奥久慈・男体山へ
男体山654m山頂
比較的に暖かい千葉幕張でも最低気温が10℃を下回る朝が出てきた。日本の滝の3名瀑に挙げられているのは日光の華厳の滝、熊野の那智の滝、それと奥久慈の袋田の滝と言われている。その袋田の滝の近くに奥久慈・男体山という岩峰がある。今回のトレッキングは紅葉を求めて茨城県に出かけた。
鷹取岩
奥久慈・男体山の標高は654mと低いが堂々たる岩壁を持っている。10月下旬のウイークデーに紅葉と絶景を求めて日帰り登山に出かけた。登山時間は約5時間30分である。私の最寄りの駅であるJR幕張駅から奥久慈・男体山の登山口であるJR西金駅までは船橋・柏・水戸の3駅で乗り換え、片道約4時間の電車旅である。
車窓から見えた筑波山
柏駅から乗車した常磐線は土浦を過ぎると列車内の乗客は極端に少なくなった。
車窓には刈り入れの終わった田んぼが広がっていた。その広々とした関東平野の先に双耳峰の筑波山が聳え、雲ひとつない快晴のもと素晴らしい景色だった。歌川広重の浮世絵の世界に入ったようだった。
無人駅のJR西金駅
水戸駅で水郡線の袋田行きに乗り換え西金駅で下車するのだが、途中の車内放送で袋田駅までは線路が復旧しておらず、上小川駅からバス代行となっていた。途中で車掌がやってきたので、西金駅までの運賃を車内精算した。
私が乗った車両の乗客は私ひとりで、西金駅で下車した乗客も私ひとりだった。
ヤマップの登山地図と歩いた履歴
JR西金駅待合室で登山準備をした。スマホでヤマップの電子地図を呼び出し、登山開始を設定した。待合室には観光協会作成の3ヶ所の登山ガイドが置かれていた。そのなかの男体山登山コースを手に取ってみると、私の持参した登山地図よりも詳細だった。その登山地図を片手に駅前を通る国道118号線を水戸方面に戻り、湯沢交差点で左折し県道322号に入り湯沢温泉方向に進んだ。入山口と下山口を同じにすれば、帰りには湯沢温泉で山旅の疲れを癒すことが出来るのだが、今回は下山口を隣のJR上小川駅にしたため、残念ながら下山後の温泉はお預けとなった。
1650万年前のゾウ類の足跡化石の看板
湯沢温泉を右に見て直進し北沢集落を歩いていると、正面に奥久慈の岩峰が見え出した。結構ごつく素晴らしい岩山である。北沢集落の中頃に1650万年前のゾウ類の足跡化石が見つかった旨の看板があった。看板の右手に崖が見えるのだが、そこにゾウの足跡化石がある模様だ。世界的にも貴重な足跡化石として今後の活用が期待されるというものだった。
大円地登山口から眺める男体山
北沢集落を通過し古屋敷集落を抜けると、左側に下る道があり男体山登山口の表示があった。案内に沿って進むと登山届けポスト、トイレ、駐車場があった。8台の車が駐車していた。ポストに登山計画書を投入し、いよいよ山に入っていった。大円地登山口からは屏風のように聳えている男体山山頂が見えた。
山頂の左側に祠があり、右側に白く輝く塔が立っていた。駐車場にあった看板によると、上級者コースは登山道が崩れ通行禁止となっているようだった 。
完全に崩落した登山道
大円地山荘という手打ちそばが名物らしい店の脇を通って登山道に入ると、ものの1分も歩かないうちに登山道が消えていた。ビックリ。復旧作業中の方がいたので声をかけた。工事現場の中を通っていいか、と聞くと、
上の縁を歩くと危険なので、そちらの梯子から降りて、こちらの梯子から上がってください、と言われた。梯子を降り足場を歩き梯子を登った。10mほどの区間であったが、登山道が完全に崩落していた。 駐車場の看板はこの工事のようだった。
登山道通行止めの看板
登山道は杉林の中についており、急坂をゆっくり登って行った。きついつづら折りだった。汗が吹き出たので一呼吸していると、赤シャツを着た小太りのトレイルランナーがドスドス音を立てながら降ってきた。次の3人の下山者は家族連れのようだった。それから2人の登山者が下山してきた。男性から工事現場を通ってきましたか?と質問を受けた。ハイ通ってきました。と答えたが、その場所を通らないと登山道は一本道なのでここまで登って来られないのだが。無駄な質問だったように感じた。
大円地越しの分岐
私が歩いた登山道も昔の峠道で空が近くなると大円地越しの分岐に着いた。カップルと男性ひとりが休憩していた。私は水を一口だけ飲んで、そのまま山頂に向かった。落ち葉がたくさん積もっているのだが、紅葉にはまだ早いように感じた。
岩尾根からの眺望
急登をひとのぼりで尾根にでた。風が心地よかった。石尾根を歩いて行くと、2人の登山者に出会った。2人とも年配者だった。私は挨拶したが、2人は挨拶を返してこなかった。コロナ禍の関係で話さないのかもしれなかった。左側が切れ落ちた尾根なので気が抜けない。落ちればただではすまない。
山頂に立つNHKのアンテナ
持方登山口からの登山道を合わせ、尾根から一度下って再度登り返して男体山654m山頂に到着した。山頂には三角点が打たれNHKのアンテナが建っていた。山頂には3人家族がいた。年配の夫婦と娘さんだった。娘さんにスマホのシャッターを押してもらった。お返しに仲良し家族3人の写真を撮ってやった。
権現堂からの眺望
5m先の権現堂にも3人いた。カップルと権現堂を背にして南側の山並みを眺めていた男性だった。カップルはバーナーでお湯を沸かしていた。コーヒーでも飲むのだろう。楽しくていいなぁ。男体権現が祀られ祠が置かれている場所は絶壁の上で、北側には枝ごしに奥日光や那須連峰の雄大な連なりが望めた。昨日の天気予報は曇りで、今日の天気予報は晴れだった。登山に今日を選んで正解だった。山旅のひとつの楽しみは、山頂からの大展望や絶景を楽しむことにあり、満足満足の結果となった。
落ち葉の積もる登山道
山頂でおにぎりを2個食べたあとで下山を開始した。山頂から先に進むと東屋が建っていた。途中で若い男性単独登山者に出会った。まったく予期していなかったのでびっくりした。クマかと思った。さらに降って右折して暫く進むと長福分岐に着いた。袋田の滝への縦走路から左に折れて上小川駅へ下った。静かな山道を一人で歩いていると、枯葉を踏みしめるカサコソという音だけが耳に届く。時たま静けさを少しだけ破って野鳥の鳴き声が届くのだった。
男体神社登山口から眺める男体山
長福分岐から急な登山道を下っていくと男体神社の手前に出た。安全に下山できたのを感謝して神社にお参りした。男体神社の鳥居をくぐると舗装道路に出た。登山口から見上げた男体山山頂の右側に権現堂が建っているのが見えた。あそこから降りてきたのだ。
トタン柵で囲まれた大豆畑
舗装道路に出ると左折し、上小川駅に向かった。野生動物の侵入を防ぐためにトタンで柵が作られていた。イノシシ対策だろう。栽培されていたのは収穫間近の大豆だった。半年間育ててイノシシに与えるほど農民はお人好しではない。
イノシシの糞のなかには硬いギンナンの実が残っていた
イノシシが土を掘り返した跡を度々見たが、大量の糞も道に落ちていた。その糞を確認するとギンナンの実がたくさんあった。ギンナンの殻は硬いので消化されずに、そのままの形で糞の中にあった。北の国から渡ってきたジョウビタキがヒンヒン泣きながら枝から枝へと渡っていた。足元には微かな風に揺れている野菊の白い花があった。
微かな風に揺れる野菊の白い花
JR上小川駅に到着した。予定登山時間は5時間30分だったが、実際は5時間だった。今回は岩場や鎖場があり緊張を強いられる健脚コースを選ばず、のんびりと紅葉を眺めるために一般コースを選んで登った。駅前の酒屋に入り、土産として地酒の「久慈の山」と「霊水八溝」を買い、乾杯の缶ビールを買った。電車が来る20分間で服を着替え、登山が終了したことにひとり乾杯を挙げた。
季節外れのアジサイが咲いていた
今年の前半は四国遍路や空海に関連する本を読んでいたが、後半は山岳遭難に関連する本を読んでいる。昔から私の登山の大半は単独登山である。50年になろうとしている山との付き合いだが、これまで地域の山岳会には一度も所属せず、登山の関連書で独学し、それを参考に実践で培ったものである。単独登山のリスクは遭難に関することであり、計画段階から十分注意しながら登山を進めている。それでもヒヤリハットは思わぬところに潜んでおり、それらをクリアしながらこれからも山旅を楽しんでいこうと思う。
始まった紅葉
今朝の東京新聞の「道楽行楽ガイド」に紅葉情報が載っていたが、袋田の滝近くの常陸太田市の竜神峡の紅葉の見ごろは11月中旬から下旬と出ていた。今回は紅葉時期としては半月早いかと思ったが、私の次の予定の関係で今日のトレッキングとなった。紅葉も始まりだしたばかりだったが、それなりに楽しむことができて満足の旅となった。JR上小川駅からJR幕張駅まで水戸・柏・船橋の3駅で乗り換えて約4時間の電車旅で帰宅したのは夜の8時半だった。2日後に満月となる月もずいぶん大きくなり、足元を照らす明かりも強く感じられた。