『白覆面の魔王』のような噴湯丘だった

 

岩の上にいる

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まるでお面を被ったような噴湯丘

 

例年、春のゴールデンウィークの5月3日、4日、5日は長野県小谷村、白馬村、大町市の3つのエリアで、昔日本海で造った塩を牛馬に積んで千国街道を松本まで運んだ古道を歩くイベントとして『塩の道まつり』が開かれており、今年は回を重ねて44回目であった。過去2回の参加で小谷コースと白馬コースは歩いたので、今回は5日の大町コースへの参加を予定していた。参加予定者の6名は、3日にハイキング仲間が持っている長野県大町温泉郷の別荘に集まった。

 

岩の上に座っている人たち

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湯俣川の噴湯丘の前で全員集合

 

5月4日 木曜日 晴れ

噴湯丘ハイキングに出かけた。長野県西部、富山県東部、岐阜県東部が隣接する山岳地帯の後立山連峰南端に位置する鷲羽岳、双六岳、槍ヶ岳から下る谷を源流とした湯俣川、水俣川がある。そのふたつの川は合わさって高瀬川となるのだが、その高瀬川上流部に高瀬ダム、七倉ダム、大町ダムという3つのダムが造られている。山岳地帯の森林の生態系を守るために一般車両が入れるのは七倉ダムまで、タクシーが入れるのは高瀬ダムまで、それより上流の林道については漁業権を持っている人でないと車で入ることはできない。ハイキングの予定時間は約6時間である。

 

家の外観

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平屋の小さな名無避難小屋

 

静かな林のなかから濁声のカケスの鳴き声が届いた。山道はほぼ高瀬川の流れに沿っているために、多少の上り下りはあるものの、比較的に歩きやすいものだった。50分ほど高瀬川の右岸を歩くと、平屋の小さな名無避難小屋が建っていた。中に入ってみると土間に薪ストーブが置かれ、右側が4畳の部屋になっていた。押入れからブルーシートが見えた。緊急時に雨風から身を守るための避難小屋としては十分だろう。

 

山の斜面

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残雪の烏帽子岳・不動岳・船窪岳・七倉岳が美しかった

 

さらに先に進むと流れの少ない高瀬川の下流方向に残雪の烏帽子岳・不動岳・船窪岳・七倉岳が見え、まだら模様が美しかった。正面には青空のもとに雪を着けた槍ヶ岳が新緑に映えて美しい姿を現してきた。若葉の萌えだした春の時期は、山の残雪とも相まって実に美しい景色が現れる。秋の紅葉も素晴らしいのだが、青春の息吹が感じられる5月の初めは実に清々しい。

 

雪が降った山の景色

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雪を着けた槍ヶ岳が美しかった

 

避難小屋から1時間30分ほど歩くと湯俣温泉に着いた。湯俣温泉には左岸に緑の建物の晴嵐荘と右岸に現在再建中の湯俣山荘があった。足場の組まれた湯俣山荘は建物の建築は終わり、外壁工事と内部工事を残していた。晴嵐荘は7月中旬からの営業開始に向けて小屋明け準備中で、若者が高瀬川の流れや吊り橋を確認中だった。晴嵐荘の裏側から竹村新道の急登を7時間登ると野口五郎岳と水晶岳の中間にあたる真砂岳分岐に出ることができる。

 

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再建中の湯俣山荘

 

晴嵐荘の上部に簡易ダムが造られており、ダムの上部で湯俣川と水俣川が合流していた。水俣川に架かる吊り橋を渡り、湯俣川に降りた。川沿いはいたる所で湯けむりがあがり、お湯が吹き出ていた。お湯は3秒と手足を入れていることができないほど熱く、ゆらゆらと湯の華がなびいていた。合流点から湯俣川を500mほど遡った河原に目ざす噴湯丘があった。長い年月の間に吹き出た湯の華が徐々に堆積しドーム状に固まったものである。ここまで大きくなるのには相当な年月が必要だったことが容易に想像できた。

 

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噴湯丘を眺めながらの昼食

 

噴湯丘を初めて見た印象は、昔プロレスラーの力道山やジャイアント馬場が活躍していた頃に「白覆面の魔王」と呼ばれていたザ・デストロイヤーという敵役のプロレスラーがいたことを思い出した。噴湯丘はザ・デストロイヤーと同じような仮面をかぶった人間の頭のように見えた。昔は温泉が垂直に湧き出していたために湯の華がドーム状に積み重なっていったのだが、現在は頭頂部からの噴出は止まり、ドームの手前から湧き出ており湯気が上がっていた。昔に噴出していた名残りで、頭頂部あたりは尖がっていた。噴湯丘を眺めながらおにぎりを食べた。「自然は偉大な芸術家である」という言葉が頭の中で揺れていた。

 

干し草の上にいる動物

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湯の華がゆらゆらと揺れていた

 

 湯俣川の流れの脇から湯が流れ出していた。流れのなかに白くゆらゆら揺れているものがあった。最初は何だろうと不思議だったが、それは生きている湯の華だった。まるで色素が抜けた海藻のようであり、温泉の成分が徐々に集まっているのだった。こういう湯の華の成長過程を見られるのも珍しいのではないかと思った。湯の温度は手を入れられないほど熱かったが、その高温のなかで湯の華は成長していた。

 

海の岩の上にいる人たち

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湧き出す湯を水で温度を下げて足湯を楽しんだ

 

噴湯丘を観ながら食事を終えた。湯俣川は雪解け水を集めて流れているので水温は低く、手を入れると切れるように冷たかった。川幅は5〜6mほどであったが、川を渡って対岸に行くというものはいなかった。往路を戻ってきたのだが、湧き出す温泉を石で囲んで川の水で薄めて温度調整して足湯に入った。水で温度を下げないと、そのままではとても入れない高温の湯が流れており、まさに天然温泉だった。

 

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足湯を楽しんだ

 

 足湯を楽しむために登山靴を脱いで素足となり川原に転がっている小石の上を歩いたときに感じたのだが、足裏の感覚が子どものころに比べて変化しており、足裏が痛すぎてまともに石の上を歩くことができなかった。普段の生活では足裏が靴や靴下で保護されており、素足で石の上などを歩くことがないために、足裏の皮膚が薄くなり軟弱になっているのである。

 

雪が積もった木

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水たまりに産み落とされたヒキガエルの卵

 

 山道を歩いて来た時に水たまりに直径1cmほどの筒状をしたゼリー状のなかにヒキガエルの卵が産卵されているのが目についた。水のなかには孵化したオタマジャクシが泳いでいるのも見受けられた。子どものころは生活の周りに小川や池がある環境だったため、カエルの合体や産卵は日常的に体験することだったが、都市生活をするようになってからはそのような体験は稀のこととなって久しかった。

 

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大量のヒキガエルが合体していた

 

そのヒキガエルが大量に出てきてオスメスが合体しているのに出会った。上に乗って下のメスを羽交い絞めにしている黄色い体のほうがオスで、登山靴で蹴飛ばしても絶対に放さないという硬い力でメスに摑まっていた。合体できなかったオスはチャンスがあればメスを奪い取ろうと合体している脇でうろついているのだった。このカエルの合体自体が春の訪れなのである。

 

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水俣川に架かる吊り橋を渡った

 

 吊り橋を渡るのも久しぶりの経験だった。山奥に山道が伸びている場合は、しばしば川を渡ることがある。山仕事をする人を含めて歩行者数が多く、山道が整備されている場合は川の渡渉に吊り橋が設置されていることが多い。今回の噴湯丘までのコースでは1か所だったが、晴嵐荘に行くのにも川の渡渉と吊り橋を渡っていかなければならない。

 

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