蒸気噴出す焼岳山頂で

 

左側から水蒸気が噴出している焼岳山頂部

 

 紅葉を眺めながら焼岳に登ろうと思った。

涸沢や槍ヶ岳あるいは蝶ヶ岳から降りてくるたびに上高地を通過するが、その玄関口ともいえる大正池のとなりに控えている禿山が焼岳である。梓川の清流は大正4年6月の焼岳の大爆発により流れ出した溶岩流によって堰き止められ大正池が生まれた。大正池にとって焼岳は母親である。

 

新宿都庁大型バス発着場発の夜行バス「さわやか信州号・上高地ルートA便」を予約し出発した。夜行バスは朝7時に上高地バスターミナルに到着する。ターミナル1階で弁当を受け取り、梓川左岸を西穂高岳登山口まで戻り、鳥居の前から新中尾峠に向けて登山を開始する。同じ夜行バスに乗り合わせた東庄町役場に勤めている40代後半の男性登山者と一緒になり話をしながら登っていく。高度を増すに従って紅葉した木々が目に飛び込んでくる。空は雲ひとつない日本晴れであり絶好の登山日和である。足も軽く心も軽い。

 

焼岳は北アルプスの山々の中で唯一現役の活火山である。山頂部に木々は生えていない溶岩剥き出しの荒々しい禿山であるが裾野には広葉樹がたくさん生えており、それらが一斉に黄色や赤に色付いている。必然的にカメラのシャッターを押す回数が増えていく。

新中尾峠に立つ山小屋の手前は笹原が広がる斜面であり、危険な感じはしないが結構な急傾斜の登りが続いていた。熊笹の斜面はそれまでの景色とは違って美しい眺めだった。山小屋の前から左折して山頂部へ向かうわけだが実に広々とした開放感と眺めがよく、日光に反射し蛇行して光る梓川の流れのうえに前穂高岳から奥穂高岳までの吊尾根や岳沢の景観が見て取れる。

 

開放的な山頂への道

 

 焼岳山頂の標高は2455mであり穂高連峰の山々と比べると低い山といえるが、独立峰の如く他の山々と距離を置いているので360度の眺めは抜群である。しかも標高1500mの上高地から標高差1000mほどなので1日で往復できる比較的簡単に登れる山でもある。山頂の硫黄の臭いと音を立てて噴出す水蒸気は見事である。

私は10月7日に登ったのだが山頂では、お互いに写真を取り合ったり、廻りの山岳景観をゆっくり堪能したり、食事をしたりなど、思い思いでくつろぐたくさんの老若男女の登山者で賑わっていた。焼岳山頂からは梓川を挟んで六百山と霞沢岳が対峙している。わたしはまだ一度も登ったことがなくガイド書などを読んでいると、六百山には現在登山ルートはないが霞沢岳は登山者も少なく静かな山登りが出来ると紹介されている。テントでの2泊山行となるが来年度は計画してみようと思う。

 

私が山頂にいたのは30分ほどであった。帰りの滑落に十分注意しながら新中尾峠に戻り一休みした後、上高地まで下山し上高地温泉ホテルの露天風呂で山旅の汗を流した。上高地に降りてくるたびに利用している温泉だが実に気持ちが良いものである。入浴後に梓川を渡ってくる川風に吹かれながらビールを味わっていると、朝方一緒に登りだした東庄町役場の方が降りてきた。早速汗を流すために露天風呂へと入っていったが、彼とは帰りのバスの中でも隣り合わせ、買い込んだ日本酒を飲みながら各地の山旅や家族のことなどで話しは盛り上がり、新宿まで戻ってくる時間はあっというまに過ぎてしまった。

 

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