絶景の穂高連峰縦走登山

 

雪が降った山の景色

自動的に生成された説明

涸沢岳からの縦走路で槍ヶ岳、北穂高岳を望む

 

2023年のMCC(ミーハー・クライミング・クラブ)夏山縦走登山は北アルプスの前穂高岳・奥穂高岳・涸沢岳・北穂高岳の岩稜縦走で、過去にも計画したコースだが会員のリクエストにより再度の縦走登山となった。参加したのはポパイ吉原、ちびっこ小沢、でぶっちょ碓井、それにエイトマン岩井の4名だった。前回の縦走登山は1998年8月だった。それから25年経つと会員も随分年を重ねていた。

 

公園に歩いている人たち

低い精度で自動的に生成された説明

早朝、上高地に着いた4人のメンバー

 

8月24日 晴れ

上高地バスターミナルに5時10分に着いた。バスが2台停まっていたが、人はまばらだった。正面の明神岳は雲に隠れていた。ベンチは昨日の雨で濡れており、ビジターセンターの庇の下にザックをおろした。水筒に水を満たし林のなかのベンチに移動し朝ごはんの準備をした。朝ごはんはおにぎりとインスタントラーメンである。一瞬、西穂高岳からジャンダルムまでの稜線が見えたが、再び雲のなかへと姿を消してしまった。上高地を10時の出発予定であったが、7時半に岳沢小屋に向けて歩き始めた。

 

屋外, フェンス, 建物, 立つ が含まれている画像

自動的に生成された説明

河童橋を元気に出発した

 

岳沢登山口に10番という木彫りの丸い番号標識が着いていた。10番から9番、8番、7番と順に遡っていき0番が岳沢小屋だろう。今年新しく着けた標識だと途中で出会った登山者から聞いた。登っていく山道の最初は針葉樹のなかだが、やがて広葉樹に変わり番号が6番になるころ岳沢の河原に出た。河原と言っても涸沢で水は流れていない。上高地が箱庭のように眼下に見えた。ダケカンバが川沿いに生えている。秋には素晴らしい黄葉に彩られるだろう。緑の林のなかの赤い屋根の帝国ホテルがひときわ目をひく。小梨平のキャンプ場に張られたテントも手に取るように見えた。私たちが進む方向には西穂高岳から奥穂高岳までノコギリの歯のようなギザギザの稜線の連なりも雲がすっかり取れて素晴らしい景色となって表れていた。

 

花が咲いている植物

中程度の精度で自動的に生成された説明

藪のなかに2羽のライチョウがいた

 

山小屋への荷上げのヘリコプターが20分間隔ぐらいで往復している。周りではウグイスが鳴き、コガラもさえずっている。足元にはゴゼンタチバナの白い花と赤い実をつけたものも見られた。黄色いアキノキリンソウの小さな花も風にそよぎ、アマツバメが何羽も上空を行き交っていた。表示番号の2番を過ぎたあたりでクゥークゥーという声が聴こえてきた。しばらく聴いていたが人の声とは想えないので、声が聴こえる藪のなかを探すと、2羽のライチョウがいたのである。早くもライチョウと出会うことができてラッキーだった。

 

山の上のベンチに座っている男性たち

低い精度で自動的に生成された説明

上高地を眺めながらの宴会が始まった

 

休みを多めにとってゆっくり登っていったが10時45分には岳沢小屋に着いてしまった。山小屋の宿泊受付に行くと、まだ部屋の準備中なのでしばらく待ってください、とのことだった。さっそく外のテラスのテーブル席に着くと生ビールで乾杯だった。乾杯を契機に上高地を眺めながらの宴会が始まった。

 

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション, マップ

自動的に生成された説明 グラフ

自動的に生成された説明

上高地から岳沢小屋までの登山データ

 

8月25日 晴れ

雲ひとつなく晴れわたっていた。外のテラスの前方に御嶽山、乗鞍岳、手前に盆地のような上高地を囲むように六百山、霞沢岳、焼岳が見え、後ろにはジャンダルムが朝日を浴びて輝いており、奥穂高岳から吊り尾根の稜線には日が射していなかった。今日はあの稜線を歩くのだ。その景色を眺めながら朝ごはんを食べた。6時に岳沢小屋を出発した。重太郎新道を登り出す。最初はテント場の脇を登っていくが、次第に広葉樹のなかの山道に変わった。足元には紫のトリカブトや白く細長いサラシナショウマの花が微かな風に揺れていた。30分登ると最初の長い梯子が出てきた。滑落注意の看板が目立つ。山道はかなりの急登である。鎖場も現れた。岳沢小屋を出発してから3時間後に紀美子平分岐に着いた。女性ばかりの10人ほどのツアーグループがザックを置いて前穂高岳に向かって登り出した。私たちは途中で女性グループを追い越すので、しばらく休んでから出発した。

 

岩の上に立っている男性たち

自動的に生成された説明

前穂高岳3090mの山頂に着いた

 

紀美子平分岐から登りだすと左に見えるジャンダルムで事故があったらしく、救助のヘリコプターがホバリングしていた。あとで聞くとジャンダルムの滑落事故は男性で即死だったとのことだった。私たちも事故を起こさないように確実に一歩一歩登って行った。40分ほどの岩場の急登で前穂高岳3090mの山頂に着いた。山頂に着く直前からガスが湧いてきて360度の大展望が「真っ白けのけ」となってしまったがしかたない。前穂高岳の山頂は細長く、山頂の端は絶壁となって落ちていた。

 

山の中の岩の上に置かれた食べ物

低い精度で自動的に生成された説明

上高地を眺めながら岳沢小屋の弁当を開いた

 

 前穂高岳の山頂で30分ほど休んでからザックを置いてある紀美子平分岐に戻り、奥穂高岳に向かって吊り尾根の縦走である。前穂高岳山頂から奥穂高岳山頂へとつながる吊り尾根は2時間かかる長い尾根で、左側は急な傾斜で谷に落ち込んでいる。滑落しないように注意しながら岩の登山道を進んだ。時たま上昇気流を巧く捉えたタカの仲間のチョウゲンボウが獲物を探して翔んでいるのが見えた。吊り尾根の中間あたりで上高地や西穂高岳の稜線が見えるところで、岳沢小屋で作ってもらった弁当を開いた。ニジマス、がんもどき、たくわん、ピリ辛大根、大豆肉、梅干の入った弁当を、周りの景色を眺めながら食べるのは最高の贅沢だった。

 

岩の上に座っている男性たち

中程度の精度で自動的に生成された説明

奥穂高岳3190mの山頂に着いた

 

 標高が上がってくると大天井岳から常念岳の稜線も見えるようになり気分は最高である。やがて奥穂高岳3190mの山頂に置かれている穂高神社嶺宮の石の祠がガスのなかで見え隠れするようになった。吊り尾根から登っていくと神社の裏側に出る形になる。私たちは表側に回って登頂写真を撮った。祠の前に賽銭箱が置かれてあるのを見た仲間のひとりが、「このお賽銭を回収するのに誰がここまで登ってくるのかなぁ」と独り言をいったので、「この神社は、今回登ってきた重太郎新道を切り拓き、穂高岳山荘を建てた今田重太郎さんが登山の安全を祈願して設置したものなので、お賽銭の回収は穂高岳山荘の方がやっていると思うよ」と答えた。宿泊した穂高岳山荘は創立100周年だったので記念バッチをいただいた。ラッキー。

 

 

アプリケーション

中程度の精度で自動的に生成された説明 グラフ

自動的に生成された説明

岳沢から奥穂高岳の登山データ

 

8月26日 晴れ

快晴だった。予定通り涸沢岳から北穂高岳まで縦走し、涸沢に降りて横尾山荘まで行くことにした。6時に穂高岳山荘を出発し岩礫の山道を30分ほど登ると涸沢岳3110mの山頂に着いた。360度の大展望である。これから向かう北穂高岳の向こう側に槍ヶ岳がとんがっていた。右に目を転じると遠くに富士山が雲海の上にぽっかり姿を現していた。昨日登った前穂高岳から吊尾根がつないで奥穂高岳、さらにはジャンダルムが手の届く近さで見えた。岩の穂高連峰は何度見ても素晴らしい。スマホで動画を撮影し、家族に送信していたら山頂での写真を撮り忘れてしまった。

 

涸沢槍からの危険エリアを降る

 

 涸沢岳山頂に10分ほどいた。次の5人のグループが登ってきたので、狭い山頂を後にして涸沢槍に向かった。涸沢槍の左側を回り込んだところが今回の縦走の第1の滑落注意点で、10mほどの垂直の鎖で下降したあとは右側へ移動するのだが、足元がすっぱり切れ落ち、鎖が連続して現れる場所なので緊張のため気を抜けない。落ちたらアウトだが、足場とホールド点を確実に確認しながら進んでいった。鎖や梯子の連続だったので、涸沢岳のコルに着いたときは全員ほっと溜息が出るほどだった。途中で仲間のひとりがザックに付けておいた水筒を岩角にぶつけて落した。水筒は岩に当たる金属音をたてて谷底に消えた。本人は「俺の身代わりになってくれたのだろう」と言った。

 

岩山にいる女性

自動的に生成された説明

滑落事故多発の奥壁バンドエリア

 

涸沢槍の下降点からの鎖と梯子の連続エリアが第1の滑落注意点ならば、第2の滑落注意点は奥壁バンドと呼ばれるエリアの通過である。『滑落事故多発エリアなので慎重に通過してください』という看板が設置されていた。ここは鎖も梯子もないが足元とホールドを確認し、奥壁をトラバースするのだ。足元が切れ落ちているところの通過は、あまり気持ちのいいものではなく胸騒ぎがする。仲間たちは「おっかないなぁ」「厳しいなぁ」「メンタルを強く」などの気持ちで通過したという。今回の縦走路は色々とアトラクションが用意されているものだ。

 

岩山にいる人たち

自動的に生成された説明

絶壁を攀じ登っていく

 

第3の滑落注意点は奥壁バンドを通過し、北穂高岳ドームまで登っていく急登エリアだ。鎖も梯子も付けられていない岩場を登っていく。幸いにも晴れていて岩は乾いていたので無事に通過できたが、緊張させられた場所だった。私たちが通過している時に人間の頭くらいの落石が起き、音をたてて岩屑が谷底に消えていった。

 

岩山の前に立っている男性たち

自動的に生成された説明

北穂高岳3106m山頂に着いた

 

穂高岳山荘から出発して3時間40分後にやっと北穂高岳3106m山頂に着いた。涸沢岳から北穂高岳までの区間が今回の穂高連峰縦走のハイライトといわれているが、鎖や梯子が次々に登場し気の抜けないコースだった。私は昨晩、隣の大いびきでほとんど眠れず、寝不足で頭がフラフラし体調不良状態で、身体のバランスが乱れており滑落しそうだった。やっと縦走できた感じで、やれやれだった。25年前は小雨が降っていたので、涸沢岳から北穂高岳への縦走は中止し、直接涸沢に降りたので3人の仲間は初めての体験となったが、「1回だけで十分。もう2度目はない」「いい体験になった。穂高の山々の位置関係がスッキリ頭のなかに刻まれた」「今回の経験で穂高の山を語ることができる」など様々な感想を話した。私は以前に単独で縦走しているが、75歳になるので3度目はないだろうと思った。快晴に恵まれ素晴らしい景色が見られる岩稜縦走路だった。

 

涸沢小屋に降りて穂高岳山荘で作ってもらった弁当を食べ、横尾谷を降って横尾山荘に着いたのは16時半になった。1日の活動時間が10時間半と長時間になったのはMCC登山では初めてのことだった。

 

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション, マップ

自動的に生成された説明 グラフ

自動的に生成された説明

穂高岳山荘から横尾までの登山データ

 

8月27日 晴れ

今日は下山の日だ。7時30分に横尾山荘を出発する。徳沢の手前10分の新村橋が建て替え工事のために撤去されていた。また梓川の護岸工事のために流れが変更されており、登山道からは梓川の流れを見ることができなかった。途中、鋭い野猿の鳴き声を数回聞いた。

 

人, 屋外, 持つ, 男 が含まれている画像

自動的に生成された説明

久しぶりに食べた徳沢園のソフトクリーム

 

徳澤園に着くとソフトクリームである。久しぶりに食べたソフトクリームは口の周りがべたついて仕方がなかったが、疲れた身体には心地よかった。おじさんとソフトクリームと言われようとも美味いものはいいのである。徳澤まで降りてくると観光客を含めて大賑わいだった。

 

人, テーブル, 食べる, 食品 が含まれている画像

自動的に生成された説明

 岩魚の塩焼きをツマミに熱燗で一杯

 

上高地まで降りてくる途中で明神の嘉門次小屋により、イワナの塩焼きとフキ味噌をツマミに熱燗2合を楽しんだのは言うまでもないことだった。イワナが焼けるまでの間にイワナを焼いている囲炉裏端に行き、壁に掛けられている嘉門次愛用の村田銃とウエストンから送られたピッケルを見ようとしたら、あるべき壁に銃もピッケルもなかった。不思議に思って焼き場の人に尋ねると、「銃もピッケルも大町市の山岳博物館に渡したので、そちらで展示されています」とのことだった。また、嘉門次小屋を訪れるたびに買い求めていた白磁の2合徳利は、製造中止したとのことで買い求めることはできなかった。

 

山旅の最後の締めは上高地温泉ホテルの日帰り温泉入浴だった。これだから登山はやめられない。4人が事故もなく上高地まで降りられたことに感謝し、山旅の汗を流したあとはビールで乾杯だった。

 

戻る