スイセンと伏姫
山のなかに広がるスイセン畑
2月15日 水曜日 晴れ
千葉駅前から安房白浜駅行きの「南総里見号」という高速バスに乗った。房総半島の中央を走る車窓から長閑な田園風景を楽しみながら1時間10分ほど乗って、ハイウェイオアシス富楽里で降りた。今回の目的は富山水仙遊歩道を歩き、スイセンを鑑賞すると同時に、近くの富山の麓にある小説『南総里見八犬伝』に出てくる伏姫と八房が籠もったという洞窟を訪ねることだった。
富山水仙遊歩道と伏姫籠穴の案内板
『南総里見八犬伝』は江戸時代後期に滝沢馬琴が28年の歳月をかけた長編小説である。私の子どもの頃に東映映画として上映され、
NHKの人形劇として『新八犬伝』が放送されたのだった。その『新八犬伝』の人形を作った辻村寿三郎さんが亡くなったということを今朝の新聞で知った。
竹林のなかの山道
房総半島のスイセンの花の見頃は1月から2月にかけてである。観光としてのスイセンは内房線のJR岩井駅から保田駅にかけてのエリアが有名である。この辺りにスイセンを栽培して出荷する農家が多数あると同時に、農道の脇にたくさんのスイセンが植えられ、花が咲くころになると観光を兼ねた花見客がたくさんやってくる。私もそのひとりである。
山の斜面に広がるスイセン畑
以前、岩井駅から保田駅にかけてのスイセンロードを3回歩いたことがある。今回はそれとは別のコースを歩いた。今回の相棒は息子だった。息子はパーソナルスポーツトレーナーをやっているが、当日は夜からのスケジュールで昼間は空いているために、気分転換の意味を込めて一緒に出かけたのだった。
スイセンの咲く山道
ハイウェイオアシスから10分ほど歩くと、「富山水仙遊歩道」の標識があったので、それに沿って山のなかに入っていった。結構急な山道だった。5日前に降った雨で山道はぬかるみ、足元が不安定なのでスリップに気をつけながら登っていった。杉林や竹林のなかの道幅30cmほどの山道は遊歩道の名前にそぐわず傾斜がきつかった。
展望所から眺めた東京湾、伊豆大島、三浦半島
やっと右側の斜面にスイセンが一面に咲いている場所に出た。山道はスイセンのなかを歩くようになり、やがて分岐点にでると、、左に折れて展望台に向かった。展望台では正面に東京湾が見え、左に伊豆大島が浮かび、向こうに三浦半島が霞んで見えた。晴れていれば右側に富士山が見えるのだが、残念ながら富士山は雲のなかに姿を隠していた。
満開の頼朝桜
休憩を終えてまっすぐ進むと簡易舗装の林道に出てしまった。そこには頼朝桜と呼ばれている早咲きの河津桜が濃いピンクの花を開かせていた。地図を確認すると林道を進んでも岩井駅に戻ることが出来ないので、Uターンして分岐点まで戻り、山の中に入っていった。やがてスイセン畑が広がる富山水仙遊歩道に出た。日当たりのいいスイセン畑のなかに養蜂箱が置かれているのが眼についた。畑のなかにイノシシが土を掘り返した跡が度々見られるようになった。
蜂蜜を採取するご夫婦
スイセンの花を眺めながらゆったりした気持ちで下っていくと、養蜂箱を開けて中の蜂蜜を採取している年配のご夫婦に出会った。夫のほうはハチに刺されないように頭全体を覆うネット帽子を被って作業をしていた。頭の周りに無数のミツバチが音をたてながら飛び回っているのが見えた。
伏姫籠穴に向かう山門
田んぼ道を歩き、伏姫籠穴に向かった。富山公立こども園・小学校・中学校が統合された校舎の前を左に折れて林道を進んだ。伏姫籠穴に着くと、「伏姫籠穴」の扁額が掛けられた立派な山門があり、そこをくぐって杉林の中の階段を登っていった。行き着いたところに伏姫が八房と一緒に籠って生活をしていたという洞穴があった。中は薄暗かった。入り口に白い球が置かれており、洞穴の中は玉砂利が敷かれ、奥に8つの黒い球が並んでいるのが見えた。
伏姫籠穴の内部
頭をぶつけないように洞穴の中に入ると、左に小さな石の祠が置かれており、奥に並んでいる黒い球には八犬伝に関連して、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの文字が白く浮き上がっていた。球の重さはどのくらいあるだろうか?と思って持ち上げてみると、銅でできた球は中が空洞だったため、想像していたよりも軽かったので拍子抜けしてしまった。
満開の紅梅が散り始めていた
洞穴から出ると左手にも洞穴があるので登っていくと、そこには五輪塔が置かれてあり、昔のお墓のようだった。登ってきた階段を降りてくると紅梅が咲いており、地面に落ちた赤い花びらが印象的だった。
岩井駅前に置かれた伏姫と八房の像
吹き飛ばされるような強い風のなかを岩井駅前まで戻ってくると、小さな公園に少女のような伏姫と八房の像が置かれていた。写真を撮って近くの食事処に向かった。喫茶軽食という看板がある「しんべえ」という店に入った。事前にネットで探しておいた店で、厨房にはおじいさん、おばあさん、ふたりの孫娘が働く家族経営の食堂だった。
美味い食事だった
私が注文したのは鯖の塩焼きと牡蠣フライ定食だった。息子は豚ロース生姜焼き定食にチキン南蛮を追加で頼んだ。私は瓶ビールがなかったので、300mlの冷酒を頼んだ。出てきた冷酒は『岩井海岸』という名前で、亀田酒造が作っている地酒だった。口に含むと旨い酒だった。娘さんに「しんべえという店の名前は、ここのおじいさんの名前なの?」と尋ねたが、娘さんは店の名前の由来を知らなかった。喫茶軽食という看板を掲げていた食堂だが、安くて美味い料理で、お客も次々に入っていたのだった。
春がいっぱいの菜の花畑
13時59分発の2両電車に乗り、君津駅で総武本線直通の久里浜行きに乗り換えて帰ってきた。私にとっては有意義な1日だったと思うので、息子に感想を尋ねると、「気分転換になって良かった。またどこかに行きたい」とのことだった。