紅葉を眺めに蕎麦粒山へ その1

 

天目山のブナの巨木の黄葉は茶色に変わった

 

10月31日木曜日 晴れ時々曇り 1日目

今回の避難小屋利用の1泊2日の山旅は、奥多摩の天目山(1576m)、蕎麦粒山(1473m)、川苔山(1363m)の紅葉を楽しみながら縦走し、鳩ノ巣駅に下山するもので、下山後は温泉と地酒を愉しむ、というものだった。このコースを縦走することにより、奥多摩の鳩ノ巣から長沢背稜縦走路と奥秩父主脈縦走路をつなぎ、山梨県の瑞牆山まで歩いた長大なラインが完成するのだった。

 

東日原の登山口

 

2週間ぶりの奥多摩駅だった。平日の10時台のバスに乗ったため、乗客は14人と少なかった。大沢で外国人グループの3人が降り、東日原でふたりが降りた。ふたりのうちひとりが私で、もうひとりは日原村の人だった。平日は終点の鍾乳洞までバスが伸びているので、残りの人は鍾乳洞見物(東京都指定天然記念物)のようだ。トイレで用を済ませて一杯水避難小屋に向かって歩き出した。今日の行程は、距離は約6km、標高差は1000m、時間は4時間30分と短いので楽だった。

 

ラッパのようなキダチチョウセンアサガオの花

 

登山口を登り始めるとキダチチョウセンアサガオというオレンジ色の大きな花が下向きに咲いていた。初めて見る花で面白い形をしていると思った。山道では時期が過ぎたためドングリの落ちる音も聞こえず、行き交う登山者もなく、私の山靴の音だけが聞こえる静かな時が過ぎていった。2週間前に歩いた時と同じで、まだ木々は紅葉していなかった。標高を上げていくと、ようやく黄色や赤が混じってきたが、肝心のカエデはまだ青かった。

 

登山道をイノシシが掘り返した跡

 

ドングリやクリがたくさん落ちたあとなので、登山道をイノシシが餌を探して掘り返した跡がいたる所にあった。イノシシは聴力や臭覚は鋭いが、視力は0.1〜0.2と弱く、山道に落ちているドングリやクリを確認し、舌で巻き込んで食べることができず、鼻で地面を掘り進んでしまうことになる。このような状況では登山道は荒れる一方だろう。これもイノシシが増えすぎたための弊害である。

 

標高を上げると色づいた木々が増えた

 

登山口から横篶尾根の滑落注意区間を通過するまでに下山してくる5人と出会った。平日にしては珍しい多さだと思う。紅葉を見に来たのだろう。アカゲラが木の幹を叩くドラミングの音が聞こえてきた。姿を探すと幹から枝に飛び移り、さらに枝から他の木へと飛び去ってしまった。

 

今回も登山道の脇に大きなクマのウンコがあった

 

今回も登山道の脇に大きなクマのウンコがあった。ウンコは新しく、触ると軟らかだった。動物写真家の宮崎学の写真集を見ると、赤外線カメラの自動シャッターで撮られた野生動物たちは、日の入りから日の出までの夜間帯で、登山道や散歩道を利用して移動しているのである。野生動物も踏み固まった登山道を歩くほうが、崩れやすい獣道を歩くのよりも移動に楽だからである。周りの木々も赤、橙、オレンジ、黄色に染まり、紅葉が始まっているのが目立つようになった。1週間後ぐらいには素晴らしい紅葉が見られるのではないだろうか。コガラの鳴く声が聞こえてきていた。

 

紅葉は真っ盛りとなっているが・・・

 

6人グループが降りてきたので、道を開けながら立ち話をした。「今年の紅葉は、まだ青々としている葉もありますし、既に茶色くなって枯れ葉が目立つようになってしまったものもありバラバラですね」と話すと「そうですね。散ってしまった木もずいぶんありますね。今日は小屋泊まりですか?」と訊かれたので、「そうです。この上にある一杯水に泊まります。2週間前に酉谷から長沢、雲取と歩いたので、今回は蕎麦粒から川苔に寄り、鳩ノ巣に降ります」と答えた。「お互いに気をつけましょう」と挨拶して別れた。

 

今日一晩の宿となる一杯水避難小屋

 

14時に一杯水避難小屋に着いた。想像していたように誰もいなかった。避難小屋は天目山から南に30分の林のなかにあるため展望はなかった。時刻が早かったのでザックを小屋に置いて天目山に向かった。途中のブナの巨木の葉は半分が黄色だったが、半分は茶色の枯れ葉になっていた。

 

天目山の山頂から見えた富士山のシルエット

 

天目山の山頂には誰もいなかった。山頂からは素晴らしい富士山がシルエットのように見えた。相模湾はぼやけていたが、丹沢山塊の左に三角形の大山が見えた。山なみのグラデーションが美しかった。足元には明日歩く蕎麦粒山の連なりが見えた。スマホの電波は入らず、セルフタイマーで写真を撮って避難小屋まで戻っていった。

 

避難小屋をひとりじめだった

 

今回は防寒対策でシュラフ(寝袋)を2個持ってきた。避難小屋にあった断熱銀マットを借り、持参したシュラフを2重にし、さらに小屋にあったシュラフを借りて3重にした。上下のダウンを着込み防寒対策は万全だった。焼酎を水割りにしながら夕食を済ませ、スマホの電波も入らないので17時に眠りについた。避難小屋に泊まっているのは私ひとりで、気温は13℃だった。

 

戻る