白砂青松の南駒ケ岳へ
縦走コース:駒ヶ根高原〜千畳敷〜宝剣山荘〜木曽駒ケ岳〜宝剣岳〜濁沢大峰〜檜尾岳〜熊沢岳〜東川岳〜木曽殿山荘〜空木岳〜赤椰岳〜南駒ケ岳〜赤椰岳〜空木岳〜駒峰ヒュッテ〜池山尾根〜駒ヶ根高原
木曽駒ケ岳山頂での縦走参加メンバー8名
2005年、ミーハー・クライミング・クラブの夏山縦走は、8月27日〜30日の日程で山小屋に3泊し中央アルプスの山々を歩くものだった。参加メンバーは、ポパイ・吉原、ちびっこ・小沢、ランナー・坂本、エンジニア・小林、生真面目・山本、二枚目・米山、元気者・碓井、それにエイトマン・岩井の8名だった。
南海上で発達していた台風11号、12号は日本上陸を狙うかのように同時に北上していたが、12号は大きく東にそれ、11号が東京湾を横切り千葉市に上陸。その後、銚子から太平洋に抜けたのが出発前日の早朝だった。こうなればしめたもので天候回復は急速に進むことを確信し縦走出発点の千畳敷に向った。
私が千畳敷に来たのはこれで3度目である。1回目は足慣らしのために木曽駒ケ岳と宝剣岳に登って下山した。5年前のことである。2回目は今回と同様のコースで中央アルプスの山々を縦走した。4年前のことである。そして今回が3度目でMMCの仲間との縦走である。この縦走コースは距離としては短いのだが、そこはなんといっても3000m近い山々の縦走なので結構厳しい。特に2日目の宝剣山荘〜木曽殿山荘までのコースはアップダウンが激しく途中に水場も山小屋もないのである。
宝剣岳は規模は小さいのだが鎖が連続する立派な岩山である。今回の縦走コースで最も気をつけて行動する場所でもある。一歩間違えば谷底へ滑落し命の保障はない。私は参加メンバーに宝剣岳が最も危険な場所であることを伝えたつもりでいたが、参加メンバーは突然の鎖の連続に面食らったようであった。山頂には小さな祠が2つ建ち、360度の見晴らしは抜群であるが、一人が立てる狭い山頂の大岩に立ち上がる人はいなかった。足元がふらつき怖いのである。
登っては降り、また登りかえすという縦走路が南へと延びているのが遠望できる。縦走路の左手には湧きあがる雲海上に、南アルプスの山々のシルエットが連続している。鋸岳〜甲斐駒ケ岳〜千丈岳〜北岳〜間ノ岳〜農鳥岳〜塩見岳の山々であり、富士山もすっきりした山頂を覗かせている。南アルプスの東側には八ヶ岳の連続した山波が望め、上空は雲ひとつない青空である。こんな気持ちのいい縦走は久しぶりである。
立派な山容の南駒ケ岳
中央アルプスの山々は岩が白くサッパリしている花崗岩でできている。縦走路には砕けた岩が小さい砂礫となって白く輝き、時には雲母が陽にキラキラと光っている。白い岩肌と緑の這い松との対比がとても美しい。「白砂青松」とは美しい白浜と防砂林の松の青さの対比の美しさを称えた言葉だが、その言葉は中央アルプスの花崗岩の山々と這い松の美しい光景にも当てはまると思う。
縦走路の手前にある空木岳は深田久弥の『日本百名山』に挙げられ輝かしく光っている山であり、確かに山容も立派な山である。中高年者による百名山ブームがきて久しいが、その影響は南駒ケ岳にも現れている。どういうことかというと百名山の空木岳だけを目的に登る登山者が圧倒的に増えた結果、空木岳〜南駒ケ岳〜越百山という従来の縦走路に登山者が入らなくなり、南駒ケ岳〜越百山への縦走路が整備されることなく荒れてきているのである。コースの道標であるペンキ印は薄くなり、殆ど見えない道標が多くなっている。今後、コースを見失う登山者が現れないことを願うばかりである。
今回の中央アルプス縦走コースのなかに深田久弥の『日本百名山』に挙げられた山が2つある。木曽駒ケ岳と空木岳である。日本各地の山々の中から100の山を選定したのだから選に漏れた山々は数々あるけれど、南駒ケ岳は「南にある駒ケ岳」という名前でなかったら選ばれていたのではないだろうかというほど立派な山である。この山域で昔から地元の人々から称えられてきた山は空木岳ではなく南駒ケ岳である。空木岳山頂に祠は建てられていないが南駒ケ岳山頂には建てられている。現に私たちが南駒ケ岳に登頂した時、地元の人たちによって祠に飾られていたダンビラは真新しく、添えられていたツガの葉は青々としていた。
南駒ケ岳山頂と後方は空木岳
今回3泊した山小屋は、歴史ある宝剣山荘、建て替えた木曽殿山荘、地元山岳会が経営している駒峰ヒュッテである。3者3様でそれぞれの趣がある。
1泊目は人気の宝剣山荘であり、中高年登山者でごったがえしていたので食事のみ宝剣山荘で取り、宿泊は隣の天狗荘を希望しゆったりと過ごすことが出来た。電灯が20時で消えたので逆さ蛍のようにヘッドライトを点灯しながら酒盛りを続けたのは言うまでもないことである。
2泊目はプレハブながら内装はウッディで立派な木曽殿山荘である。久しぶりに大部屋での雑魚寝であった。勿論、夕食前は食堂でのビールとウイスキーでの宴会である。夕食は山菜混ぜご飯とおでんで美味かった。おかわりをして食べ過ぎ、食後の宴会は腹が満腹で進まなかった。夜は長い縦走の疲れのせいかグッスリ眠れた。
3泊目が今回のハイライトである駒峰ヒュッテである。山岳会のメンバーが交代で管理人として入っている小さい山小屋であるが、この小屋も建て替えたので真新しい。材料の材木は会員の山から切り出し、会員が建てたというログハウス風の小屋である。宴会は最初、縦走路が一望できるテラスで始まったが日差しがあまりにも強く、帽子を被っているとはいえ皮膚がじりじり焦げるようなので室内に退避し、夕食を挟み小屋の管理人を巻き込んで22時まで続いた。勿論、宿泊者が私たちのほかは3名と少ないことで他人に迷惑をかけないことを確認しての深酒であった。66歳の管理人はとても気さくでフットワークがよく、とても人間味あふれる人だった。