秘湯中の秘湯、ネパールのジヌー温泉に入りに行く
やっぱり温泉だよ
ネパール・トレッキングの最終目的地であったアンナプルナ・サンクチュアリで素晴らしい景色を堪能した「なんちゃって登山隊」はポカラに戻る途中のジヌーダンダという場所で宿泊することになっていた。トレッキングも終盤に移り9日目のことである。ダンダというのは尾根という意味で文字通りに訳せばジヌーという名の尾根にある宿泊所に泊まったわけだが、昔からの温泉宿泊地で宿屋が5〜6軒建っていたようだ。私たちは『ジヌー・ゲスト・ハウス』という2階建ての宿舎に宿泊した。1階の部屋に荷物を収めると早速ポーターさんたちを含めみんなで温泉に入りに行った。
案内板には温泉まで15分と書かれていたが、温泉は宿泊所から見るとはるか下を流れる川沿いにあるため、下りで30分、上りで40分というのが実際にかかった時間だった。温泉は男女混浴の露天風呂であるために水着着用であることが旅行前の最終説明会で話されていた。実際、宿屋の前で店を開いている土産物屋でも水泳パンツが1枚300ルピー(300円)で売られていた。私と同室の本多さんは水泳パンツを持参しなかったので、その土産物屋で購入していた。
宿屋から山道を下っていくので水着を付けた上に着替えを持って登山の格好のまま川沿いまで降りて行った。途中に料金所があったので立てかけられていた料金表を見ると外国人は50ルピー、他地域のネパール人は10ルピーと書かれていた。あとから聞くと地元の人は無料とのことだった。料金受取人はチケットを発行していたが、明るい時だけの徴収なので早朝や夜間は無料となるとのことだが電灯設備もないので暗い時間に入浴にくる登山者はいないだろうと思われた。
温泉管理人のおじさん
温泉場所に降り立つと川の流れは思ったよりも急で水量も豊富だった。その流れの脇に蛇籠の堤防で囲われた露天風呂が2つあった。浴槽と浴槽の間が洗い場となっており3本の筒から温泉が流れ出していた。浴槽の大きさは5m四方の箱型をしており温泉プールのような感じだった。2個ある浴槽の上流部の浴槽に私たちとポーターたちが入浴し、下流部の浴槽には欧米人の方たちが入浴していた。私はカメラを持参していたので温泉全体や山仲間を写していると手ぬぐいを被ったおじさんがやってきて写真を写してやるからカメラを貸せとゼスチャーで話してきた。初めは誰なのか分からなかったがカメラを渡して写真を撮ってもらったあとで、おじさんは温泉の管理人であることが分かった。一応、公衆浴場なので何かあった時のために管理人として滞在しているらしかった。入浴を済ませておじさんの写真を撮ってもいいかと尋ねると人のいい笑顔で了解してくれたので取らせてもらった写真が上に掲げたものである。
脱いだ服は適当に蛇籠の上にまとめて置いておき、温泉を出たあとは入り口に布が一枚垂れ下がっている2畳ほどの囲みで水着を着替えることになっていた。この囲みは隣り合わせで2個有り、一応男女別という形になっている。温泉は無臭の透明泉で温度は人肌よりも少し暖かい温度だった。トレッキングをスタートさせてから身体はお湯で拭いてはいたものの9日間も一度も風呂に入っていなかったので私たちはみな喜んで温泉に浸かっていた。
今回お世話になった西遊旅行社添乗員の堤さんに尋ねると、堤さんは今回で4回目の入浴になるが、最初の頃は川沿いに露天風呂があるだけで脱衣所もなくもっと素朴のものだったが、その頃に比べて脱衣所の小屋が建ち、浴槽も大きく整備されてきているとのことだった。温泉設備は一見粗末とも思えるが山旅の温泉と考えれば充分至極の時が味わえた秘湯中の秘湯である。日本の山旅で味わう温泉の中でも脱衣場もなく温泉が湧き出した脇に温泉の立札のみが立っている場所もあるので、それから比べればジヌー温泉は十分な設備を備えているとも言えるのである。私の記憶に残る温泉入浴でもあった。