大月市秀麗富嶽12景の奈良倉山へ
奈良倉山1349mの山頂
10月2日 日曜日 快晴
山梨県大月市と小菅村の境界線に奈良倉山1349mがある。山頂からの富士山の眺めが素晴らしいので、大月市選定の秀麗富嶽12景の5番に選ばれている。天気予報を確認し日帰り登山に出かけた。上野原駅前のバス停でバスを待つ間に、山の会の年配の女性リーダーと話すと、10人で奈良倉山に登る予定でやってきて、メンバーには遅れないように連絡しておいたが私だけが遅れてしまった、と恐縮していた。年配の女性ばかりの山の会だった。
JR上野原駅(写っているバスに乗って登山口へ)
奈良倉山の登山口である鶴峠に降りた登山者は想ったよりも多かった。バスの運行が土日だけということもあって、大型バスの座席は全て埋まり立っている人もいた。その多くは60代70代の年配者で、7割は女性登山者だった。どこでも女性は元気だ。10時に奈良倉山に向かって整備された登山道をゆっくり歩き始めた。私の先に短パン姿の登山者が歩いていた。
整備されている登山道
標高をあげていくと、登山道は植林されたスギ林の中の鬱蒼とした薄暗いなかから明るいカラマツの林へと変わっていった。登山道の脇には鹿からの食害を防ぐ網が張られており、植林されたばかりのカエデには円筒の金網が張られていた。歩いている登山道は多摩川源流トレイルランコースに指定されているようで、度々そのコース案内の表示が目についた。トレイルランコースに指定されているということは、一般的なハイキングコースともいえるので、多くの人たちが奈良倉山へと登っているのだろう。歩いているとコガラのジュクジュクした鳴き声が届いた。空は雲ひとつなく晴れ上がり、山頂から素晴らしい富士の姿が見られることだろう。
登山道にはたくさんクリの実が落ちていた
サクサクという落ち葉を踏む音を聞きながら静かな登山道を登っていくと、ジャージャーというカケスの鳴き声が耳に届いた。やがてナラ、クヌギ、クリの落葉広葉樹の林へと変わっていった。登山道はドングリやクリの実が夥しい数で落ちているのだった。山栗は実が小さいので拾う人は殆どいない。リスやイノシシのご馳走なのだ。イノシシが土を掘り返した跡があちこちに見られるようになった。クリの実の中身を綺麗にほじくって食べた殻も落ちていた。きっとリスが食べたのだろう。雪で覆われるまでの2カ月が野生動物にとっては秋の恵みの食べ時なのである。
奈良倉山山頂からの富士山の眺め
私はクリの実を拾いながら歩いていたので、ズボンの右ポケットがいっぱいになった。やがて斜度がゆるやかとなり、木々が生い茂る奈良倉山の山頂に着いた。山頂から富士山が見える素晴らしい景色を期待していたが、意に反して山頂は広葉樹に覆われていたのだった。期待を裏切られて気落ちしたが、山頂から50mほど左に展望所があった。展望所に行くと富士山の裾野まで左右完璧に見える絶景だった。素晴らしい。あいにく富士山は逆光のため、薄い青のシルエットとなっていた。山頂で登ってくる登山者を待っていると、60代と思われる男性登山者がやってきたのでスマホのシャッターを押してもらった。本当に雲ひとつない登山日和に最高の景色を見られて満足だった。クリの実を拾いながら歩いてきたので、標準タイムコースよりも山頂への到着が少し遅れていた。行動食のジェル状エネルギー飲料とプロテイン飲料を飲んで松姫峠に向けて歩を進めた。
松姫峠の大菩薩連嶺と小金沢連嶺の案内板
松姫峠までは砂利の敷いてある林道歩きだった。左側に奥秩父の峰々を眺めながらゆっくりと歩いていった。松姫峠には予定よりも10分早く着いた。松姫峠までは車で入れるので、狭い駐車場には5台の車が駐車しており、大型バスも1台停まっていた。大菩薩連嶺と小金沢連嶺の案内板が立っており、いずれも昨年歩いた峰々である。雲ひとつなく晴れあがっているので、案内図と実際の景色を合わせながら、奥秩父の峰々を望むことができた。
登山道は明るい広葉樹の林だった
松姫峠からは大菩薩峠・牛ノ寝通り方面への登山道に入っていった。登山道はブナ、クヌギ、クリの木々が立っている明るい広葉樹の林だった。こちらの登山道にもクリの実がいっぱいに落ちていた。また、ボタンボタンと実が落ちる音が聞こえてきていた。すでに十分にクリの実は拾ってあるので、音を聞くだけで登山道を歩いた。落ち葉を踏む音が心地よく耳に届く静かな山道だった。行き交う登山者はおらず、秋の木漏れ日を浴びながら、風ひとつない静かな道を歩いて行った。
明るい鶴寝山1368mの山頂
大菩薩峠・鶴寝山コースと大菩薩峠・ニリンソウコースの分岐点に着いた。私は鶴寝山を登っていくコースを選んだ。この道もクヌギ林の中の明るい道であり、カエデも生えているので、もうしばらくたつと綺麗な紅葉の林となるだろう。尾根についた登山道はほぼ水平で歩きやすかった。鶴寝山山頂1368mは明るい山頂だった。山頂の南側の木が伐り払われており、雄大な富士山が望めた。木のベンチが2つ置かれており、富士山の絶景を眺めながら休むことが出来た。この場所でも富士山は逆光となっているため、薄い青のシルエットとなって浮かび上がっていた。ひとりだけの山頂なのでセルフタイマーをセットして写真を撮った。行動食のソーセージを食べながら青い富士山を眺めた。
巨樹の森は全て広葉樹の大きな木だった
大ダワの分岐に向かって登山道を歩いていると、左手に篭を持った人が登ってきた。「キノコ採りですか?」と尋ねると、「今年は想っていたキノコが少なくて、他の種類のキノコがたくさん取れました」といって7分目くらいキノコが入った篭を持ちながらニコニコして答えてくれた。広葉樹のクリやナラやクヌギの林なので、その木が好きなキノコが育つのだろう。登山道には相変わらずクリの実がいっぱい落ちているが、やがて巨樹の森へと入っていった。周りは全て広葉樹の大きな木である。素晴らしいと思った。こういう木は伐らずに、木の寿命がきて倒れるまで、何百年とそのままにしておいた方がいいと想った。この辺りの登山道は分かりづらく、微かにへこんでいるような所を歩いていった。
放棄されたワサビ田の石垣が目についた
下山口の小菅の湯への大ダワ分岐に着いた。2人の若者が休憩していた。若者は小菅の湯から登ってきて、これから私が歩いて来た山の中に入っていくようだった。山に入るのには時間的に遅い感じがしたが、簡単な挨拶をして小菅の湯へ下って行った。登山道が整備されており歩きやすかった。沢まで降りてくると、放棄されたワサビ田の石垣が目につくようになった。ワサビ田を作る人たちも高齢化によって放棄したのであろう。その沢に沿って随分降ってくると、網で囲まれた現役のワサビ田があった。ワサビ田にワサビが育っているのがよく分かった。網は獣除けの意味もあるだろうが、人間からの盗難を防ぐ意味もあるのだろう。小沢地区に入る手前で案内板に沿って右に折れて小菅の湯に向かった。日曜日なので温泉は混んでいることだろう。
ひと風呂浴びたあとはビールで乾杯
予定時刻よりも30分早く小菅の湯に下山した。温泉は少し白く濁っており、肌にまとわりつくような感じがした。ひと風呂浴びたあとは食事処に入りビールで乾杯だった。もちろんビールはサッポロビールだ。つまみにヤマメの塩焼きを頼んだら全て売り切れだった。仕方がないので、ヤマメの唐揚げ、ざるそば、キャラわさびを頼んだ。お昼ご飯の時間帯を過ぎていたので食事処は空いており、静かでのんびりできた。
鶴峠〜奈良倉山〜鶴寝山〜小菅の湯のコースデータ
私は3月に左脚腰を痛め、3月中旬に嵯峨山に登って以降、山には登っておらず、リハビリの毎日だった。登山をしたのは実に半年ぶりだった。登山の途中で左脚腰の痺れと痛みが出た時のことも考えたが、最近の脚腰の状況から大丈夫だろう、と判断しての登山だった。標準コースタイムよりも少し早いイメージ通りの登山ができて満足だった。今回、奈良倉山に登ったことにより、大月市選定の秀麗富嶽12景のうち11景を登ったことになり、残りは1番の雁ヶ腹摺山と姥子山となった。この山は奥深いところにあり、片道5時間かかるので登山ルートを考え中である。
小菅の湯
15時48分の小菅の湯発の上野原駅行きの富士急バスに乗った。強い日差しの太陽がまもなく山の影へと消えていきつつあった。まだ木々は色づいていないが、コスモスのピンクの花が微かに揺れているのを見ると秋を感じさせた。