長沢背稜を縦走する その1

天目山から酉谷山へ

 

森の中に立っている男性

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天目山(三ツドッケ)1576mに着いた

 

10月12日 土曜日 晴れ 1日目

やっと秋晴れがやってきた。普段は人混みを避けて平日登山を行っていたが、今回は天候との関係で、あえて土日祝日の3連休を東京都と埼玉県の県境に位置する長沢背稜の天目山・酉谷山・長沢山・雲取山を2泊3日の避難小屋泊で縦走する計画を立てた。今回の山旅の目的は、山々を彩る落葉広葉樹の紅葉を眺め、下山後の温泉を楽しむことにあった。今回のルートは土日祝日といえども、奥多摩でも最も山深いマイナールートなので、人にもあまり会わない静かな山旅となるだろうと想った。

 

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避難小屋利用の2泊3日長沢背稜縦走計画

 

自宅で簡単な朝食を済ませて家を出ると、空にはたくさんの星が瞬いており、今日の晴 天を約束していた。幕張駅発5時15分の電車に乗り、御茶ノ水駅・立川駅・青梅駅で乗り換え、奥多摩駅に着いたのは8時12分だった。駅前の1番線は紅葉を狙っての川苔山登山口行きバスは満杯で、臨時バスが出る状態だった。2番線の奥多摩湖や雲取山登山口がある西鴨沢行きバスも満杯で、乗れない人が乗車口に溢れる状態で、こちらも臨時バスが次々に出発するのだった。私は1番線で定刻の8時35分発の東日原行きにバスに乗った。乗客は24人で、途中の川乗橋で10人が降り、他は終点の東日原バス停で降りた。

 

本の表紙

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危険!!『クマ』出没注意の看板

 

私が今日歩くのは天目山(三ツドッケ)から酉谷山避難小屋までである。天目山は昨年12月に横篶尾根を登って山頂まで行ったことがあるので、歩くコースは知っていた。今日の宿泊予定の酉谷山避難小屋は、天目山から更に2時間30分ほど都県境尾根を歩いたところにある。登山口には昨年はなかった『熊注意』の新しい看板が立っていた。周りの木々は殆ど色づいていなかった。私は左手首にクマ鈴を付け、右手に鈴がついたトレッキングポールを持ち、まるで巡礼姿のようだった。道標に沿って幅1mほどの登山道を登りだすと、足元にハナカイドウのピンクの花が優しく咲いていた。

 

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こんな場所に入る人などいるのかな?

 

3軒目の廃屋を過ぎると、東京都水道局日原第2排水場があった。立ち入り禁止の表示がされ、鉄骨の柵には厳重に鍵がかけられていた。ちょっとやそっとでは入ることのできない物々しさだが、こんな場所に入る人などはいないだろう。さらに登っていくとイノシシのヌタバがあった。里山のこのあたりは既にイノシシの天下なのだ。

 

森の中の木

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鉱山施設につき「立入禁止」の看板

 

植林された薄暗いスギ林のなかの道をつづら折りに登っていくと、やがて奥多摩工業株式会社氷川鉱山の金網フェンスが出てきた。金網には鉱山施設につき「立入禁止」の看板が貼ってあり、金網のなかは広葉樹林のために明るかった。林床に光が入るために草も元気だったが、紅葉はまだ始まっていなかった。

 

山道にはドングリの実やクリのイガがたくさん落ちていた

 

山道にはドングリの実やクリのイガがたくさん落ちていた。山栗はとても美味しいのだが、粒が1cmと小さいので、料理をする前に皮を剥くのが大変なのである。明るい落葉広葉樹の林は日が差して気持ちが良かった。遠くからカケスのギャーギャーと鳴く声が届いた。これからの長い山旅を激励されているようだった。登山口では耳に届いていた渓流の音も消えてしまった。山道に度々獣の足跡が目立つようになった。このあたりは獣たちの縄張りなのだ。ドングリが落ちる音が絶えず聞こえるが、その他はただただ静かな山道である。

 

茂みの中を歩いている

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度々イノシシのヌタバに出会った

 

NHKのアンテナがあるところで3人の方が休んでいた。その3人の方は山道を巡回しながら整備しているとのことだった。「どこまで行くの?」と尋ねられたので「天目山に登ったあと酉谷山まで行きます」と答えると「すごいねぇ。一杯水の小屋からも2時間以上かかるからねぇ。小屋泊りだろう? 小屋に泊まったあとはどうするの?」「雲取まで行きます」と答えると、「雲取まで・・ それも長いねぇ。滝谷、水松、長沢を通って雲取だからねぇ」「雲取からは三条の湯を経由して、お祭りまで下ります 」と答えた。「すごい健脚だねぇ。私らもあっちはあまり歩かないからね」「ぼちぼち歩いて行きます」 というような話をして別れた。3人とも50〜60歳代ぐらいで、山歩きをしているだけに日に焼けていて快活だった。

 

10頭ほどの野猿の群れに出会った

 

横篶尾根の滑落注意区間でひとりの男性に出会ったので挨拶をしたが、無視されて無言で行ってしまった。ま、色々な人がいるので気にはしないけれど、挨拶くらい返してもいいと思うのだが。横篶山の手前で鋭いギャギャーというような叫び声が耳に届いたので、何だろうと声が聞こえた方向を見渡すと、10頭ほどの野猿の群れだった。サルたちは私を見てもさほど驚く様子もなく、平然と餌を探して歩いていた。最近の野猿は人間を見ても平然としているのが多いように感じる。横篶山を過ぎたところでトレイルランナーに出会った。こんな危険なルートをわざわざ走らなくても、練習コースはいっぱいあると想うのだが、色々な人がいるものだ。走っていてバランスを崩して滑落すれば、ハイそれまぁ〜でよ、だからね。

 

森の中の家

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一杯水避難小屋では3人の方が食事を摂っていた

 

12時に一杯水避難小屋に着いたので入口ドアを開けると、小屋のなかで3人の方が食事を摂りながら休んでいた。私は挨拶だけして天目山に向かった。天目山の登り口は小屋の裏側にあるのだが、踏み跡を間違えて右側にズレてしまい、GPSを頼りに正常なルートに戻り、小屋を出てから30分後に天目山の山頂に着いた。山頂にはひとりの女性がいたので、スマホのシャッターを押してもらった。周りは俄かにガスが湧いてきて、景色が遮断されつつあった。富士山も残念ながら雲に隠されていた。女性とは空模様の話をして別れた。

 

森の中を歩いている

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ハリネズミのようなトゲトゲの形をした白いキノコ

 

酉谷山避難小屋に向かう縦走路は、殆ど平な歩きやすい道だったので、のんびり歩けた。ハリネズミのような形をした白いキノコが2個あった。上の方が大きく5cmぐらいで、下の方は少しピンクがかった3cmくらいの大きさだった。どうしたらこのようなトゲトゲのキノコになるのか不思議だった。こんな形のキノコなど見たことがなかったので印象に残った。

 

草の上に座っている男性

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山に自生する大きなシイタケ

 

更に進むと50歳くらいのキノコ採りの男性に出会った。話してみると、男性は毎週のように山に入っており、2週間前はマイタケの大きいのを3個穫ったが、もうマイタケは終わったので、今日はシイタケの大きいのを穫った、とのことだったので見せてもらうとビックリ。男性の手の掌の大きさで、潰れたアンパンのようだった。味を尋ねると、「このままだと乾いていないので、味は薄く香りもしない」とのことだった。途中で出会ったハリネズミのような丸いキノコについて尋ねると、「それはテングタケ系のキノコです」との答えだった。

 

レンガの壁の家

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小さな酉谷山避難小屋

 

天目山から2時間30分ほど歩き、酉谷山分岐から避難小屋に降りていった。小屋の外壁に吊るされた寒暖計は12℃だった。避難小屋は小さいもので、5〜6人程度の収容だった。ドアを開けると30歳代と想われるひとりの男性が、板の間にシュラフを広げて自分の寝場所を確保していた。小屋のなかには断熱銀マットと毛布が3枚あった。私も断熱銀マットを持っていたが、小屋のマットと毛布を借りて2重にした。このおかげで夏用のシュラフでも睡眠は十分にとれたのだった。

 

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到着した時の気温は12℃だった

 

先着していた男性と話し込んでみると、男性は中央線沿線に住んでいる独身の会社員で、奥多摩を中心に毎週のように山に登っているとのことだった。今回は、まだ登っていなかったタワ尾根という破線のバリエーションルートを何度か間違えながら登って来て、明日は初めての天祖山ルートを降りる、とのことだった。

 

森の中を歩いている

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歩きやすい縦走路だった

 

私の海外トレッキングや北海道から鹿児島までの日本各地の山の体験や、日本縦断てくてく一人旅の体験などを話すと、彼はただただ感心するばかりだった。私は焼酎の水割りを飲みながら、ふたりで2時間近く話していたのだが、男性の受け答えや所作を見ていると、素直な人だと感じた。彼は写真が趣味のようで、翌朝の日の出の空のグラデーション変化を三脚を使いながら、一眼レフカメラのタイムラプス機能で撮影していた。

 

マップ

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1日目の登山活動データ

 

私は今回の避難小屋利用が、平日と違い連休中だったので、満員の場合も考えてザックのなかに簡易テント(ツェルト)を用意していったのだが、結局はふたりだけの宿泊だった。シュラフに入ってからドアの外で足音と話し声が聞こえていたが、なかなか小屋に入ってこないので、何をしているのかな?と考えているうちに眠りに落ちていった。結局、朝になって目覚めても、小屋にはふたりのほかは誰もいなかった。

 

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