南八ヶ岳縦走
観音平〜編笠山〜権現岳〜赤岳〜横岳〜硫黄岳〜赤岳鉱泉
権現岳と後方には雲海上に富士山が望める
八ヶ岳連峰は、北は蓼科山から南は編笠山まで南北20数キロに渡って伸びる連峰であり、中央に位置する夏沢峠で北八ヶ岳と南八ヶ岳とに分けられる。この八ヶ岳連峰を北と南の2回に分けて縦走しようという話が98年の夏山登山の中で出た。
昨年、99年に北半分を縦走し、残りの南半分を今年の縦走予定で計画したものである。南八ヶ岳は北八ヶ岳の緑の多い穏やかな山容とは異なり、赤岳を主峰に権現岳、阿弥陀岳、横岳、硫黄岳の急峻な岩壁が連続するアルペンムードたっぷりの山容をしている。
JR小淵沢駅からタクシーに分乗し観音平登山口で下車。身支度を終えると編笠山山頂を目指して針葉樹林の中を登り始める。昨年、八ヶ岳連峰の北半分を縦走しているので今回は南半分の縦走である。今回のメンバーは9人。おなじみのポパイ・吉原、ヌーボー・沼沢、二枚目・米山、ドラえもん・光永、ヒゲおじさん・福王子、哲学者・山下、若者1・石黒、若者2・碓井、それに私である。
観音平を出発したのは10時半頃で途中の押手川分岐で一休みし、編笠山山頂に着いたのは14時過ぎであった。期待していた眺望は得られず2524mの編笠山山頂はガスの中だった。山頂は岩・岩・岩で覆われていた。
編笠山はどこから見ても直ぐに分かる美しい形をしている。時代劇に出てくる網笠の形をしているためこの名前が着いたと言う。山頂に20分ほど佇んでいたが一向にガスは飛びそうにないので宿泊予定の青年小屋へ向かう。
高山植物の女王と称されるコマクサ
2日目も天候は不安定だ。朝は雲ひとつなく晴れ渡り、富士山がくっきりと雲海上に姿を現している。何回見ても素晴らしい姿だと思う。お世話になった青年小屋に挨拶をし、権現岳に向かって登り出す。権現岳は青年小屋から見えており2時間弱で山頂に到着した。権現岳山頂も特異な形をしており、大きな丸い石の上に更に丸い石が立っているような形になっている。雲が動き出したが真上はまだ青空だ。
赤岳への縦走路は真っ直ぐ北に伸びている。源治梯子が突然現れた。61段の鉄製の梯子であるがガスのため下方は見えない。どこまでも続いているような錯覚を覚える長い梯子である。この梯子を降りるのが怖い。足が竦む。降りないと先へ進めないので仕方なしに降りていくが、2度と降りたくない梯子である。前回ここを通過した時は赤岳からの縦走だったので源治梯子は登りに使ったわけだが登りと下りでは恐怖感が全く違う。メンバー全員が一番怖かったのがこの源治梯子だと後の飲み会の時に感想を述べている。
キレット小屋に到着すると小屋の周りにはたくさんコマクサが咲いている。花壇のように石囲いしてある場所もある。コマクサは美しいピンクの花と針葉樹を思わせる小さな葉が密集しており高山植物の女王と言われているが、その成長は砂礫に根を深く伸ばす遅い植物である。従って登山者が花を見るためにコマクサに近づくと知らず知らずのうちに地中の根を切ってしまうことになりかねないのである。通常、コマクサの花はピンクの花であるが、極たまに白い花を見かけることもある。
赤黒い岩肌を出しアルペンムード一杯の主峰・赤岳
赤黒い岩肌を出しどっしりとした山容の赤岳主峰が眼前に望める。実に荒々しい山容をしている。2899mの赤岳山頂に到着した時は既に山頂はガスに覆われていた。この山頂でも昨日の編笠山山頂と同じく眺望は得られなかったが、ここまでの縦走路で十分に周りの景色は堪能できた。早速小屋前の広場で昼食に取りかかる。まずはビールで乾杯したあとインスタントラーメンを作り、青年小屋で作ってもらった梅干入りのおにぎりをほおばる。1時間ほど外で昼食兼の飲み会をしていたがガスは一向に晴れそうもないので場所を山頂小屋の食堂に移して飲みだす。
翌朝も上空は青空なのだが縦走予定の横岳から硫黄岳方向はガスの中であった。阿弥陀岳もガスの中にある。今回の八ヶ岳南部縦走の中で一番気を使うのは横岳から硫黄岳間の岩場の通過である。この区間での滑落は命に関わる重大問題となるのでガスの中を進むのは危険と判断し、一旦、行者小屋から赤岳鉱泉まで降りて、赤岳鉱泉にザックを預けて硫黄岳へ登りなおすコースに変更する。阿弥陀岳への登頂はカットした。降りだして行者小屋の手前まで来るとガスは飛び真っ青な大空が広がっていった。
大きな爆裂火口持つ硫黄岳山頂は広い
赤岳鉱泉から硫黄岳山頂に向けて針葉樹林の中を登りだす。ザックを預けてきて身軽なので早いペースで進む。たくさんのケルンが立つ広い硫黄岳山頂は360度の大パノラマが広がっていた。大きな爆裂火口は東半分が吹き飛ばされ崩れ落ちている。今でも崩落のため火口近くに近寄ることは危険だ。
しばらく360度の展望に満足したあと横岳に向かうが、途中、硫黄岳山荘の周りはコマクサがびっしり生えており駒草神社が祀られている。これは硫黄岳山荘の管理人が数十年もかけてコマクサを保護し増やしてきた結果である。
上空に雲は湧きだしてはいたものの2829mの横岳山頂からの眺めも抜群であった。赤岳頂上小屋からガスの中を横岳、硫黄岳と縦走せず、一旦、下に降りてから硫黄岳、横岳へと登り直す安全コースを取ったわけだがこれで良かったと思っている。私にとって一番大切なことは常にメンバーの体調を気遣い安全登山を心がけ山頂での素晴らしい景色に共に感動することである。
横岳山頂を後に硫黄岳から赤岳鉱泉に戻るとアンパンマン・丸橋がにこやかな顔で待っているではないか。彼は私たちの下山コースに合わせ美濃戸口から赤岳鉱泉まで迎えに来たのであった。その晩の飲み会は丸橋を加えて10人となり一層盛り上がった。
翌日は美濃戸の太陽館にお邪魔して山旅の疲れと汗を流し、ビールにウィスキーでの宴会に楽しい山の思い出が出来たことは言うまでもないことである。