩いていった。空には雲が拡がり出し、時折り由布岳山頂を覆い始めている。登山道は小さいながらも草に覆われスッキリ立ち上がっている飯盛ヶ城と由布岳の間の広葉樹林帯に延びており、しばらくは見通しのきかない岩がゴロゴロ転がる樹林帯の中を歩いた。紅葉にはまだ早く、木々は色づいていない。

 南側が開けた合野越まで登って一休みすると飯盛ヶ城が眼前に認められた。やがて登山道は明るいカヤトの茂る見通しのよい道となり、九十九折りを繰り返しながら高度を上げていく。蛇行している「やまなみハイウェイ」が生き物のように見下ろせ、湯布院盆地の街並みと黄金色に輝く稲穂の田んぼが箱庭のように見えた。それらの景色もガスのために見え隠れする。風も吹き出している。今朝、坊がつるから下山してくる時に大船山山頂が笠雲に覆われていたのを思い出す。笠雲は天候が崩れる時にしばしば見受けられるものなので、天候は確実に下降しているのだ。九十九折りの登山道が、よりいっそう急になり岩が増え出す「マタエ」という西峰と東峰の分岐点にやってきた。昼食を摂っているグループが目立つ。

 

火口壁に延びる鎖場

 

「マタエ」は風の通り道なのだろうか、風がとても強い。分岐点からは、まず、由布岳標柱の立つ西峰を目指した。マタエから山頂までの間で鎖場を5ケ所通過する。5ケ所の鎖ともに新しく付け替えられたようで、いずれの鎖も真新しいものであった。火口壁外側斜面から鎖を頼りに火口壁内側斜面に回りこみ、山頂までの細い登山道を登っていくのだが、両面が切れ落ちており今にも崩れ落ちそうに亀裂が入り到底歩けそうにない場所は迂回しながらの行程である。特に最後の5ケ所目の鎖場は北アルプスの鎖場を連想させるもので、距離は3〜4m程で短いが、足元は火口壁の中にスッパリ切れ落ち高度感十分であった。それらの岩場を慎重に通過し火口壁の上に付けられた細い登山道を伝わっていくと山頂に到着する。頂上には3人の登山者が屋久島の山の話をしながら佇んでいた。一人の方は既に1時間もガスが晴れるのを待っているとのことである。私は、「今日はもうガスは飛ばないでしょうね」と話しかけた。

ガスで真っ白になった由布岳山頂標柱の前で写真を撮ってもらい、もと来た道を戻って東峰に向かった。由布岳は火口壁をぐるりと廻る「お鉢廻り」ができる。晴れていても火口壁上の登山道は細く両側は切れ落ち、ルートも複雑であり全く見晴らしのきかない天候では非常に危険である。一般登山者の殆どは西峰には登らず東峰にのみ登るので、東峰側ではたくさんの登山者に出会う。登山者の中には竹の杖を持った70才代と思われる人もいる。マタエ分岐から15分ほどで東峰山頂まで行けたが、この山頂も真っ白いガスの只中にあった。山頂には丸い方位盤が置かれてあったが、割れていたために修理が施されていた。お賽銭が沢山置かれていた。快晴であったならば360度の展望が保障されているのだが誠に残念である。ま・天候のことは自分ではどうしようもできないことなので諦めざるをえない。タイマーセットで写真を撮って下山することにした。

 

ガスの中の由布岳東峰山頂

 

 下山は湯布院に宿を予約してあるので登って来た正面登山口に下りるのではなく、湯布院町に直接下山する西登山口への道を選んだ。合野越まで戻り、笹薮の中を飯盛ヶ城の右側を下っていく。登山コースの標示板が殆ど立っていないので、手元の登山地図で地形を読みながら注意深く降りていくと不思議なことに気がついた。地図上の登山コースに合う形で草や笹を焼いた痕が一条の黒い筋となって延びているのである。秋山シーズンを控えての処置だと思われた。そのことが分かったので道に迷うことなく安心して降りていくことが出来た。途中の登山道に実った山栗がたくさん落ちており、それを拾いながら下った。宿について数をかぞえると27個あった。小ぶりの山栗だが、いいお土産が出来た。宿に到着すると迷うことなく露天風呂に急いだ。立派な内風呂に続いて露天風呂があった。丁度いい温度だった。晴れていたら眼前に端正な形の由布岳を望むことが出来るのだが周りはガスの中である。

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