雨の中に咲く花

 

007-化粧柳の白い綿帽子

風去りて 肩に残りし やなぎ花

 

 4月、5月に続いて今年3度目の上高地散策となった。今回の散策の目的は2つあった。第1は、化粧柳の真っ白な花が綿帽子となって舞うさまを見ること。第2は、天然温泉の露天風呂にゆったり入浴し湯上りのビールを楽しむこと、であった。

 

 6時30分に錦糸町公園前を出発した観光バスは東京駅横の鍛冶屋橋バス停で残りの乗客を拾い、一路上高地を目指して中央高速道路を下って行った。途中、談合坂SA、諏訪湖SAにトイレ休憩で立ち寄り、松本インターで高速を降りた時点でバスの運転手の交代があった。これより先は一般道を使って上高地を目指すわけだが、途中の「道の駅・風穴の里」でもトイレ休憩。私はここで1鉢350円の行者ニンニクを2鉢買った。行者ニンニクはどちらかというと日陰で湿り気を帯びたところを好む植物なので家庭菜園で育つかどうかは分からないが、幕張の家庭菜園に植えてみて育つかどうか実験しようと思っている。1鉢には5〜6本の行者ニンニクが植えこまれていた。

 

 大正池ホテル前には12時に到着した。私はここで下車した。自然探究路を歩き周りの自然を楽しみながらの散策が始まった。大正池の向こうにすっかり緑を増した焼岳が丸い山容を現している。頂上からは薄く細い噴煙が立ち上っているのが確認できる。私が焼岳山頂に登ったのは随分前だが山頂は硫黄ガスが噴き出し、火口からは噴煙が噴き出していたのを覚えている。空は曇り空だ。天気予報によると15時頃から崩れるようだ。大正池に流れ込む小川に岩魚が泳いでいるのが確認できる。とても澄んだ清らかな水だ。

 

 田代湿原手前でレンゲツツジの朱色の花が突然目に飛び込んできた。鮮やかな朱色だ。久しぶりにレンゲツツジを目にしたのでその鮮やかさに一瞬驚いてしまった。6月といえばツツジの花が咲く時期であったことを改めて感じた。4月、5月、6月とひと月ごとに上高地を訪れているので自然の移り変わる様子が実によくわかる。同時に、6月4日午前9時に田代湿原付近でツキノワグマ1頭の目撃情報が掲示されており注意喚起を呼びかける看板が目にとまった。

 

010-田代湿原のレンゲツツジ

田代湿原に咲くレンゲツツジ

 

 土曜日のせいかツアー観光客が目立ち、梓川畔のベンチはどこでも弁当を広げながら談笑している姿が見られる。私は上高地温泉ホテルに向かい日帰り入浴料金800円を払って2階の浴室に向かった。私の前に2名の客が入っていたが私と入れ替わりに出ていった。浴室は私の貸し切り状況になった。露天風呂の“焼けの湯”に入った。のんびりと岩風呂に浸かり無の心境である。ふと見上げた囲い塀に「自然の中では動物達も葉っぱさん達もお風呂に入りたがっています。お邪魔でしたらそっとすくい出してあげてください」という湯守の言葉が掲げられていた。ほんわかするような言葉だと思い、よけいに身体がぬくもる気持ちになった。

 

 湯あがりに川沿いのベンチに座りビールを飲もうとホテルを出ると空からポツリポツリと雨が落ちだしていた。傘をさして飲むのも味気ないので河童橋方面に歩き出した。梅雨の時期に咲くツマトリソウの清楚な一輪、あるいはピンクのベニバナイチヤクソウの群落を見たのも初めてである。空は雨模様だがその時期にしか出会えない花も確実にある。今回の上高地散策は出かけてきて正解だと思った。化粧柳の白い花が満開になるのはまだ先のようだが、綿帽子となり風に飛ばされる風景は見事なものだ。

 

 河童橋のたもとの五千尺ロッジの売店で妻への土産を買い、インフォメーションセンターの中に入って1時間ほど雨の中を通過していく人間模様のウォッチングをしながら酒を飲んでいた。色とりどりのレインウェアを着こむ姿は緑の世界にパッと咲く花のようでもあった。

 

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