長沢背稜を縦走する その3
雲取山からお祭りへ
3日目の朝も素晴らしい日の出だった
10月14日 月曜日 晴れ 3日目
4時半ころに小用で外に出ると昨夜に続き満天の星空で、小屋の外壁に吊るしてある寒暖計を確認すると気温は4℃だった。昨日の夕方、鷹ノ巣山避難小屋まで降りていったふたりの若者は無事に着いただろうか?
5時ころになると東の空が朱色に輝きだした。5時半に再び外に出ると、まだ朝日に照らされていない青黒い富士山が見えた。
雲海上に端正な富士の姿があった
山梨県側の山頂で、ふたりの若者が日の出を待っていた。やがて6時直前に東の空の朱色が薄くなり、雲海の上部がオレンジ色の輝きを一段と強めると、朱色の太陽が徐々に見え出し、富士山の岩肌が赤く染まっていった。山頂にいたふたりのうちひとりは、日の出を眺めながら朝食を摂っており、もうひとりはカメラで録画を、スマホで写真を撮りまくっていた。彼は三条の湯のテント場を夜中の2時にスタートし、3時間で山頂まで登ってきたが、登りの厳しさに途中で何度も山頂までいくのを諦めようか、と考えたという。
日の出に感動し写真を撮りまくっていた若者
今朝も綺麗な朝日を拝むことができ、気分も爽快である。このような日に下山しなければならないのは誠に残念である。今日歩くコースは三条の湯まで降り、林道を歩いて山梨県の「お祭り」バス停までの7時間のコースである。
三条だまりは絶好の富士の展望地だ
6時過ぎに避難小屋から三条の湯に向かって針葉樹林のなかを降り出した。30分ほど降りると三条だまりに着いた。ここは奥秩父主脈縦走へ向かう道と、三条の湯へ降りる道の分岐点となっている。正面には青い山なみのグラデーションの彼方に雲の上に姿を出した秀麗な富士山が望めた。三条だまりは富士山の絶好の展望地なのだ。この地点まで降りてくるとスマホの電波が届いたので、ラインやメールの確認をしていると、山頂で日の出を撮影していた若者が降りてきた。彼はテント場でテントを撤収したら、すぐに下山すると言いながら三条の湯に降りていった。
最初は歩きやすい山道だったが・・・
分岐点から三条の湯へ向かって水無尾根を降りていくと、しばらくはブナやミズナラなどの落葉広葉樹や笹原のなかを降りるなだらかな歩きやすいコースだったが、それを過ぎると幅30cmほどの細い道となり、傾斜が厳しく桟道や崖崩れが度々出てくる危険な道が1時間ほど続いた。常に左側は深い谷で、躓き転倒すれば谷底まで真っ逆さまに落ちていく状態だった。実際に下りで事故が起きたと、登山地図に添付されているコース案内に書かれていた。
度々土砂崩れ区間を通過した
1日目に登った横篶尾根も危険な山道だったが、滑落危険区間はそれほど長くはなかったし、山道が硬くしっかりしていたが、こちらは足場が軟弱で湿っており、特に下りは足元のはるか下まで見えるので、穂高連峰の岩場の高度感とは違った緊張感だった。慎重にゆっくり降りて行った。雲取山に奥多摩側から登り降りする場合は、三条の湯コースを使わずに、石尾根の七ツ石山コースや鷹ノ巣山コースを使った方が安全だと実感した。
落石・土砂崩れ注意の看板
9時50分ころに三条の湯を通り越して林道へと続く道へ出てしまった。新しく出来た道を降りていった結果なのだが、山道を間違えたとは思えなかったし、若い外国人にも追い抜かれたので登山道としては合っているはずだった。三条の湯へ戻る理由もないので、そのまま下山口の「お祭り」バス停に向かった。帰宅後にコースの詳細を確認すると、三条の湯やテント場に寄らない登山者のために、崖崩れのトラバース通過や三条沢に架かる橋が壊れているため、徒渉をしない安全なルートを作ったのだろうと判断した。
アサギマダラが飛んできた
10時30分に後山林道の終点まで降りた。ここからバス停まで10kmとなり、2時間30分の単純な林道歩きとなるのだった。後山川の流れに沿って林道を歩いている途中で、ひらひら飛んでいるアサギマダラが目についた。そのアサギマダラが眼の前に飛んできて、1m先の枝に留まったのだった。10月には南に向かって数千kmの旅に出るはずだが、まだ奥多摩にいるのは今年の夏は気温が高すぎたので、南に飛びたつには早いのだろうか。西日本の山口、広島、愛媛などでは、南の海を渡るアサギマダラが続々と集まっているとのことだ。
清らかな渓流を見ながら林道を歩いた
そのようなことを考えながらバス停の通過時刻から逆算し、登山地図のチェックポイントを確認しながら歩くペースを調整した。少し駆け足気味に林道を歩いたこともあり、バス通過時刻の20分前に雲取山・飛龍山登山口に降りた。お祭りバス停は歩いて3分のところにあった。雲取山頂避難小屋を出発してから6時間30分の歩きだった。
雲取山・飛龍山登山口に降りた
バス停にはお母さんと中学生くらいの娘と、山頂で日の出を撮影していた若者がいた。若者はザックの荷物を整理していたので話してみると、三条の湯に貼ってあったバス時刻表が夏ダイヤのもので、10月1日からの冬ダイヤに変更されており、タッチの差で下山後に行こうとした『道の駅たばやま』に併設する「めんこい湯」方面のバスが通過してしまったとのことだ。バス停からめんこい湯までは車道を6km歩かなければならず、ガックリきているところだった。それでも若者はザックの整理を終えると、6kmの道を歩き出したのである。頑張れ若者!
「もえぎの湯」に入って山旅の汗を流した
私は奥多摩温泉「もえぎの湯」に入って山旅の汗を流すため、奥多摩駅までバスで戻って温泉に向かった。今年の4月21日にリニューアルオープンした温泉は、洗面台と洗い場が新しくなっていた。露天風呂にゆったり入り、足腰のマッサージとストレッチを丹念にした。
地元の料理と地酒を楽しんだ
3日分の登山の汗を流したあとは食堂に入っていっぱいだった。頼んだのはキリンクラシックラガーの瓶ビール、奥多摩の地酒サワガニ印の清酒澤乃井の300ml、つまみは鮎の一夜干し、根っ辛ソバの冷やしだった。ビールが渇いた喉に喜びを与えた。澤乃井は、若い時に酒蔵を訪ねたこともあり、一時期は集中して飲んだ酒だった。山旅は楽しいものだ。
3日目の登山活動データ
今回は長沢背稜に位置する天目山から雲取山までを2泊3日で縦走したのだが、以前に瑞牆山から雲取山までの奥秩父主脈縦走を行っているので、今回の縦走で瑞牆山から天目山までが繋がったのである。すでに鳩ノ巣駅から川苔山までは歩いているので、残すところは天目山から川苔山の区間となった。その区間を歩けば、鳩ノ巣駅から瑞牆山までの奥多摩から奥秩父主脈を繋ぐラインが完成するのである。来月にでも避難小屋1泊で歩こうと考えている。