カモシカに出会った浅間尾根

 

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久しぶりに出会ったカモシカ

 

11月25日 金曜日 晴れ

浅間尾根を歩くために武蔵五日市駅にやってきた。以前、三頭山に登り数馬温泉に降りた時に歩いたのが浅間尾根であり、とても歩きやすかったことを覚えている。今回はその浅間尾根を歩いて浅間嶺に登り、展望台から奥多摩や奥秩父の山々、丹沢の山々や新雪に輝く富士山を展望し、日本の滝百選に選ばれている払沢の滝までを楽しむという計画を立てたのだった。

 

ストリートサインと道路標識

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浅間尾根登山口からつづら折りに登っていった

 

駅前の西東京バス乗り場の時刻表を確認すると、乗車予定の数馬行きの前に都民の森行き急行があったのでそれに乗った。40分ほど乗車し浅間尾根登山口で降りた。バスを降りたのは私を含めてふたりだけだった。満員のバスはそのまま走り去った。おそらく終点の都民の森から三頭山に登るのだろう。浅間尾根登山口バス停を歩き出したのは9時10分だった。空は雲が張り出してきたものの青空が見えていた。

 

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浅間山の湧き水です。おいしいですよ。

 

南秋川を渡り浅間尾根登山口からつづら折りに入間白岩線という林道を登っていった。歩き始めて15分で、「浅間山の湧き水です。おいしいですよ、ご自由にお飲みください」という看板とともに湧き水が流れでていた。それを柄杓ですくい、ひとくち含んでみると、柔らかい水が口のなかいっぱいに広がっていった。そこを過ぎるといよいよ道は細くなり、傾斜も増してヒノキの林の中へと入っていった。

 

森の中の木

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カエデの紅葉が綺麗だった

 

登っていくと杖をついた80歳代と思われるおばあさんと出会った。「この上にまだ家があるのですか?」と尋ねると、「まだ上に家があります。私はそこから歩いて降りてきた。車では林道を走るが、歩く時はこの道を降りてくる」とのことだった。帰りはこの山道を歩いて家まで戻らなければならないので大変だと思った。年を取ったとはいえ、山暮らしが長いので足腰も丈夫で、受け答えもきちんとしたおばあさんだった。おばあさんと話したところから10分ほど登ったところに、衛星テレビアンテナが引き込まれたポツンと一軒家が建っていた。おばあさんはこの家の住人なのだろうか? その家の近くにも別の大きな家と作業棟があった。やはりこの山の中にも人は住んでいるのだった。

 

木の幹

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落ち葉をカサカサ踏みしめる足音が耳に心地よかった

 

山道はヒノキの林から落葉広葉樹の林へと移り変わっていった。紅葉の時季は終わったようで、落ち葉をカサカサ踏みしめる足音が耳に心地よかったこの山道は道標もしっかり整備されており、迷うことなく歩くことができた。周りの木々の葉が落ちて光が差し込む山道は、明るく温かくて気持ちがよかった。私のザックに付けたクマ鈴のりんりんという澄んだ音のみが聞こえてくる他は、全くの静寂に包まれていた。この鈴の音が消えれば本当に静かな山道だろう。

 

森の中の様子

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立派な冠を被った高さ40cmほどの馬頭観音の石仏

 

10時に風張峠と浅間嶺の別れの数馬分岐に着いた。予定時刻よりも1時間早い到着だった。分岐点からしばらく東に進むと、立派な冠を被った高さ40cmほどの石仏が置かれていた。馬頭観音だった。文字が刻まれていたが読み取ることはできなかった。山道は緩やかな上り下りを繰り返しながら徐々に下っていくように感じられた。ヒノキ林の隙間から奥多摩や秩父の峰々が姿を現してくるようになった。ヒノキ林が切れたところで奥多摩三山のうちの角形の御前山が見えた。あの山に登ったのはずいぶん前のことだったような気がした。

 

森の中の木

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猿石と甲州中道と呼ばれた官道

 

御前山が見えた場所から100mほど進むと、猿石という大きな岩が山道の脇に出てきた。岩を見る方向によって猿の形に見えたのであろう。歩いている浅間尾根道はかつて五日市と塩山を結んだ甲州中道(古甲州道)と呼ばれた官道であり、歴史の道として昭和初期まで炭俵を牛馬の背に積むか、人が背負ってこの道を下り、帰りには米・野菜・日用品などを買い求めて歩いた生活の道でもあったのだ。道幅は1mほどしかないが踏み固められており、実に歩きやすい尾根道である。昔は古き時代の人たちは何を想って歩いたであろうか?

 

山の斜面

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乳首のようにぽっこり飛び出た大岳山山頂

 

北側が見晴らしのいい場所に出ると、御前山の右側に乳首のようにぽっこり飛び出た山頂を持つ大岳山が見えるようになった。この辺りを歩くのは初めてなので、スマホの山名同定ソフトを起動させて山名確定を行ったのだった。気温は8℃となっており、日が差している場所ではポカポカ晩秋の日差しが暖かいが、ヒノキ林などの日が差さないところでは、汗が蒸発する時に体温を奪っていくので一層肌寒く感じられた。

 

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一本松にも馬頭観音の石仏が置かれていた

 

10時半に一本松という場所に着いた。ここにも馬頭観音の石仏が置かれており、昔の人は信心深かった。お賽銭として1円玉、5円玉、10円玉が納められており、修行僧が奉納した木札も収められていた。木札には熊野修験道、那智青岸渡寺、の文字が確認できた。石仏に彫られている文字はここでも読み取ることができなかった。日当たりが良かったのでバス停から歩き出して初めての休憩をとった。

 

森の中を歩いているクマ

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久しぶりにカモシカに出会った

 

尾根道を進んでいくと石宮ノ頭の手前に、桟橋を支える岩盤が崩壊したために通行禁止なので迂回路をお通りください、という看板と黄色いトラロープが張ってあったので迂回路を登っていった。すると山頂の手前で黒く動く物体が目に入った。距離は10mほどだった。クマか?!と一瞬緊張したが、よく確認するとオスのカモシカだった。

 

森の中にいるクマ

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カモシカは好奇心旺盛だ

 

カモシカはイノシシなどと違い好奇心旺盛なので、すぐに逃げることなく、しばらくお互いを観察し合うお見合い時間となった。カモシカは、名前にシカと付いているがシカ科ではなく、ウシ科でありウシの仲間である。女性のスラリとした脚をカモシカのようだと例えるが、実際のカモシカの脚は短くずんぐりしている。1955年に特別天然記念物に指定されて狩猟対象から除外されているが、狩猟対象から外れていなければ、1年に1頭しか出産しないし、好奇心旺盛で人を恐れない性格から絶滅していただろう。現在は環境庁レッドリストに登録され、絶滅のおそれのある地域個体群となっている。

 

森の中にいるクマ

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久しぶりにカモシカに会えてラッキーだった

 

10分間ほど写真やビデオを撮ったり、話しかけたりしてカモシカと静かな時間を過ごした。カモシカは、「もういいかい。ぼくはこの崖を降りていくよ」とばかりに崖を下っていった。私は過去に北アルプスや八ヶ岳でカモシカに数回出会っているが、今回のように3mほどの近い距離で出会ったのは初めてである。黒い瞳にジッと見つめられていると、これからも元気に過ごしてね、と自然と声がでてくるのだった。久しぶりにカモシカに会えてラッキーだった。やはり静かな山道を歩いていたご褒美だろうか。カモシカくんありがとう。

 

山の絵

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御前山・大岳山・馬頭刈山と続く稜線が見えた

 

石頭ノ頭からは北側をトラバースしていくわけだが、北側は崖になっており木は生えているが疎らであり、雪が降ったあとや踏み固められて凍った道は軽アイゼンが必須となるだろう。枯れ葉が敷き詰められた山道の先に、朱色の葉に染まるカエデの木が一本あった。冬枯れのなかに1本の赤いバラが差してあるようだった。

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山の景色

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御前山の左奥に三角形の雲取山が青く見えた

 

石仏が置かれた人里峠から10分ほど歩くと、北側が切り開かれた場所があり、そこから御前山の左奥に東京都の最高峰である雲取山が青く見えた。右側には大岳山から馬頭刈山まで続く山並みが見え、素晴らしい景色だった。北秋川を挟んで殆ど植林された山となっている御前山や大岳山の南面に僅かに残る落葉広葉樹は、すでに葉をすべて落としてしまい、茶色の木々が見えているのだった。

 

森の中に立っている男性

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浅間嶺903mの山頂

 

浅間嶺に向かう尾根道と北側のトラバース道との分岐点についた。私は迷うことなく尾根道を進んだ。こちらの方が踏み跡は少ないかもしれないが古道なのである。途中に小さな石の祠があり、やはりお賽銭があげられていた。しばらく登るとスギやヒノキの混合林のなかに小岩浅間嶺903mの山頂があった。2枚の山頂表示板がヒノキに縛り付けられていた。あっけない山頂到着だった。セルフタイマーをセットして写真を撮った。

 

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新設したばかりの富士浅間大神の祠

 

小岩浅間嶺から浅間嶺展望台に向かって下っていくと、石造りの富士浅間大神の祠があった。新設したばかりの祠は真新しく輝いていた。以前の赤屋根の祠は古くなって潰れてしまっていた。新しい祠を覆うようにナマコ板とパイプ造りのプレハブ小屋が建っていた。昔からの鉄の鳥居が申し訳なさそうに石造りの祠の前に置かれていた。

 

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浅間嶺展望台に着いた

 

目的地の浅間嶺展望台に着いた。ススキの穂が白くなびいている展望台には、食事を準備中の夫婦と女性単独登山者がいた。展望台の北側には御前山、大岳山が拡がり、更に奥秩父の山々が青く望め、南側には丹沢の山なみの奥に雪を被った富士山が見えた。素晴らしい。天気も良く、絶好の登山日和である。

 

雪が降った山の景色

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雪を被った富士山が見えた

 

単独女性のかたにスマホのシャッターを押してもらった。私もお礼にデジカメのシャッターを押した。ベンチに戻り、富士山を眺めながら握り飯をひとつ食べ、プロテインを飲んでから歩き出した。この辺りは植林していないので、明るく広々としてとても歩きやすい。やがて枯れ葉を踏みながら分岐点に着き、左に折れて時坂峠の方向へ降りて行った。

 

山の景色

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三頭山(左)から御前山(右)への山なみ

 

途中に山道の北側が伐り払われていた場所があった。西側に三頭山が確認でき、奥多摩三山の全てが展望できた。素晴らしい眺めだった。しかし一歩足を踏み外せば、はるか下まで転げ落ちてしまい、大怪我だけではすまないだろう。道幅50cmほどの山道はしばらく続いた。景色に見とれることなく集中力が途切れないように歩いた。

 

森の中の家

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閉店したお代官休息処跡だった『旧高橋家』

 

植林のなかの道を降りていくと、やがて瀬戸沢の源流となり、沢沿いの石畳の道となっていった。更に降りていくと昔は荷次ぎ場であり、代官も休憩したという立派な建物の旧高橋家があった。しかし建物は閉まっており、玄関戸に「お客様へ」と題した営業閉店の文が置かれてあった。時代の変遷とともに少数の登山者相手では商売も成り立っていかないだろうことは容易に想像できた。

 

閉店した創業1686年の峠の茶屋『高嶺荘』

 

林道に出てからしばらく進むと、もう一軒の峠の茶屋があった。看板には、浅間尾根・峠の茶屋・元祖手打ちうどん、『高嶺荘』創業1686年、始祖 瀬戸沢、馬方宿、と書いてあった。創業は330年以上も前の江戸時代前期である。いつ閉店したかは知らないが、馬方宿という文字に歴史を感じた。茶屋の前から御前山と大岳山が大きく見えた。浅間嶺展望台から見た御前山や大岳山に比べると、手が届く近さに聳えている感じだった。

 

日本の滝百選に選ばれている払沢の滝

 

舗装された林道はまだ湿っており、スリップに注意しながら下っていった。林道から離れた時坂峠からの山道は急激に下って集落に入っていった。14時に払沢の滝入口に着いた。滝まで15分の表示があった。遊歩道を歩き滝に向かった。ここまで来ると観光客が多くなってきた。遊歩道は舗装道路と違って登山靴が沈む感覚があり、それが心地よかった。足の疲労が溜まってきていたのだ。周りの木々が黄色く色づいた払沢の滝に着くと、2日前に降った雨によって水量が増したのだろう豪快な滝が見られた。上の段の滝も見ることができ、それを入れて写真を撮った。

 

岩の上にある滝

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女性の足元の岩の上のスマホが置き忘れられていた

 

滝壺から戻ってくると金色ケースのスマホが岩の上に置いてあった。周りに人はおらず忘れ物だろうと思った。ケースを開けてみると待ち受け画面は東洋人らしいふたりの女性が写っていた。ここに置いといても仕方がないので、駅前交番に届けようと思い、スマホを持ってバス停に向かって降りてくると、突然、着信メッセージのバイブレーション機能でスマホが震えた。まもなく引き返してきた3人連れの女性のひとりが「私のです」と言って手を差し伸べてきた。見つかって良かった。女性はザックの中から菓子袋を取り出し、「お礼です」と言って差し出してきたが、「いやいや、いいんですよ」と言って断った。忘れ物が落とし主に戻って、めでたしめでたしだった。

 

岩の間を流れる川

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払沢の滝は水源地となっていた

 

払沢の滝入口バス停まで降りると、まもなくバスが到着した。バスは1時間に1本の割合なので、実にラッキーだった。今回の山行計画段階では、下山後に瀬音の湯温泉に入ることも考えたが、最寄りのバス停から歩いて1時間もかかるので今回は見合わせた。バスは14時50分に武蔵五日市駅に着いた。

 

マップ

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浅間尾根の登山データ

 

晩秋の晴れた一日を、歩きやすく静かな浅間尾根を歩き、浅間嶺展望台からは奥多摩三山や奥秩父の山々、丹沢の山々の向こうに白雪の富士山も眺めることができた。途中では特別天然記念物のカモシカにも出会って話し込んだ。最後の払沢の滝では豪快な水しぶきを挙げて滝壺に落ちる滝を眺めることができ、満足満足の山旅だった。お土産に奥多摩の地酒を買ってザックに入れた。

 

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