爽やかな上高地

 

快晴の焼岳

 

 九州から北海道までが真夏日になった快晴の523日、標高1500mの上高地を訪れると空気が爽やかに澄み、半袖で歩ける絶好の行楽日和で、私にとっては今年初めての上高地訪問だった。今回の上高地訪問は、当初はバスセンターから明神まで歩き、嘉門次小屋の岩魚の塩焼きでいっぱいと考えていたが、4日前の三頭山ハイキングと翌日の農作業がきつかったのか足腰の疲れが抜けていないために中止し、大正池から田代池を経由し穂高橋を渡ったところで左折し焼岳登山口までの散策とした。その途中で山蕗を採取するという計画に変更したのだった。

 

 上野を出発する時から空は快晴であったのだが上高地に到着しても快晴は続いていた。落葉松や白樺の若葉が目に飛び込んでくる。足元には雪解けの水を集めて流れくだる梓川の畔にブルーの忘れな草が微笑み、目を上げれば明神岳から前穂高岳、奥穂高岳、西穂高岳へと連なる残雪の穂高連峰のスカイラインが素晴らしい。初夏の上高地の景色は何回見ても美しいと感じる。

 

 自然探求路を歩いていくと「クマに注意」の看板があちこちに立っている。最近のニュースでも山菜取りや根曲がり竹のタケノコ採りの人が熊に襲われて殺されたり怪我をしたりする事故が頻繁に放送されている。穂高橋を渡り左に折れると散策の観光客は全くいなくなり登山者の世界となる。焼岳登山口までの間で出会ったのは行きでは環境庁から委託を受けた外来植物についての調査員と単独登山者の2人、戻りでは大きな三脚をザックに担いだカメラマンらしき人と外国人の2人で合計4人のみだった。そのようななかで山蕗を採っていると、今なお噴煙を上げる焼岳から降りてきた外国人登山者が私を見て驚いていた。私は熊じゃあないって。

 

 焼岳登山口までで山蕗は十分に採れたので上高地温泉ホテル方面に戻ることにした。売店横の自動販売機で入湯料金800円のチケットを買い、売店の店員に手渡し2階の浴場へと上がっていった。浴室に入るとお客は誰もおらず貸し切り状態だった。さっそく露天風呂につかりゆったりとした気分に浸る。樋を伝わって流れ込んでくる源泉は熱い。ずっと手を当てていることは出来ない熱さだ。菅笠を被って写真を撮った。上高地温泉ホテルでは3本の源泉を引き込んでいることが温泉分析表に記されている。

 

上高地温泉ホテルの露天風呂でゆったり

 

風呂上がりに500mlの缶ビールを買い求め、外のベンチで若葉青葉と聳え立つ霞沢岳の岸壁を眺めながら喉でビールを味わう。実に爽快である。帰りのバスの出発時刻の30分前になったので、売店に入ってバス車内で飲む日本酒ワンカップ2本を買い求めると、売り子はフランス系カナダ人のミシェル君だった。碧色の瞳が輝いており、感じのいい青年で「日本語もっと勉強します」と言っていた。がんばれ、わかぞう!と思わず心の中で声援を送ってしまった。

 

 

熊注意を呼びかける看板と芽吹きだした落葉松林

 

 今回は猿の軍団に出合わなかったが、露天風呂から見上げるハート型の桂の葉が真黄色に染まる頃に再び温泉を楽しみに上高地を訪れようと思う。