活火山の秋田焼山へ
乳白色の火山湖が幻想的だった
8月31日 日曜日 晴れ
日の出は5時7分だった。避難小屋から歩いて2,3分の展望台まで登って八幡沼の向こうから上がってくる日の出を待った。風もなく空は晴れていた。右側に岩手山が南部片富士として聳え、そのはるか後ろに早池峰山が三角形の姿を現していた。2つの山は昨年登った深田久弥選定の『日本百名山』である。
厳粛な気持ちにさせる神々しい日の出だった
5時過ぎに東の空が茜色に染まり、やがて太陽が雲海から頭を出し始めた。光の矢が放たれ、非常に厳粛な気持ちにさせる神々しい日の出である。7人の仲間たちは全員展望台に顔を揃え、静かに上がっていく朝日を眺めていた。ダウンは着ているものの寒くはなかった。鳥の声は聞こえず、雲の流れもなく穏やかな日の出だった。
快晴の八幡平頂上の櫓から360度見渡せた
朝食を済ませて快晴のもとで避難小屋を7時に出発し、40分ほど歩いて八幡平頂上に着いた。昨日の山頂はガスのため真っ白で周りの景色は全く見えなかったが、今日は雲ひとつない快晴なので、櫓の上からは四方八方の景色が見渡せた。この櫓がなければ八幡平は山というよりも高原台地のため、真っ平らなので周りの景色は見えない。この櫓のおかげで緑の森が広がる景色を見ることができた。しばらく周りの景色を眺めていると、5mほど先のアオモリトドマツの梢にウソのオスが止まった。胸から頬にかけて紅色がオスの特徴であり美しい野鳥である。日本の古語では口笛のことを「うそ」といい、梢の先でフィーホーフィーホーと口笛を吹いているような特徴的な鳴き声で鳴いていたが、しばらくして飛び去ってしまった。昨日頂上レストハウスで買ったピンバッチにもウソがデザインされていたので、このあたりでは頻繁にみられる野鳥なのだろう。
緑の八幡平の景観を望むことができた
遊歩道を歩きバス停のある頂上レストハウスに向かった。頂上レストハウスの横にも櫓の展望台が設置されていた。緑の真っ平らな八幡平台地の景観が望むことができた。今日も岩手山は雄大な景色を見せている。その岩手山を取り囲むように雲海が湧き上がっていた。
自転車ロードレースが行われていた
今日は昨日バスに乗ってきた岩手県側のアスピーテラインを使って、800名参加の自転車ロードレースが行われており、7時スタートで8時20分に1番手がゴールし、続いて2番手も到着した。きつい坂道を登って1時間20分で1番・2番が相次いでゴールに飛び込んだのだった。
大雨後の登山道の状態が不明なのでドラゴン号で移動した
私たちは八幡平頂上レストハウスから、9時19分発の12人乗りマイクロバスのドラゴン号に乗り、秋田県側のアスピーテライン入口に向かった。最初の登山計画では八幡平から玉川温泉までの7時間縦走だったが、1週間前に秋田県の山間部に大雨が降り、土砂崩れや河川の氾濫などを起こし、バスも運休となってしまった。幸運にも早期復旧がなされバス便が再開されたが、大雨のあとの登山道の状態が不明なので縦走は中止し、玉川温泉までバスを乗り継ぎ、玉川温泉から焼山までの5時間往復登山に変更したのだった。
日本一の湧出量「大噴」と呼ばれている98度の源泉
玉川温泉に着き、フロントで宿泊手続きをしたあと、日帰り登山以外の余分な荷物を宿に預けて、焼山に向けて自然研究路を歩きだした。ちびっこ小沢は体調不良なのか登山には参加せず、新玉川温泉や玉川温泉の湯めぐりを選んだ。私たち6人は、98度の温泉が毎分9000Lボコボコ湧き出している日本一の「大噴」と呼ばれている源泉や、硫化水素や二酸化硫黄などの火山性ガスが音を立てて噴き出している噴気孔の脇を10分ほど歩いて焼山登山口に着いた。途中では地面にゴザを敷いて横たわっている人たちがたくさん見うけられた。玉川温泉では微量の放射線が放たれており、それが癌患者に好影響を及ぼしているらしい。肺癌患者という人にも出会った。
「登山道以外立入禁止、クマ出没注意」の看板を横目に登りだした
焼山登山口では、「登山道以外立入禁止、クマ出没注意」の看板を横目に登りだしたが、最初から足元が見えない強烈なヤブコギだった。登山道の整備は10月に行われるとネットに出ていたが、登山道にはススキが生い茂り、先が見えなかった。急な階段を30分ほど登ったところで最初の休憩を取った。白い湯気が立ち上る温泉の源泉地帯が眼下に見えた。空は晴れ渡り、汗が滝のように流れていた。
実に心地よいブナの森だった
焼山は昔からクマが多く棲んでいる山で、そのことはクマの大好物のブナの森が広範に広がっていることからも想像できた。私は登山リーダーとして道案内のために、グループの先頭を歩いていくので、見通しの悪いところではホイッスルを吹き、周囲に注意しながら樹冠が高くスラリと伸びたブナの森のなかを登っていった。木漏れ日を浴び、微かな風を受けながら実に心地よいブナの森だった。
巨大なキノコが生えていた
今年の夏は東北地方の天候が不安定で、前線が消えては発生するのを繰り返し、度々雨が降っていた。そのためなのかは分からないが、登山道に巨大なキノコが3つも4つも生えていた。キノコや山菜を探すのが好きなポパイ吉原は、目を輝かせて写真を撮っていたのだった。この後にポパイ吉原が美味そうな山菜だ、と採ってきた若芽を齧ってみると、アクが強すぎるのか口のなかが痺れてきた。すぐに吐き出したが、いやはやなんとも。
下山後のビールに匹敵ほど実に美味い水だった
登山口と焼山山頂の中間あたりに、このコースでは唯一のブナの森から湧き出した水場があった。顔や首筋を洗い、喉を潤してくれる湧き水は、下山後のビールに匹敵ほど美味かった。生き返ったような気持ちにさせてくれる水場だった。水場の周りにはたくさんのブナの実が落ちており、豊かな自然が息づいている森を実感した。
ネマガリタケに覆われた焼山(標高1366m)山頂に着いた
ブナの森を抜けると周りはネマガリタケとなり、登山道の脇に紫色のリンドウの花がたくさん見られるようになった。登山口から登りだしてから2時間後に焼山(標高1366m)山頂に着いた。山頂はネマガリタケに覆われ、直径10mほどが刈り取られた平らな場所で、周りの景色はネマガリタケが高くて見えなかった。焼山分岐まで戻り名残峠に降りることにした。
火山湖は美しいが魚は棲めない
火山性ガスが発生しているために温泉卵のような臭気が鼻をつき、登山道以外は立ち入り禁止である。名残峠まで降りると焼山分岐では見えなかった乳白色の火山湖が姿を現した。火山湖は美しいが魚は棲めない。名残峠のベンチでオニギリと味噌ラーメンの昼食を摂ることにして30分間の休憩だった。こんなに凄い景色が見られて最高。感動した。という声が聞こえてきていた。
遥か遠くに昨日歩いた平らな八幡平高原台地が見えた
名残峠から遥か遠くに昨日歩いた平らな八幡平高原台地が見え、今朝出発してきた山頂のレストハウスが小さなマッチ箱のように見えていた。あそこからザックを背負って歩いてくるのは大変なので、バス移動に計画を変更してよかった、という意見が多かった。