新緑の瑞牆山(みずがきやま)へ

 

瑞牆山山頂

 

瑞牆山という漢字を見て「みずがきやま」と読める人は多くはないだろう。私も最初は読めなかった。登山を趣味とする人でも最初見たときに読める人は少ないのだから普通の人は読めないに違いない。深田久弥の『日本百名山』に挙げられている山だが、「みずがきやま」という呼び名は、明治時代に武田山梨県知事が名付けたとのことで、それまで地元では山の形から「いぼやま」とか「こぶやま」と呼んでいたという。

 瑞牆山は山梨県北部にあり、金峰山から小川山へ続く奥秩父主脈から西に少し外れたところに多数の奇岩巨岩が立ち並ぶ特異な容貌の山で全山が花崗岩でできた美しい山である。瑞牆山山頂直下の石南花は6月中旬に咲くとされており、時期は早いと思いながら、その石南花を観るために出かけた。今回の瑞牆山もJRとバスを使うと登山口までのアクセスが不都合なので「毎日新聞旅行・山の旅」の企画したツアーに参加した。5月16日のことである。

 どこまで走っても高速道路利用料金は1日1000円というETC機能搭載車に対する利用優遇措置により土曜日曜の高速道路は混雑する。5月16日土曜日の中央高速道路も同様だった。とにかく混んでいる。新宿駅西口を7時半に出発した登山バスが須玉インターを降りて瑞牆山荘前駐車場に到着したのは10時40分だった。私たちのグループ27名が登山準備を整え出発したのは10時50分である。予定より50分ほど超過しており登山開始時刻としては遅い。今にも泣き出すかのように空はどんより曇っており山頂までの行き帰り5時間の登山が始まった。

満開の石楠花


 瑞牆山荘前から芽吹き出したミズナラ、コナラの中に登山道が伸びている。タチツボスミレの薄紫の花を足元に見ながらゆっくり歩き出す。途中、林道に出たところで午後からは雨模様であり特徴ある瑞牆山の山容が望めないことを考え、登山道を登らずに林道を10分ほど迂回し瑞牆山のビューポイントを歩いていくコースを取った。この変更は正解だった。目に飛び込んできた瑞牆山山頂は花崗岩が荒々しい見事な形である。左側から鋸のような山並みがせりあがり特長ある山容を規定付けている。一段と高い山頂と左に見える大やすり岩がひときわ立派に見える。私たちはあそこまで登っていくのだ。

 林道の脇に桃色の石南花が咲いている。今年初めて石南花を見たが綺麗な花だ。石南花は花が重なるように咲くので暑苦しく感じるときもある。落葉松も芽吹き始めているが、初期状態のため葉が小さく林全体はまだまだ焦げ茶色だ。ゆっくり歩いて50分ほどで富士見平小屋に到着した。小屋前に咲いていた石南花の花期は若干過ぎたようだが見事な大輪を咲かせていた。写真を数枚撮った。林間のテント場にはテントはひと張りもなかった。5月中旬の山はまだまだ寒いからとひとり納得した。ひと休みして私たちは山頂を目指して登山道を進んでいく。12時を過ぎた頃、天鳥川を越した広場で桃太郎岩を眺めながら昼食とした。桃太郎岩とはよく名づけたもので大岩が大きく二つに割れているのだ。桃太郎岩の高さは優に10mはあろうから、その中から桃太郎が生まれたなら巨大の桃太郎赤ちゃんとなっただろう。たのしい物語だ。

巨大な桃太郎岩

 


 昼食を終え出発する頃に雨がポツポツ降り出し始めた。岩や登山道は湿りスリップしやすくなるので足元への注意をより強くして歩み続ける。標高が高まるにつれ大きいな岩が続々と現れてくる。その岩の脇を木の根や生えている木々を掴みながら山頂を目指す。今回の登山は山頂直下に広がる石南花の花を見るために登っているのだが、私の期待とは裏腹に富士見平小屋から上では開花した石南花を見ることはなかった。確かに石南花の木は登山道の脇に沢山見られ蕾も沢山見受けられるが、それらの蕾は固く小さいものばかりであった。やはり今年も6月上旬にならなければ開花しないのではないかと思われた。残念だが仕方ないことである。

 瑞牆山山頂の標高は2230mである。広くない山頂にはお団子4個を串刺しにしたような特徴的な標柱が立っている。山頂に到着したが残念ながら眺望は小雨のため望めなかった。大やすり岩がボンヤリ霧の中に浮かび上がっていた。昼食を早めに食べておいて正解だったと改めて思った。私たちの「毎日新聞旅行・山の旅」グループは27名であり、頂上で写真を撮っているうちに「産経新聞旅行・山の旅」第1グループ40名が到着したので私たちのグループは入れ替わりに下山に入った。下山途中、「産経新聞旅行・山の旅」第2、第3グループの70名と擦れ違い、私たちのグループと合わせれば約140名の団体登山であり、瑞牆山が日本百名山に挙げられていることによるオーバーユースの状態が如実に現れていると思う。私は日本百名山登頂を目標に掲げてはいないが日本百名山ブームは依然として続いていると思う。

お団子標柱がある瑞牆山山頂


 私たちが瑞牆山荘前に下山したのは16時40分だった。着替えを済ませ山荘で妻へのお土産に赤ワインを買い、バスの中で飲む缶ビールを買った。そのビールを飲みながらバスが出発したのは目標としていた16時を1時間ほど過ぎた17時のことだった。私にとっての今回の瑞牆山登山は、山頂直下の満開の石南花は観られなかったものの特長ある山容に感動し、芽吹きだした木々は力強い生命の誕生を思わせた。登山道での石南花と足元の可憐なスミレが観られたことで満足しよう。次回は6月上旬に精神のリフレッシュ効果を期待して福島の安達太良山へ登る予定である。