白く輝く残雪の穂高連峰

 

河童橋したから望む穂高連峰

 

 4月24日、温泉に入り湯上りには梓川の水面を渡ってくる風を受けながらビール片手に残雪の穂高連峰を眺めようと上高地に出かけた。上高地へのバス路線は4月20日に開通したばかりだった。今回は東京駅近くの鍛冶橋駐車場から出発する『4日間限定、開山直後に行く!上高地3時間』というクラブツーリズムのバスツアーで出かけた。バス路線の開通直後のため通常料金12000円のところを3980円という半額以下の超サービス料金だった。利用者としては全くありがたい。

 

 首都高から中央高速道に乗り込み、途中2箇所のサービスエリアでトイレ休憩をしながら最初の降車場所である大正池ホテル前には12時30分に到着した。私はここで下車し、その後、自然研究遊歩道を上高地温泉ホテルまで歩く予定でいた。バスの添乗員によると、今回は残雪が多過ぎ遊歩道も雪道なので足回りのしっかりした登山靴を履かれたかた以外の下車は見合わせるよう注意がなされた。私は勿論登山靴を履いていたため問題はなかったが、下車できないスニーカーを履いた乗客もたくさんいた。

 

 バス停車場から大正池に下る道も雪がいっぱいである。降りたった大正池越し正面に焼岳が望めたが山にはまだまだ雪が多く周りの木々の芽吹きも始まっていない。右手上流の穂高連峰を見ると、こちらもまだ真っ白だ。自然研究遊歩道の散策者は私を含めて5人である。散策者が少なく静かな風景の中をゆっくりと歩いていく。ザクッ、ザクッ、という雪を踏む音だけが耳に届く。時おり小鳥の囀りが聞こえてくる以外は実に静かな白い世界だ。アオジが目の前の小枝に止まり、ツィ、ツィ、ツィという囀りとともにせわしく体を揺らせている。

 

 田代池まで歩いてくると3人、4人と散策者に出会うようになった。残雪の穂高連峰と芽吹きまぢかの池を背景に、3脚付きのカメラを肩に担ぐアマチュアカメラマン。デジカメでお互いを写し合っている夫婦連れ。等々・・・

 

 田代橋上から望む梓川上流には、右手から明神岳・前穂高岳・吊り尾根・奥穂高岳と連なるどっしりとした岩の塊が聳え立っている。何度見ても重量感ある穂高連峰の風景である。橋を渡った右のベンチで男性一人が残雪の穂高をオカズに弁当を食べており、上高地温泉ホテルの手前では4人の女性ハイカーがおしゃべりをしながら食事中である。私は入浴を求めてホテルへと進むが、宅急便車から荷物を次々にホテルに運び込んでいるなど雰囲気がおかしい。

 

 悪い予感は的中し、ホテルはまだオープンしておらず翌日25日からのオープンとのこと。ガックリ!

隣の清水屋ホテルの様子を見ると、こちらも宅急便者の荷物運び込みと玄関の清掃中であり、やはりオープンはしていなかった。再度、ガックリ! おまけにビールの自動販売機も動いてはあらず、二度ガックリであった。旅行前にネットでホテルのオープン日時を確認してこなかった自分のミスだが、旅行目的の一つがあっけなく淡雪のごとく消えてしまった。仕方ないので気を取り直し、梓川に降りて私も残雪の穂高連峰を眺めながらコンビニで買ってきたオニギリ弁当を食べた。座っている横には10本ほどのフキノトウが芽吹いている。カワヤナギの枝は赤茶色に染まり銀色の花をはじかせようとしている。

 

 川原を河童橋のたもとまで歩いてくると、さすがに観光客も目立つようになった。観光地では恒例となった中国語が耳に届く。白樺荘ホテルの売店が開いていたので中に入り缶ビールと酔園という地元あづみ野のカップ酒を買った。これを持って穂高連峰がパノラマとして見渡せる河童橋上流右岸堤防の蛇篭に座り、まずはビールで快晴の穂高連峰に一人乾杯。温泉に入れなかったので1時間時間が空いたのである。その時間でじっくりと残雪の穂高連峰を眺めることができた。かえって良かったかもしれないとポジティブに考えた。時はビールから地酒へと移り静かに流れていく。

 

 明神岳・前穂高岳・吊尾根・奥穂高岳・ロバの耳・ジャンダルム・畳岩の頭・天狗のコル・天狗岩・間ノ岳・西穂高岳、それらの峰々の懐となる岳沢が眼前に広がっている。眺めているうちにあの稜線を2度縦走した日々のことが酒の柔らかな酔いとともに脳裏に浮かび上がってきたのである。

 

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