ツツジ満開の本社ヶ丸縦走へ

 

本社ヶ丸1631m山頂からの富士山の眺め

 

今回の登山は、山梨県大月市の笹子駅の南側に連なる清八山(せいはちやま)1593m本社ヶ丸(ほんじゃがまる)1631m角研山(つのとぎやま)1377mを縦走し、笹子駅に戻ってくる周回登山であった。笹子駅からの標高差は約1000mあり、予定時間は8時間30分だった。山頂からは富士山の絶景を眺め、連なる稜線上では満開のヤマツツジやトウゴクミツバツツジを満喫し、若葉から青葉へと変わりゆくブナ林の中の登山道は、優しいクッションを靴底に感じる山旅でもあった。

 

JR笹子駅前で登山準備をする人たち

 

笹子駅に降り立ったのは3度目だった。駅前で8人の登山者が登山準備をしていた。空を見上げると白い雲はあるものの、青空が広がっていた。笹子駅前を通る国道20号線を左折し、歩いて1時間50分の登山口に向かった。追分で左折し国道を離れた。地図を見てトンネル内を歩かないようにと考え車道を進んだが、稲村神社を過ぎると電流が流れている通行止めの柵があった。立ち入り禁止の先にも通行止めのバーが横たわっていた。仕方がないので元の分岐点に戻り、トンネル内を歩く道を進んだ。

 

歩道のついた追分トンネル内を歩いた

 

1997年12月に開通した173mの追分トンネル内には歩道がついていた。日本縦断てくてく一人旅で何度もトンネル内を歩いたが、歩道のないトンネルを歩くのは非常に神経を使ったことが思い出された。東京電力東山梨変電所の脇を通って到着した登山口には、登山者数カウンターが設置されていた。しかし、カウンターは誰かに持ち去られたようで無かった。カウンターなど持っていっても利用価値は無いと思うのだが、持ち去った人の心理は理解できない。野生動物侵入防止ネットが張ってあったので、紐をほどいて清八峠に向けて登りだした。

 

今回もクマ出没注意の看板が立っていた

 

登り口には恒例のようにクマ出没注意の看板が立っていた。尾根道を登っていくと落葉広葉樹の森となり、四方八方からハルゼミの鳴き声がシャワーとなって降ってくるのだった。ハルゼミの鳴き声には何種類かあり、シャカシャカ・じゃんじゃん・ジンジン色々な音が耳に届いた。トッキョキョカキョクというホトトギスの鳴き声も聞こえてきていた。今シーズン2度目に聴くホトトギスの声だった。空は完全に晴れあがり青空が広がっていた。再び、野生動物侵入防止ネットに突き当たった。

 

野生動物侵入防止ネットが2ヶ所に設置されていた

 

尾根を登っていくと、途中で20代と思われるカップルが、立ったままでおにぎりを食べていた。きっと朝ごはんだろう。挨拶をして横を通り抜けた。広葉樹の森に太陽が差し込み、明るくて気持ちがいいのだが、結構な急登である。初めてベンチが現れたので休憩を取った。笹子駅から歩き出して初めての休憩だった。あと30分ほど登れば清八峠だろう。

 

登山道脇に生えていたキノコ

 

登山道脇に夥しい数の獣の足跡が見られた。蹄のように見えるのでイノシシかシカだろう。カモシカは数が少ないため考えられない。足跡は登山道の脇にあったり、登山道を横切ったりして縦横無尽である。清八峠の少し手前で登山道に横たわっていた枯れ木に美味そうなキノコが生えていた。シイタケのようで絶対に食べられると思うが、私はキノコの知識がないので採るのはやめた。ピンクのトウゴクミツバツツジの花がたくさん見られるようになった。

 

清八山1593m山頂からの富士山の眺め

 

清八峠に着いた。右折して片道10分の清八山に向かった。これまで出会った登山者はカップルの2人だけだった。ツツジの花咲く登山道を登っていくと、今まで姿が見えなかった富士山が突然、どどんと眼の前に登場した。ビックリしたのと同時に素晴らしい眺めだった。ピンクのトウゴクミツバツツジが満開だ。富士山はいいなぁ。しばし見惚れる。10分休憩のあと、清八峠に戻って本社ヶ丸に向かった。

 

本社ヶ丸山頂で若者と出会った

 

3ヶ所の岩場を登って本社ヶ丸1631m山頂に着いた。本社ヶ丸山頂は『大月市秀麗富嶽十二景 十二番山頂』と『山梨百名山』に指定されている。若い男性登山者がスマホをいじっていた。その方にお願いして、富士山をバックにしてスマホのシャッター押してもらった。こちらの山頂からも富士山が素晴らしい形で見えた。男性と話しながら朝ごはんのおにぎりをひとつ食べた。20代と思われる彼は、東京からバイクで来ていた。笹子駅前の有料駐車場が満杯だったので、大月駅前の駐車場を借り、大月駅から中央線に乗って笹子駅までやってきたと言った。山登りが趣味で、特に大月周辺の山が好きなので、ここらあたりを歩いていると言っていた。

 

ブナ林の中の登山道は実に気持ちがいい

 

清八峠から本社ヶ丸までの稜線はツツジだらけだった。5月のシーズンは、ツツジが満開で素晴らしいと感じる。山頂で彼と20分ほど話して縦走路を歩きだした。カラマツ林の中を歩いた。カラマツは落葉するので、今は芽吹きの時を迎えている。2cmほどに伸びた若芽は可愛らしい。広く明るい尾根にはブナ林も広がっていた。その林の中の登山道をゆったりした気分で降りていく。岩場の登山道を歩くのと、広く明るい森の中を歩くのでは気分が全く違う。落ち葉でふかふかした登山道を歩くのは実に気持ちがいいものだ。落葉広葉樹の道は足裏に優しいのだ。

 

ハルゼミの鳴き声でいっぱいの若葉の登山道

 

明るく広い尾根の標高を下げていくと、ハルゼミの鳴き声が聞こえてきた。山頂には高い木がなかったので、ハルゼミの声も耳に届くことはなかったが、標高を下げてくるとハルゼミの生活圏内に入ったようで、あちこちから鳴き声が聞こえた。

 

満開のヤマツツジがたくさん見られた

 

送電線鉄塔があった。鉄塔の下の木々が切り開かれており、展望がよかった。そこからは前回登った滝子山や笹子雁ヶ腹摺山が甲州街道の向こう側に見えた。送電線鉄塔下に宝の山ふれあいの里への分岐があった。私は真っ直ぐに進み、再びブナ、クヌギ、コナラの広葉樹の森に入っていった。とても気持ちの良い登山道をゆったりした気分で下っていくと、今までほとんど目にしなかった朱色のヤマツツジが頻繁に目につくようになった。若葉の中の朱色は目立って美しかった。

 

角研山1377m山頂の見晴らしは良くなかった

 

やがて角研山1377mに着いた。ここには笹子駅と鶴ヶ鳥屋山への分岐表示が立っていた。笹子駅の看板は新しく取り付けられたようだった。私は鶴ヶ鳥屋山の方向に下っていき、宝越え分岐から笹子駅に降りることにしたのだが、このルートが実に酷いものとなったのである。

 

旧宝鉱山索道の設備残骸

 

角研山から宝越え分岐に向かうルートは岩が飛び出している尾根で、アップダウンの連続である。いやはやなんともだったが、頬に当たる風は気持ちよかった。宝越え分岐の100m手前に旧宝鉱山の索道跡の廃屋、ワイヤーロープ、滑車などの設備残骸が登山道を塞いでいた。

 

ブナの大木の根元が祠のような形をしていた

 

12時50分に宝越え分岐に着いた。これから左折して笹子駅方面へ向かった。森の神様みたいな太いブナの木があって、そのブナの木の根元が空洞になっており、ちょうど祠のような形をしていた。観音様でも置いてあるのかと思って覗いてみたが、中は真っ暗で観音様が置かれているような形跡はなかった。このあたりには太いブナの木があちこちに生えていた。

 

ヨシ沢沿いの下りで登山道を2度見失った

 

13時15分に黒野田林道に飛び出した。林道を横切り、再び尾根を下って笹子駅に向かった。耳に届くヨシ沢のせせらぎが次第に大きくなっていった。ヨシ沢まで降りたが、その地点の登山表示は壊されていた。私はヨシ沢の流れに沿って降って行ったが、途中で道を見失ってしまった。登山道を探しながら降りていくと、沢の反対側に登山道の表示を発見した。沢を渡り、踏み跡を降って行ったのだが、砂防ダムにぶつかってしまった。迂回路が見つからなかった。国土地理院の地形図を確認すると、沢よりずいぶん離れて登山道の印があったので、再び登山道表示の場所まで戻って杉林の中を高巻くことにした。急傾斜の杉林の中を高巻いていくと、偶然にも山仕事で使ったのであろう細道が発見できた。落ち葉に埋れた微かに残る踏み跡をしばらく歩いた。

 

今回の山旅のお土産は笹子餅と甲州地酒の笹一

 

登山道を見失ってしまったが、左下側からは船橋沢のせせらぎが耳に届き、地図を確認しながら降りていけば笹子駅近くに降りられるので焦ることはなかった。GPSで現在位置を確認しながら北へ進み、林道が見えたところで杉林の中を降りて行った。林道に出れば笹子駅まで30分の距離である。途中で笹一酒造に寄って甲州地酒を求め、更に峠の笹子餅を家族へのお土産に買い、15時過ぎには笹子駅に到着するだろう。

 

今回の清八山・本社ヶ丸登山活動データ

 

 今回の登山を振り返ってみると、反省点は道迷いである。今回の縦走コースは、距離も長くマイナーなコースであり、角研山から宝越え分岐に向かうルートは殆ど歩かれていないので、登山道も踏み跡程度で分かりづらい。慎重に降ってきても2度も道を見失ってしまった。GPSの重要性を再認識したが、スマホ端末へ電波の届かないところや電池切れも注意しなければならない。もちろん、今回も紙の25000分の1の国土地理院の地形図を持参していたが、常に自分がどのあたりにいるのかを知っていることが重要である。

 

良かった点は今回も富士山の展望と満開のツツジが見られたことだった。自然界の草木には、芽吹き、若葉、花、紅葉など、それぞれに旬があるので、その旬を逃すと出会うことは出来ない。今回もその旬に出会えた満足の山旅だった。

 

息子からの父の日プレゼントの足首サポーター

 

息子が一足早い父の日プレゼントで足首サポーターをくれた。登山事故の80%は捻挫というデータが出ている。足首サポーターは左足用と右足用に分かれており、足首部分を巻き込み、くるぶしの横と甲の部分でマジックテープを留めることにより、足首全体をサポートする形になっていた。今回の登山が初めての使用だが、試してみることにした。試してみた結果、非常にいい感触を得た。登山道は当然のこと凸凹で斜面の昇り降りが連続し、足首を酷使するわけだが、サポーターを付けたことにより、足の踏ん張りがより強く感じられたのである。これからも登山の時は使っていこうと思った。

 

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