雨に降られた黒部源流紀行
薬師沢源流地域から水晶岳・雲の平・祖父岳を望む
8月31日から9月5日までの5泊6日の日程で高天原温泉と黒部源流を訪ねる山旅に、吉原、小沢、碓井、山本、小林、私の山仲間6人で出かけていった。メンバーは毎年夏山に出かける気心の知れた仲間だ。私は事前調査のため8月上旬にほぼ同一地域を歩いたのだが、1ヶ月の山の変化は激しく、あんなにも咲いていた花はすっかりなくなり、草木は黄ばみ、花は桔梗や麒麟草など完全に秋山の風情に変わっていた。
事前調査により、1泊目は太郎平小屋から薬師沢小屋に変更し4泊目も鏡平小屋からワサビ平小屋に変更した。私が企画する登山計画書は登山地図を参考にしているが、私たちのペースはそのタイム時間よりも常に短時間で行動している。しかし、山の地形やアップダウンは実際に歩いてみないとわからず、今回の変更点は同行した山仲間が一様に変更してよかった、という感想を述べていた。また、天候により縦走するコースも危険を避けるために迷わず変更していった。それは事前調査により縦走する地域の地形概念が私の頭に入っていたから出来た事でもある。
1番楽しかったのは温泉沢の流れの脇に作られた高天原温泉の入浴だろう。私たち6人が温泉場に着いた時、混浴風呂には男性登山者が一人入浴していた。男風呂にも一人入浴者がいた。私たちは入浴前に龍晶池の見学に行き30分後に戻ってきたが、二人の登山者はまだ入浴していた。混浴風呂は3人も入ればいっぱいになるので私は対岸にある男風呂に向かった。風呂に登っていくと入っていたのは女性である。一瞬???と思いながらも、「この風呂は男風呂ですよ。女風呂はあっちですよ」と話しかけると、「わかっています。どうぞお入りください。そちらが熱いですよ」と湯口を指差し悠然としている。私は「6人の仲間で入りに来たのですが・・・」と言うと、女性はやおら慌てだし隣の女風呂に移動しようと風呂から上がり、そのまま裸で坂を降り出す。そこに対岸の混浴風呂に入っていた男性登山者から「そろそろ出るぞ」と声がかかり、女性は登山服を着だしたのである。二人は夫婦のようだった。私は風呂に入って、そのやりとりを見ていたが、私の同行者は女性の裸を見てはいけないと思ったらしく背中を向けて混浴風呂の登山者を眺めていた。それにしても男風呂だと知っていて堂々と入浴している確信犯だった。
ひと風呂浴びたあとは川岸の石に腰掛け、ビールや日本酒を飲みながらの昼食宴会である。硫黄臭がしているが清流には岩魚が住んでおり人間を恐れずに悠々と泳いでいる。仲間が捕まえようとするが岩魚の方が素早く捕まえることができない。水中兼用のデジカメで見事な魚体をカメラに写したのを見たが結構大きな岩魚であった。
4日目、5日目は雨模様となったので雨ガッパを着ていることが多くなったが、逆にそういう天候だからこそ雷鳥に出会えたのもラッキーだった。4日目は祖父岳東斜面を降っている時に子連れの雷鳥に出会った。5日目は鏡平山荘から降ってくる黒百合ベンチの手前で出会った。雷鳥は立山では度々出会うことができるが今回の地域は全く異なる位置にある。こちらでも雷鳥が生存していたとは驚きだった。それにしても雷鳥という鳥は人間を恐れない鳥だと思った。日本山岳会が結成された頃の遥か昔の登山記録などを読むと雷鳥を捕獲して食べた記録が出てくるが、雷鳥はおっとりしている鳥なので簡単に捕まえることができると思う。保護鳥でなければ絶滅していただろうと思う。