雪が多かった上高地
春浅い雪の焼岳
今年はスキーに出かけても例年になく雪が多かった。先週、4月21日にも日本海側や東北地方に雪が舞った。残雪が多いだろうなぁと思いながら開通間もない上高地に今年も出かけた。中央高速道路を走って松本インターチェンジから一般道に乗り入れるのだが、途中の車窓から山梨の甲斐駒ケ岳、鳳凰三山、八ヶ岳などの山々が望むことができる。それらの山々も綺麗に雪化粧している。松本から望むことのできる北アルプスの山々も真っ白く雪化粧だ。
釜トンネルを抜けると梓川越しに焼岳の勇姿が登場するが、思っていた通りに山肌には雪が大量に残っていた。私は大正池前でバスを下車したが、池のほとりに降りる自然遊歩道も今までになく雪が残っており、日陰の部分は氷となっていた。池に鴨の姿は見当たらなかった。池の周りの木々はまだ芽吹いておらず標高1500mの上高地はまだまだ春浅き早春の雰囲気である。こういう時期だからこそ足元に芽吹く蕗の薹が採取できる。
今回の上高地散策に私には二つの目的があった。一つ目は蕗の薹の採取である。私は自然遊歩道から離れて雑木林に中を歩く。足元には土の中から頭をもたげた蕗の薹があちらこちらに見受けられる。周りに木々も足元の草の芽も出ていないため、芽吹きの蕗の薹だけが茶色の景色の中に黄緑色に輝いて見え、すぐに目に留まるのだ。ポケットに入れてきたナイフ「肥後富士丸」を蕗の薹の根元に差し込むとサッと切れる。小中学生の頃、ナイフは友達でありいつもポケットに入っていたが、今では山菜採りや家庭菜園の野菜収穫時くらいにしかナイフを使わなくなってしまった。
蕗の薹を採りながら40分ほど歩き田代池までやってくると野猿が2頭いた。彼らは人を恐れない。観光協会は野猿の必要以上の増加を防ぐために、彼らにエサをやらないように観光客に呼びかけている。彼らは木々がまだ芽吹いていないため水草を引き抜き、その根を食べていた。生きていくためには大変だなぁと思ってしまう。徐々に近づいてくる明神岳、前穂高岳、奥穂高岳、西穂高岳が陽に照らされて神々しいまでに輝いている。純粋に美しいと思う心が洗われる光景だ。
1時間ほど歩いていくと上高地温泉ホテルに到着した。今回の二つ目の目的である温泉入浴だ。日帰り入浴は800円である。チケットを購入し2階の風呂に向かうと男性用の暖簾が下がっていたのは「梓の湯」の方であった。私は山旅の下山時には何度となく上高地温泉ホテルの湯に入っているが、いつも「焼の湯」ばかりで「梓の湯」に入るのは初めてだった。一人いた先客はカメラで露天風呂を写していた。私もカメラを持って露天風呂に入っていった。「梓の湯」には樽風呂が2ヶ所、段違いの露天が2ヶ所あった。私は陽の光を浴びながら1時間近く湯に浸かっていた。実にゆったりした心持ちであった。
帰りのバスの中ではお土産屋で買い込んだ長野の地酒を飲んだ。300mlの瓶だが盃は付いていないため、あらかじめ自分で作ったぐいのみを持参した。盃に酒を注ぐときに「昼九夜八、舟七馬六」という酌の作法があるが、バスの揺れを考慮すると「馬六」に匹敵するようだ。盃の六分目まで注ぐとバスの揺れに対する溢れがないと感じた。昔の人は中々いいことを言ったものだ。
蕗の薹は小さめなスーパーの買い物袋にいっぱいに採れた。帰宅後にすぐに熱湯でゆがいた。ゆがいたのを三つに分割し、一つを細かく刻んで蜂蜜味噌で和えて蕗味噌を作った。口に含むと蕗の香りと苦味が何とも言えない春の味を感じることができたのである。