上高地の休日

 

色づく白樺と明神岳

 

松本電鉄が運営している「さわやか信州号」という山岳地区への直通バスがある。今回はツアー名「上高地の休日」というのを利用し上高地に入った。内容は夜行日帰りの往復バス料金とお弁当がセットになり通常の往復バス料金より安いものである。

今回の目的は徳本峠からK1、K2を経て霞沢岳に登り新雪に輝く穂高連峰を展望しようというものである。タイムスケジュールは休憩時間を含まず、しかも通常より1.5倍早いペースで以下のように設定した。

 

10/22(金)新宿都庁大型バス停車場:23時発

     登り:5時間

河童橋---40---明神分岐---1:30---徳本峠---30---JP---2:20---霞沢岳

 6:20            7:00                 8:30           9:00           11:20

     下り:4時間

霞沢岳---2:00---JP---20---徳本峠---1:00---明神分岐---40---河童橋

11:30            13:30         13:50              14:50            15:30

10/23(土)上高地バスターミナル:16時発

 

バスターミナルには予定通り6時に到着した。低公害バスに乗換えた沢渡でバスの運転手が「外の温度は4度です」と言っていたので、そこより30分ほど走り標高1500mまで上がってきたので外温は更に低下している。素手が冷えていくのが分かる。

お弁当の手渡しが6時から行われる予定だが係員が到着せず10分ほど待って受け取り、黄色に色変わりした落葉松林の中を明神に向けて歩きだす。

 

日中は人人人でごったがえす人気スポット・河童橋は早朝のせいもあり人もまばらである。清流・梓の流れゆく先に頂に朝日が当たった焼岳がおむすびのようなずんぐりした姿を現し、上流小梨平キャンプ場の落葉松もすっかり黄色から朱色に色づき、その上に聳え立つ明神岳も朝日に照らされて赤黒い岩肌が徐々に明らかになっていく。岳沢から吊り尾根への展望も朝靄の中に姿を現し、紅葉真っ只中の景観を色鮮やかに浮かび上がらせ始めている。

 

明神分岐から白沢沿いに落ち葉を踏みしめ登っていく山道はとても静かで2216mの徳本峠までで出会った人は僅かに4人である。徳本峠は前回、6月に歩いた時は新緑に萌える若葉の中にあったが、今回は葉もすっかり落ちた晩秋の静かに冬を迎えようとしていた。徳本峠小屋の煙突からは一筋の煙が立ち昇り、小屋の中から話し声が聞こえてくるがテント場にはひとつのテントも張られてはいない。静かな徳本峠である。上高地を出るときは薄く晴れていた空もすっかり曇り、周りはガスのため展望がきかなくなってしまった。

 

霧の中に静かに佇む徳本峠小屋

 

さあ、スタジオジャンクション、ジャンクションピラミッド、K1、K2を経て霞沢岳への長い道のりへの出発である。このルートは暗い針葉樹の木々の中のアップダウンを1時間30分ほど繰り返さないと展望が開けてこない。周りは深い霧の中にあり、このまま進んでも穂高連峰の雄姿は見えないのではないか、途中で引き返し上高地散策と温泉に入ってビールでも飲もうか、という誘惑が頭をよぎる。だが最低でも10時まではこのまま進んで行こうと決め上り下りを繰り返していくうちに徐々に晴れ間が出始め明るくなっていく。木々の隙間からも穂高連峰の姿が垣間見られるようになっていった。

 

上り始めて30分ほど経ったときに下ってくる一人の登山者と出会うが、彼は展望のきかない霧の中で見切りをつけて帰ってきたのだろうと思う。皮肉なものでそれから30分もすると徐々に晴れ始めたのである。歩く登山道は3cmもある霜柱がいたるところに見受けられる。薄氷が張ってある水溜りもある。夜間は確実に0度を下回っているのである。6月に来た時は残雪の中で道に迷いながら歩いたところも全く問題なく歩いていける。いよいよK1の手前まで歩いてきたが、K1、K2、そして霞沢岳は全くのガスの中である。

 

雨の心配はないが天候が不安定であり雲の流れが速く穂高連峰の姿も出ては消え、消えては出るという状況である。時刻は10時を少し回ったところでありこのまま進んでもしかたないだろうと判断し、穂高連峰を眺めながら早めの昼食を摂ることにする。上高地バスターミナルで手渡されたお弁当を広げてみると、海苔巻きおにぎりが2つ、天婦羅、玉子焼き、鮭の焼きもの、キンピラ、お新香、が入っている。売店で買えば500円くらいはするだろうか。それを頬張りながら本日2回目の休憩を取る。1回目の休憩は徳本峠への登り道の水場でソーセージ1本の朝食時に5分間の休憩を取った。今回が2回目であるが、朝から4時間歩いてきて2回の休憩というのはかなり過激なスケジュールである。

 

奥穂高岳から前穂高岳への吊り尾根

 

お弁当で満ち足りた気分となり、霞沢岳へは今回も到達できなかったがこれで良しとして下山に取りかかる。写真を写しながらの下山である。徳本峠へ戻る途中でも4人の登山者と出会っただけの静かな山道である。朝は全く展望のなかった徳本峠からの眺めも奥穂高岳から西穂高岳への稜線は雲に包まれてはいたがまずまずの眺めであった。今晩は小屋泊まりになるのであろうか、徳本峠小屋前のベンチでは暖かい日差しの中で歓談しながら昼食を取っている中高年登山者の方たちが10人ほど見受けられた。小屋は11月上旬まで開いているがやがて訪れる冬とともに静かに眠りにつこうとしている。

 

峠から1時間で明神分岐まで降りてしまうがここは梓川沿いの道のメインルートであり、登山、ハイキング、観光それぞれの人たちが入り混じり、俄然賑わいを増す。今までの静かな山歩きとはさようならである。梓川沿いの道には三脚を設置したアマチュアカメラマンが大勢見受けられ、自分だけの光景を切り取ろうとしている。

私は小梨平キャンプ場の唐松林を抜け梓川沿いを歩き、岳沢の紅葉や柳、落葉松の黄葉を楽しみながら上高地温泉ホテルに到着したのは14時30分であった。朝から8時間の山歩きの行程は終了した。帰りは1度も休憩を取らなかった。疲れた足腰を揉みながら露天風呂に身体を浸し静かであった今日1日の山旅を振り返った。

 

清流・梓の流れと色づく落葉松

 

私の今年の山旅も来月の山梨への旅で終了しようとしているが、今回の過激な山旅の疲れと痛みが身体の節々に出だしたなかでこの文章を書いている。

 

                     2004年10月24日

 

戻る