黄金に輝く太陽

 

雲海上に上る旭日

 

 田沢湖湖畔からバスに乗った登山者は私ひとりであった。バスは田沢湖駅から駒ケ岳8合目行きのもので、すでに10数人の登山者が乗車していた。乗っていた人の中に驚くほど軽装の方もいた。その姿を見て秋田駒ケ岳という山が日帰り登山の対象として広い人たちを迎え入れているのだなあと思った。バスは途中で擦れ違うことができない九十九折の山道を喘ぎながら登っていった。シーズン中はマイカー規制が取られているので6時から18時までの日勤帯はバスとタクシーなどの公用車のみが通行できるようになっている。バスの運転手に聞いたのだが、夏休みなどのベストシーズンは規制時間帯を外してマイカーが乗り入れ、8合目駐車場は満車になる盛況とのことであった。

 

 8合目駐車場をあとに指導標柱に従って片倉岳を目指すが、私が登り始めた時刻が13時30分頃であったので下山者と次々に挨拶を交わすようになった。登山道は右側に廻り込む形で付けられており駒ケ岳の西側に位置する田沢湖を見下ろす形で登って行った。時おり顔を覗かせる丸く鏡のような田沢湖の湖面は午後の光線に照らされて銀色に輝いていた。8合目辺りの紅葉は時期的に少し早いのが目立ったが、高度を上げるに従って登山道の脇の木々も色鮮やかな黄葉紅葉に変わっていった。空は雲ひとつない快晴である。30分ほど登ると片倉岳頂上に着いたが山頂の標柱が立てられていなければ展望台としか思えないものであった。しかしながらさすがに展望台の名の示すとおり見渡せる景色は見事なものであり、特に田沢湖側の景色が出色であった。下山してくる人たちも展望台で暫し足を休め周りの景色を堪能している。

 

錦秋の駒ケ岳に光る田沢湖

 

 片倉岳山頂をあとに整備された登山道に歩を進めると、汗をかくこともなく驚くほど簡単に男岳と男女岳の中央に位置する阿弥陀池に通じる木道に出てしまった。右側の男岳も左側の男女岳も色鮮やかな衣装をまとい始めている。紅葉の度合いは見た感じでは最盛期より1週間ほど早めの7〜8割程度かと思われるが、それでも素晴らしい錦秋の絵巻が展開する山上である。私は阿弥陀池避難小屋に直進し2階に上がってザックを下ろした。まず左奥に寝場所を確保してからカメラ片手の身軽な姿になり阿弥陀池を戻って男岳山頂を目指した。時おり吹きぬける強風が体のバランスを崩すが、30分ほどの登りで駒形神社の鳥居と祠が祀られている山頂に着いた。外国人の若者5人が山頂に設置されている方位盤の周りで楽しそうにお喋りをしていた。360度の展望である。眼下に田沢湖を見下ろし、岩手山、月山、鳥海山、岩木山、八甲田連山、等など東北地方の名だたる山々を一望に見渡すことができた。素晴らしい最高の眺めである。

 

 男岳山頂からの眺望に十分堪能したあと一旦阿弥陀池まで降りて反対側の丸い形の男女岳に登った。秋田駒ケ岳の場合、こちらの山頂を目指す登山者が多い関係上登山道は荒廃し、その山肌を復旧する植生作業が行われ、新たな登山道が階段状に作られている。こちらの山頂も阿弥陀池から30分ほどで登ることができる。三角点標柱が置かれた1637mという標高は秋田県では1番高い山である。こちらの山頂からの眺望も言うにおよばぬ光景である。秋田駒ケ岳という山は秋田県一番の標高ながら8合目まで自動車道が延びているため誰でも軽装で山頂を踏むことができ、素晴らしい景色を楽しむことのできる山であることを実感させてくれた山でもある。

岩木山遠望

 

 阿弥陀池避難小屋の宿泊者は、単独行が私を含めて3人、夫婦が1組、中年女性の2人組みと合わせて7人であった。それぞれがおもいおもいの夕食を摂りながら夕闇迫るまでの語らいは楽しいものである。翌朝も雲ひとつなく晴れ渡っている。夜明けの空が明るさを増し朱色から黄色に変化しその色が薄れ金色に輝きだすと雲海の一点が盛り上がって太陽が顔を出し始める。何度見ても感動する一瞬であるが、今回男女岳山頂から見た旭日は特に素晴らしいものであった。

 下山は避難小屋から8合目まで直接降りるルートは荒廃しているため避け、一旦横岳に登り、焼森を通って8合目へ下山するシャクナゲコースを選んだ。このコースの景色も素晴らしかった。雲ひとつかかっていない岩木山が紅葉の木々の間に遠望できる。バスに揺られて50分ほどで着いた「アルパこまくさ」の湯に浸かりながら山旅の疲れを癒し、今回出会った人たちとの語らいを思い出す。さあ、湯上りにはビールが待っている。

                                       2006年9月27日

 

岩手山、田沢湖を眺望する露天風呂

 

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