噴煙吹き上げる阿蘇山へ
阿蘇・中岳山頂
9月6日から9日の3泊4日の日程で熊本の阿蘇に出かけた。阿蘇を訪れるのは3度目である。
1度目は20歳の冬だった。確か1月2日か3日だったと思う。20歳の記念に九州一周周遊旅行切符をポケットに入れ、宿泊先も決めずに九州をS字型に回った旅の途中で下車した阿蘇駅は雪が降りしきっていた。駅の待合室のベンチで一人座っていた片足の若い女性が印象的だった。
2度目は30歳の秋だった。この時は日本国家の成立過程を古墳、神社、仏閣から考えようとしていた時で阿蘇神社を訪ねた時だった。阿蘇駅の隣の宮地駅で下車し阿蘇神社まで歩きながら廻りを外輪山で取り囲まれた阿蘇平野がこんなにも広いのかと驚いたものだった。稲穂の取り入れに忙しく働く農家の人たちの姿が印象的だった。
そして今回の3度目は阿蘇山に登るために訪れたのである。阿蘇山は根子岳、高岳、中岳、杵島岳、烏帽子岳の5つの山から成り立っているが、今回は根子岳を除く4岳へ登る予定であった。
9月6日
『阿蘇の司ビラパークホテル』に到着したのは16時頃だった。昔の鄙びた湯治場であった阿蘇温泉郷の静かな田園風景の中に突如できた巨大ホテルというイメージだ。周りは田んぼや畑で商店などない。利用者は団体ツアー客が殆どでホテル内では韓国語と中国語が飛び交っており、従業員の半数以上は韓国人と中国人と思われた。私は部屋にザックを下ろすと翌日の登山バスの出発場所と時刻を確認するためJR阿蘇駅まで歩いた。ホテルから15分ほどだった。
登山バスの確認が済み阿蘇駅の隣に『道の駅・阿蘇』があったので寄ってみた。入口では有名になったご当地キャラの「くまモン」が出迎えてくれ記念写真が写せるようになっていた。道の駅の中は農作物やお土産物などの商品の数々が並べられ、くまモングッツもいたるところで目につく。私は妻が保育所で着れば子ども達が喜ぶだろうと考え「くまモンエプロン」を買った。更にくまモンストラップと霜降り馬刺しと湯だまりプリンを買った。あとのお土産は帰りの空港で辛子蓮根と甘いお菓子を2つほど買えば十分だろう。それにしても、2011年・ゆるキャラグランプリ第1位の「くまモン」は凄いヒットキャラクターであり、熊本県全体の経済効果は計り知れないだろう。ご当地キャラ侮るなかれ、である。
ホテルの最上階8階の窓から正面に阿蘇5岳のうち4岳が見える。左から根子岳、高岳、中岳、往生岳の後ろに杵島岳だ。烏帽子岳は位置の関係から見えないが中岳から上がる噴煙も見える。とりわけ根子岳の鋸のようなギザギザした稜線が素晴らしい。この根子岳を頭として高岳、中岳と連なる稜線の形がお釈迦様の涅槃の図に例えられている。確かにそのように見えるのである。
9月7日
9時10分の始発の登山バスに乗り阿蘇山西駅で下車する。更にロープウェイに乗り換え火口西駅まで運んでもらう。ここまでは観光客がいっぱいの世界だ。中岳の火口は第1火口から第7火口まであるが、現在活動を続けているのは第1火口と第2火口である。火口壁に沿って立ち入り禁止の表示と柵が設置されている。火口を覗き込んでみた。吹き上げる水蒸気の下から黄緑色の水面が見えた。私は中岳に登るため火口から離れて大きく右に周りこみ砂千里ヶ浜の端にある登山口に向かった。登山口まで行くとここからは足場を一つひとつ確認しながらの岩山の登攀となる。稜線に出るまでは急登である。阿蘇登山のアルペンガイドの殆どが東側の仙酔峡からのコースが紹介されており、私も最初はそのコースを検討していたが、現在は仙酔峡登山口までのバス路線とロープウェイの運行も中止された。そのため西側の中岳火口側から砂千里ヶ浜を回り込んでのコースとなったわけである。近年このコースから登る登山者が増えたと見えて、コース表示の黄色の矢印マークが新しくなっていたのが印象的であった。
阿蘇山最高峰・高岳山頂
稜線まで到達すると反対側の南側外輪山が遠望できた。左側は火口に切れ落ちてはいるものの緩やかな稜線漫歩である。右奥に天狗の鼻の如く空に突き出ている特徴ある根子岳の天狗岩が現れた。垂直に聳え立っており、その姿を見てあれは登れないだろうなぁと思う。
中岳山頂に到着しザックを下ろして一休みしたが、これまでに出会った登山者は5名であった。火口からの噴煙は風がほとんどないためほぼ垂直に上っていた。登頂記念の写真をセルフタイマーをセットして1枚写した。阿蘇山の最高峰は1592mの高岳である。中岳山頂から岩場を30分登ると到着した。高岳山頂では5人の男女混合グループと2人の男女ペアに出会った。丁度、お昼時間でもあったのでソーセージとレトルトカレーとカロリーメイトの行動食の食事を済ませた。今朝の天気予報では阿蘇地方は午後から雨が降り出すと予報されていたとおり黒雲が上空を覆い出してきていた。嫌な雰囲気なので雨に遭わないうちに下山しようと思った。
登山1日目の目的は中岳と高岳に登ることにあったので、その目的を果たしたため登ってきたコースを逆に辿り下山することにした。心配した天候も高岳山頂にいた時が一番悪かった程度で雨にも遭うことなく砂千里ヶ浜まで降りてきた。行きと異なり登山ルートから外れて砂千里ヶ浜の中を歩いて行った。上空にはヘリコプターによる火口上空遊覧飛行が度々やってきて旋回していた。砂千里ヶ浜の砂は締まっており登山靴が埋もれるようなことはなかった。また平地を歩いていくためにスリップなどもなく歩きやすかった。板の遊歩道が設置されているのは観光客のためのものだろと判断できた。
荒涼とした砂千里ヶ浜
火口西駅からロープウェイに乗車し4分間で阿蘇山西駅に降り、バス発車までの待ち時間にベンチに置かれた阿蘇山の写真集を見ながら缶ビールを流し込んだのである。一汗かいたあとのビールはことのほか美味く感じるものである。ホテルに戻れば温泉とビールが待っている。