羅漢寺山・昇仙峡を歩いて
羅漢寺山1058m山頂からの眺め
紅葉にはまだ早いと感じたがウィークデーの1日を昇仙峡・羅漢寺山・金櫻神社トレッキングを楽しむために山梨に出かけた。昇仙峡は金峰山を源流とする荒川の中流に位置する渓谷であり、全国観光地100選・渓谷の部の第1位に輝き、平成百景では富士山に次いで全国第2位に輝いた渓谷でもある。空芯菜と生卵入りの味噌ラーメンを食べたあと4時20分に家を出た。駅に向かう道すがら見上げた西の空に満月が煌々と輝いていた 。昨夜自宅近くでススキの穂を刈り、団子を添えて月見をしたのを思いだした。その満月の上に少し赤みを帯びた大きな星が輝き、私の頭上にはサソリ座が足を広げていた。辺りはまだ闇のなかに沈んでいた。
総武線の御茶ノ水駅で中央線に乗り換え、更に八王子駅で松本行きに乗り換えた。八王子駅では平日にもかかわらずザックを担いだ登山者の姿が目立った。
甲府城天守台からの眺め
甲府駅に8時過ぎに到着した。 昇仙峡行きのバスの発車時刻まで約1時間の乗り換え時間があったので駅近くの甲府城跡に行った。天守閣跡に上ると南アルプスが一望のもとに見渡せた。西側の大半は雲に隠れていたが一番右側の甲斐駒ヶ岳が三角形の山体を綺麗に見せていた。また仙丈岳、北岳、間ノ岳、農鳥岳も姿が確認できた。
南側の富士山は残念ながら雲の中に隠れて見えなかった。
甲府城内に立てられている謝恩碑
城内に謝恩碑という記念碑が建てられていた。碑文を読むと明治天皇が山梨県内にあった皇室の山林を山梨県に与えた記念として建てたとのことだった。碑身はオベリスクと呼ばれている古代エジプトの記念碑を真似、碑台はパイロンと呼ばれるこれも古代エジプトの神殿の入り口の門を形どっているとのことだった。記念碑は青空に向かって尖っていた。
バスが昇仙峡に向かって出発すると街路樹のハナミズキの葉が赤茶に色づきはじめ赤い実も鮮やかだった。昇仙峡の紅葉を少し期待させたのだった。
9時50分 私は昇仙峡口である天神の森でバスを降り、荒川に架かる長潭橋を戻って羅漢寺山塊の尾根に伸びる外道ノ原に向かった。ところが早くも登山道ゲートに“クマ出没注意“の看板があった。いやはやなんとも。登山道はのっけからの急登であった。
登山道には倒木が多かったが萩の薄紫の花が心を癒してくれた。オーシンツクツクの声も聞こえてくる。10分ほど登ると突然林道に出てしまった。
林道の分岐点の表示を見落とした
林道から登山道に登り直す分岐点を通過してしまい、間違いに気づいて分岐点まで戻ったので30分ほどロスをしてしまった。単純なミスだが考え事をしていたのだろう。気を取り直して登山道を登りだし11時に稜線に出た。紅葉はまだ始まっておらず木漏れ日の中をゆっくり歩いていった。カケスの声が聞こえてきた。一人だけの山はとても静かだ。登山道にはアケビ、クリ、クルミの実がたくさん落ちていた。アケビの中を覗くと甘さに引き寄せられたアリンコがたくさん群がっていた。遠くからモズの鳴き声が聞こえてきた。
クマ・イノシシ注意の看板
登山道にピンクのテープが時たま見受けられた。テープは道標を示す場合がほとんどであるが今回のテープを確認すると“地籍調査“の文字が書かれていた。私は以前、熊野古道を歩いていた時に山林作業用のテープに惑わされて道を間違ったことがある。電力設備保守用のテープもあるので表示されているテープには十分注意が必要だ。
苔むした石垣がたくさん積まれている外道ノ原を歩いた。おそらく昔は参詣道沿いに集落があったと思われた。今はその石組みが残るだけだ。あたりには大きな木々も見受けられた。ここは山梨県の鳥獣保護区に指定されていた。落ち葉を踏みしめてゆっくり羅漢寺山に向かって進んでいった。
登山道の脇に“日本遺産・御嶽古道“の表示とQRコードがあったので、QRコードを読み取ってみると、説明ページは移動しました、のメッセージが表示された。おいおい、管理する自治体はしっかりして欲しいね。
太刀の抜き石
11時30分
太刀の抜き石という表示があったので立ち寄ってみた。 3mほどの高さの花崗岩の岩峰だった。眺めは良かった。
11時45分
白山展望台に登った。西側を眺めると甲斐駒ヶ岳が雲の上に聳えていた。左側に鳳凰三山の薬師岳・観音岳・地蔵岳が続き、更に白峰三山の北岳・間ノ岳・農鳥岳が望めた。今日、鳳凰三山や白峰三山を縦走している人は快晴の元での3000mはさぞかし気持ちがいいことだろう。北側を眺めると茅ヶ岳、太刀岡山、黒富士の山梨県の山々の向こうに秩父山塊が折り重なって連なっていた。実に清々しい気分になった。
白山展望台からの眺め
白山展望台から白砂山に向かう途中で30歳代と思われる眼鏡をかけた小肥りの男性トレイルランナーが追い抜いていった。今日のトレッキングで初めて出あった人だった。彼は手を打ち奇声を上げながら走っていた。もちろん熊に人間の存在を知らせるためだ。私は時々笛を吹きながら歩いていた。
登山道には度々ヤマグリが落ちていた。その場所はイノシシの掘り返した跡がたくさんあった。私の拾ったクリはイノシシが見落としたのかもしれなかった。自宅に戻ったあと、たくさん拾ったので栗ご飯を作って食べた。ヤマグリは市販されているクリよりも小さい。約半分か1/3の大きさである。肥後守を使って皮と渋皮を剥くのが大変である。約50個のヤマグリを剥くのに2時間もかかってしまった。そのクリとグリーンピースを混ぜてめんつゆとみりんで味付けをして炊き込みご飯を作った。うましうまし。
ヤマガラとコガラが10羽ほどの小さな群れをなして枝から枝へと渡っていくのが見えた。上空ではカラスがアーアー泣き叫んでいた。
白砂山980m山頂からの眺め
12時15分 白砂山980m山頂に着いた。ふたりの年配の登山者に会った。ご夫婦のようだった。山頂からスリップして谷底に落ちないように注意しながら360度の展望を楽しんだ。羅漢寺山の最高峰の弥三郎岳がすぐ前に見えた。白く輝く花崗岩の巨岩と松の緑の対比が素晴らしく感じられた。山頂にオレンジ色のシャツを着た人が座っていた。お弁当を食べているのだろう。私も昼食をとることにした。昼食といっても行動食なので魚肉ソーセージとグラノーラにピーナッツである。それをよく噛んで水を飲めば終了である。谷を挟んだ目の前に白旗が立っている家が見えた。なんだろうと考えたらロープウェイの山頂パノラマ台駅だった。
富士山遥拝所からの富士山は雲の中だった
12時50分
ロープウェイのパノラマ台駅に到着した。富士山遥拝所から富士山方向を眺めた。残念ながら富士山は雲の中のままだった。ま、仕方ないでしょう。本来ならば5合目当たりから上を出した日本一の霊峰は、山頂辺りを薄く雪化粧し静かに立ち上がっているはずだった。今年の富士山の初冠雪は9月20日だった。山梨県富士吉田市は「富士山初雪化粧」を宣言し、同時に初雪化粧の写真も発表した。しかし甲府気象台は初冠雪を発表しなかった。甲府気象台は9月28日になってようやく初冠雪を発表した。パノラマ台駅の前に地元の氏神を祀った八王子神社が建てられていた。駅前広場には武田信玄やフクロウの顔出しパネルやテーブルやイスが置かれ、展望用の双眼鏡も設置されていた。私はパノラマ台駅前を通って羅漢寺山に向かった。
羅漢寺山(弥三郎岳)山頂からの眺め
13時10分
羅漢寺山(弥三郎岳)1058m山頂に着いた。羅漢寺山塊の最高峰は弥三郎岳である。白山展望台や白砂山山頂からの眺めも素晴らしかったが、弥三郎岳山頂からの眺めはさすがに最高峰だけあって実に素晴らしい。花崗岩の丸いドーム型の山頂は坊さんの頭に乗ったような感じでもあった。西側の南アルプスの峰々、北側の秩父山塊の峰々、南側は富士山だけが雲の中だったが昇仙峡第1の素晴らしい眺めである。さすが360度の大展望だった。素晴らしい景色だが足元からは絶壁が下まで落ちているので、ヘリの方には寄らずに頭の真ん中に立って遠くの景色を眺めた。山頂の隣に三角点が打たれていた。
左のポケットに入れていた登山計画書兼タイムスケジュールをどこかに落としてしまったようだった。計画したスケジュールよりも30分ぐらい遅れているように感じていた。これから金櫻神社に寄ってから下山するつもりだった。ところがパノラマ台駅まで戻ってくる途中でスケジュール表が落ちていた。私の手元に戻りほっと安心した。タイムスケジュールを再確認すると予定より約1時間遅れているのが分かった。金櫻神社には寄らずにロープウェイで下山し昇仙峡をそぞろ歩きすることにした。ロープウェイは20分間隔で運転されており乗車時間は5分だった。
黄金池の金ぴかの鯉たち
ロープウェイ山麓駅に降り立つとパワースポットとして“黄金池“があり、金ぴかの鯉がうじゃうじゃ泳いでいた。池の端を叩くと餌にありつけると想った鯉たちが口をあけながら寄ってきた。ビックリしてロープウェイの係員に鯉はいつからいるのか尋ねたが、私には分かりません、という答えが返ってきた。お土産にテレビで取り上げられて大人気になったという”リンゴバター“を買った。
仙娥滝
昇仙峡遊歩道約5kmの散策に出発した。最初の仙娥滝は、ものすごい水量と轟音を立てて落ちていた。見事な滝だった。久しぶりに豪快な滝を観た気がした。7人の観光客が写真を撮っていた。写真を撮ったあとで想うのだが、実際に自分で観た景色よりも写真は数段迫力に乏しいと感じるのである。やはり現物を直に体験し見ることに勝るものはないと感じる。
覚円峰は吉川英治の小説『宮本武蔵』にも登場する沢庵禅師の弟子の覚円が岩頭で座禅を組んだと伝わっているので『覚円峰』の名前が付いていると説明文に書いてあった。多分伝説だろう。 しかし覚円峰は昇仙峡を代表するスポットとして数々のポスターや写真に取り上げられているところだった。覚円峰は見上げた時刻の関係で逆光気味になっていた。岩壁に太陽が当たる時間帯のほうが素晴らしいと思われた。
覚円が岩頭で座禅を組んだと伝わる覚円峰
歩いている遊歩道の右側は渓流で、反対の左側は崖となっており、常に落石注意の看板と落石防止用ネットが張られていた。そこをのんびりと歩いたのだが、万が一落石事故に遭ったら運が悪いと諦めるより仕方がない。
開基800年の羅漢寺
15時 天台山羅漢寺があったので寄ってみた。吊り橋を渡ると“天台山羅漢寺開基800年記念”の石碑があり、羅漢寺は後ろに聳える山の名前にもなっているので、どんなお寺か期待して石段を登っていった。しかし期待したよりも地味で小さなお寺だった。本堂の隣に木造五百羅漢像が安置されていたので覗いてみようと思ったが、ガラス戸に鍵がかかっていて入れなかった。室内には灯りはついておらず、ガラス戸越しに暗闇を覗いてみると中央に木造阿弥陀如来像が鎮座していた。フラッシュ撮影を試みたが真っ暗で失敗した。残念だが仕方がなかった。お墓の赤い曼珠沙華はすでに咲き終えていた。
昇仙峡の観光スポット
16時 午前中にバスを下車した天神の森に到着した。16時10分発のバスに乗って甲府駅に向かった。バスの乗客は私を含めて3人だった。バスの車窓から姿を現した富士山は見事だった。私が歩いた山頂や富士山遥拝所で眺められたら良かったのにと想ったが、雲に隠れた姿も自然のなせることなので、またの機会にとっておくことにした。山中ではクマにもイノシシにも出会わなかったが、今回も静かな山歩きができて満足の山行だった。