絶景の伊予ヶ岳
伊予ヶ岳山頂に着いた
10月22日 火曜日 晴れ
夕食時に「紅葉の時期に房総の山のどこかに連れてって」と妻がいった。今年の紅葉は全国的に遅れているのだが、ふたりのスケジュールを調整し、10月下旬にJR内房線岩井駅近くの伊予ヶ岳(336m)に行くことにした。乗る電車は早い時間帯を避けて、妻の通常の勤務パターンで計画し、幕張駅発7時43分で出かけることにした。9時22分に岩井駅に降りた。空はよく晴れて絶好のハイキング日和だった。伊予ヶ岳登山口がある平群天神社近くの国保病院まで市内巡回トミー号に乗った。
国保病院から眺めた伊予ヶ岳
バスの乗客は私と妻、それにふたりのお年寄りだった。お年寄りは終点の国保病院に行くようだった。地方のバスはどこでも病院にいくお年寄りが多い。過疎化によって若者の姿がなく、お年寄りが目立つのだ。ピンクのタチアオイの花に日が当たり、風に揺れているのが車窓から見えた。バス終点の国保病院で降りると、房総のマッターホルンと呼ばれている伊予ヶ岳が青空のもとで聳え立っていた。絶壁の山頂まで登るのだ。
樹齢1000年を超えるという夫婦クスノキ
国保病院から菅原道真を祭神とする平群天神社まで歩いた。平群天神社が伊予ヶ岳の登山口になっているのだった。鳥居をくぐると樹齢1000年を超えるという2本の夫婦クスノキが枝を広げ、太い幹には注連縄が張られていた。神社の境内にイチョウの木があり、ギンナンがたくさん落ちていた。私は酒のつまみのギンナンが好きだ。匂いを出さないようにチャック式の袋のなかに拾った。
展望台から眺めた房総の山なみ
登山道は平群天神社の脇から山のなかへと伸びていた。ストックを取り出して杉林のなかを歩きだし、40分ほど登ると休憩舎と展望台があった。ふたりが休憩舎で休んでおり、展望台でひとりが休んでいた。私たちも展望台で眼前の広々とした景色を眺めた。房総の山なみが重なり、浦賀半島を挟んで東京湾に入っていく大型タンカーが見えた。浦賀半島の奥に見えるはずの箱根山や富士山は雲のなかだった。ひと休みしたあとでストックをザックの横に収納し、いよいよ山頂直下の約50mの急な鎖場だった。
約50mの急な鎖場を登った
この岩場では昨年4月に滑落事故で死者が出た、という看板が立っていた。岩場には新しい鎖がついていた。この鎖は下山する時に登山道の鎖を保全している女性に出会って話をしたところ、今年の夏に設置し直したものだという。以前、私が登った時は古い鎖だったのを覚えている。真新しく太くて頑丈な鎖は心強かった。このように点検保全をしている人がいるから、私たちは安全に登ることができるのだ。実にありがたいと思った。
伊予ヶ岳山頂からの眺め
南峰の頂上に登ると、下の展望台で休んでいた男性が先着していた。男性は藤崎さんという方で、ドローン撮影の『DRONE/47』の千葉県代表をしており、私たちが下山しようとすると、「よろしかったらふたりの山頂でのドローン撮影をしませんか?
1〜2分で終わりますよ」と提案された。ドローン撮影の被写体になるのは初めての体験だったが、どのような映像になるのか興味があったので撮ってもらうことにした。2パターンを撮って頂き、帰宅後にInstagramにアクセスし、ドローン撮影していただいたデータをダウンロードした。さすがに写真とは違った立体感のある素晴らしい動画だと思った。
市内巡回バスのトミー号
南峰山頂のドローン撮影などで時間を使ったので、北峰へ行くのを取りやめて下山することにした。国保病院のバス時刻に間にあわないと、次のバスは2時間後なので気持ちは焦りながらも、鎖場を含めて転落事故を起こさないように足元に注意しながら降りた。バス停には出発の15分前に到着した。
明るい南国風のJR岩井駅
岩井駅に戻ると西側に小さな公園があり、そこに『南総里見八犬伝』に登場する伏姫と八房の銅像が置かれている。南総里見八犬伝は、江戸時代の戯作家である滝沢馬琴の長編小説である。伏姫は安房国の城主里見義実の娘であり、その飼い犬である八房と富山の中腹にある籠穴で暮らしていた。伏姫と八房の間に8つの『仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌』の玉が生まれ、伏姫の死とともにこの玉が八方に散らばり、それぞれの玉を持って生まれた八犬士たちにより勧善懲悪の物語が展開していく。
岩井駅前公園の伏姫と八房の銅像
南総里見八犬伝は、私が子どものころに東映映画で上映されたのを見た記憶があり、NHKの人形劇でも放送された。今年の10月下旬から山田風太郎の原作による『八犬伝』が上映される。私と妻は公園のベンチに座り、伏姫と八房を見ながら持参したジェットボイルでお湯を沸かし、コーヒータイムだった。山旅を終えたあとの一杯のコーヒーは、どんなカフェで味わうよりも美味いコーヒーだった。
日帰り温泉は「かぢや旅館」に入った
日帰り温泉に入るため、岩井駅からふたつ先の浜金谷駅まで移動し、駅から歩いて10分の「かぢや旅館」に入った。かぢや旅館は江戸時代の安政元年創業の老舗旅館である。フロントで800円の日帰り温泉料金を払い、旅館内をまっすぐ通り抜けて、離れの温泉棟に向かった。40分ほどゆったり温泉に入り、山旅の汗を流した。男湯は5人の客だったが、女湯は妻ひとりだったので、のびのび温泉に入れたと喜んでいた。
NHK−BS『全国100低山』の吉田類さんのサイン
フロントのソファーに座り、テーブルに置かれていた旅館を訪れた人のサイン色紙を見ていると、吉田類さんのNHK−BSで放送された『全国100低山』のサインがあった。人の好さそうな女将さんが外出先から戻ったので、しばらく話をした。以前(2020年12月)、ここに寄った時にも玄関先で女将さんと話をしたのだが、そのことを含めて伊予ヶ岳登山の記録を『山と渓谷』誌に読者紀行として投稿し、雑誌に掲載されたのは2021年3月号だった。前回は私ひとりの登山だったが、それから4年が経ち今回はふたりの夫婦登山となった。
漁港直送朝獲れ地魚旬鮮粋処金谷食堂
昼食を摂っていなかったので、かぢや旅館から歩いて15分の海鮮料理が有名な金谷食堂へ向かった。金谷食堂は浜金谷フェリーターミナルの正面にあった。食堂に入ると昼食時刻を過ぎていたために店内は空いていた。注文したのはキリンラガークラシックの瓶ビールを2本、地酒は聖泉300ml、つまみは黄金アジのミックスフライ、地魚刺身3種盛り、さんが焼き、妻は黄金アジフライのミックス定食を頼んだ。
ま、いっぱい
出された地魚刺身3種盛りは時間サービスで5種盛りとなりラッキーだった。時間はたっぷりあったので、妻と話をしながら地酒と料理を味わった。ビールが喉を潤し、地酒がじっくりと酔いを深めていった。