暴風のなかの秋田駒ヶ岳・男女岳山頂
暴風のなかの男女岳山頂
9月1日 月曜日 雨
玉川温泉は、昔むかし怪我をした鹿が温泉に浸って回復した、という言い伝えから「鹿湯」と呼ばれていたが、東北弁の訛りで話されると、青森県の「酸ヶ湯」と度々混同がおきたため、玉川の上流地域にある温泉のため1934年(昭和9年)に「鹿湯温泉」から「玉川温泉」に変更されたとのことだ。
いたるところで水蒸気が噴出している
玉川温泉は日本一の湧出量を誇り、秋田県内でも山奥にある秘湯として知られているが、強い酸性湯のために身体に傷などがあると、ビリビリ痺れて痛くなってしまう。大浴場に1歩踏み込んだ時に感じたのは、建物の造りから青森県酸ヶ湯温泉を思い出した。私は源泉100%湯、50%湯、立ち湯、箱蒸湯、湯華湯、ぬる湯、寝湯と入ってみたが、100%湯は口に含んだだけで酸っぱい味がし、醬油をたらせばポン酢が出来るほどであるが、あまりにも強すぎて胃腸に悪影響を及ぼすので、飲む場合は水で薄めるよう注意書きがしてあった。
噴出している二酸化硫黄ガス
玉川温泉には今後も訪れることもないと想われたので、玄関前で記念集合写真を撮った。それをエンジニア小林がチャットGTPを使って「なまはげ」の仮面を被った写真に加工したものがグループLINEに載せられた。IT技術は日夜進化し続け、指先でスマホをちょっと操作するだけで、写真の背景を変え、人物を消すことが簡単に出来てしまう。本物と偽物の判断がつかない世の中になってきていることを感じる。
玉川温泉旅館の玄関前で(加工前)
玉川温泉旅館の玄関前で(加工後)
玉川温泉から始発バスに乗って食料調達のために田沢湖駅に向かった。田沢湖駅前にはコンビニやスーパーなどは無かったのでキオスクでおにぎりや缶ビールを買い求めた。秋田駒ヶ岳8合目行きの路線バスは8月15日で終了していたため、駅前に待機していた田沢湖観光タクシー2台に分乗して8合目に向かった。
8合目避難小屋に宿泊することに変更した
8合目避難小屋に着き登山の準備をしているなかで、「明日の天気は大荒れなので、山頂直下の阿弥陀池避難小屋に泊まるのではなく、日帰り登山でこの8合目避難小屋に戻ってきて、ここに泊ったらどうか?」という意見が提案された。検討した結果、その意見を採用し日帰り登山の身軽な形で登ることにした。丁度、8合目避難小屋にボランティア活動で滞在していた2名の女性がいたので、私たち7人は阿弥陀池避難小屋から変更し、8合目避難小屋に宿泊する旨を伝えると、快く了承してくれた。
ガスが立ち込め真っ白な片倉岳展望台・加工前
背景に田沢湖を入れた片倉岳展望台・加工後
12時40分にガスが立ち込める登山道を登り出した。ポパイ吉原は眼鏡に水滴がついて見えなくなるし、周りが全く見えない状態で登ってもしょうがないと言って、売店から缶ビールを2本買ってきて、ビールを飲みながらみんなが下山してくるまで避難小屋にしけこむことになった。変わって昨日は温泉回りで休養していたちびっこ小沢が参加することになった。小沢は休養たっぷりのせいか眼は生気を取り戻し表情も豊かになっていた。
片倉岳展望台の「クマ出没注意」看板
最も歩かれている片倉コースには15分ずつにベンチが置かれているので、休憩しながらゆっくり登っていった。晴れていたならば片倉岳展望台からは眼下に田沢湖が拡がる素晴らしい景色が眺められるのだが、今回は強風が吹くと同時にガスに巻かれて真っ白で何も見えない。おまけに片倉岳の標柱の横には、真新しい「クマ出没注意」の看板が立てられていた。どこに行ってもクマ・クマ・クマである。今年もクマの目撃情報が1番多いのは秋田県である。
猛毒のトリカブトが咲いていた
8合目まで乗ったタクシーの運転手は「昨年は運転中に30回ほどクマと出くわした。喜んだのはお客さんだけで、こちらはクマが車にぶつかって来るのか心配で心臓がドキドキした。今年は田沢湖駅前にもクマが現れ、お店の自動ドアは全て手動ドアに設定替えした」と話した。クマが車にぶつかれば、タクシーが壊れるとのことだった。山形新幹線では線路上に立ち入ったクマが新幹線に衝突したとニュースが伝えていた。
阿弥陀池脇の木道を歩いた
ガスのなかの阿弥陀池避難小屋に着いた
阿弥陀池避難小屋で休憩
登山口から1時間10分ほどで本来宿泊する予定だった2階建ての阿弥陀池避難小屋に着いた。秋田駒ヶ岳は日帰り登山の山なので、避難小屋は小さいが小屋内は清潔だった。1階には防災用のヘルメットが準備されていた。2階の宿泊場所に上ってみると、毛布が6枚手すりに掛けられていた。15人は宿泊できる広さで、私が20年前に宿泊した避難小屋だ。
男女岳(標高1637m)山頂に着いた
男女岳(おなめだけ・標高1637m)山頂に向かって長い木の階段が続いている。強風が吹いているなかを登っていくのだが、雨は落ちていなかったが、時おり身体が吹き飛ばされるような風の強さだった。阿弥陀池避難小屋から20分で男女岳山頂に着いた。暴風が吹き荒れていた。秋田駒ヶ岳という名称の山はなく、男女岳・男岳・女岳・小岳・横岳などの総称が秋田駒ヶ岳と呼ばれており、その最高峰が男女岳である。晴れていなくて周りの景色が見られないのは残念だ。晴れていれば男岳や横岳にも登り、ムーミン谷も見おろすことが出来たのだが、天候だけは変えることが出来ない。
夕食を兼ねた宴会の始まりだった
山頂から8合目避難小屋に戻るのに、予定していたシャクナゲコースを歩くよりも、登ってきたメインコースを歩いたほうが安全なので、登ってきた登山道を降りていった。8合目まで戻るとボランティア活動の2人の女性は既に帰宅していた。私たちの他に八王子からやってきた男性が1人いたが、私たちに遠慮したのかボランティア活動の女性たちがいた場所に寝床を移動していた。私たちは1階のテーブルで夕食を兼ねた宴会の始まりだった。山登りを続けていると、雨の日や風の日に山小屋や避難小屋の有り難さを感じるのだった。