水葬と鳥葬
水葬の印「梯子」 水葬場所
人が亡くなったあとの処置として土葬、火葬、水葬、鳥葬、風葬などさまざまな方法があります。日本では私が子どものころは土葬が主流でしたが、現在では諸事情により火葬が主流になっているようです。今回訪れたチベット地域では水葬、鳥葬が主流でした。
走る専用車の車窓から道路脇の岩に梯子のようなマークがたくさん付けられている場所がありましたので、不思議に思ってガイドのドルジさんに聞いたところ、水葬をした印です、とのことでした。チベット仏教では輪廻転生を信じ、死者の魂は空に上っていくと思われており、そのための梯子です、とのことで近くにタルチョの旗と祈り場が設置されていました。その場所はヤル・ツァンポ川沿いにあり、川に棲む魚が小さいため死者は小さく切り刻んで川に流すとのことでした。
鳥葬地
また、鳥葬の場所は小高い山の頂上にありました。5年前までは鳥葬を行っているのを見ることが出来ましたが、漢民族の観光客が遺族をはじめとする鳥葬の写真を撮影し、インターネット上に流したことによって、野蛮だとか怖いとかのメッセージが溢れたため、現在では見学は中止になっているとのことでした。お葬式の形態はその地域の文化ですから野蛮などというのは全くの偏見ですね。
渡辺一枝さんが著した『わたしのチベット紀行』:集英社のなかに鳥葬場所の写真と説明が載っていますが、大きく平らな一枚岩の上で死者の全てを解体し、小さな団子状にすると近くにいたハゲワシが飛んできて全てを食べてしまうといいます。ハゲワシは空の象徴であり、ここでも死者の魂は空に上っていくという思想です。ですからチベットにはお墓がありません。
ドルジさんは、水葬執行人と鳥葬執行人は別の人で、村の中で昔から代々受け継がれてきた職業ですが、村のみんなから嫌われており、その家に素晴らしい美人が生まれても決して結婚は出来ません、という説明でした。死というものは生物である人間には避けられないことであり、死後の遺体処理人は必要不可欠なのですが、運命とはいえそのような家に生まれてしまうことが可哀そうな気がしました。