楽しかったパキスタンの山旅
ナンガパルバット南癖(標高差4000mの氷壁)
今年も昨年に続いてパキスタンの山旅に出かけた。
パキスタンの国内情勢はイスラム教の内部対立によって不安定であったが、私たち観光客には敵対してこないだろうと判断しヒマラヤの山旅に出かけていった。
今回の私の山旅の目的は3つあった。
第1は、世界にある8000m峰14座に人類で最初に全てを登ったラインホルトメスナーが弟とともに登った8000m峰のナンガパルバット南癖のルートを確認することであった。
メスナーはナンガパルバットに2度登ったが、1度目に登頂した時の記録が昨年、『運命の山・ヒマラヤ』として映画上映された。私はメスナーの自伝によって1度目の登頂も2度目の登頂記録も読んでいた。
『運命の山・ヒマラヤ』は、東京まで出かけ上映された映画も観たが、困難極まる氷壁ルートを実際に自分の目で見ることが出来たらと思った。氷に閉ざされた標高差4000mの絶壁であるルパン壁を真直に見ることが目的の第1番目だった。
幸運にも天候に恵まれ指呼の間でメスナーの登頂ルートを確認できた。私の感覚ではあの氷壁に挑戦するのは自殺行為だと思った。
第2の目的は、ディランに出会うことだった。北杜夫さんの山岳小説『白きたおやかな峰』によってディランは日本人の多くに知られることとなった。ピラミダルの山頂からミナピン氷河までなだらかに伸びるスカイラインは見る人の心を打つ実に美しいラインだ。私は今回の旅行パンフレットに記されていたラカポシよりもディランに惹かれた。ラカポシも白く気高く聳え立つ山であるが、私はディランに惹かれる。小説『白きたおやかな峰』は山頂に向かった日本人登頂隊員の悲観的な結果を予想させるものであったが白く輝くディランの山頂は眩しかった。ここでも天候に恵まれ思う存分に美しい山容を眺めることができ、流れ出すミナピン氷河上のトレッキングも行い私のとって満足のディランとの出会いだった。
第3の目的は、フンザから仰ぎ見る怪峰レディフィンガーに出会うことだった。フンザ地方は緑に囲まれ桃源郷というキャッチフレーズがぴったりの山村だが、私たちが訪れたときは雲ひとつない快晴であり、ドィカルの丘から日の出に輝く山群を心おきなく眺めることができた。
フンザピークの横に天に突き刺すように屹立するレディフィンガーは一度見たら、そのネーミングとともに忘れられない山となるだろう。そういう山がレディフィンガーなのだ。実にスッキリと天に向かって突き出している惚れ惚れする山なのだ。
私の今回のパキスタンの山旅の3つの目的は、天候に恵まれ全て達せられた。一か月前に行われた同一ツアーは天候に恵まれず、連日雨続きで全く山の景色を見ることができず散々な結果だった、と旅行添乗員は話していたが、参加者にとって天候ばかりはどうしようもないことなので、私たちはラッキーだったと言うよりないのである。