シロチドリとコメツキガニの戦い

 

砂の上に立っている鳥

自動的に生成された説明

ハサミを振りあげ最大限抵抗するコメツキガニ

 

 11月10日 木曜日 快晴

井上靖の長編小説に『海峡』というのがある。その小説の中でバードウォッチングの場所として市川塩浜が出てくる。市川塩浜は船橋三番瀬の隣である。東京湾の最奥に広範囲に続いていた干潟は、1960代後半から70年代にかけての高度成長期に全て埋め尽くされてしまい、現在は僅かに船橋三番瀬が人工干潟として残っているのみである。

 

水の中にいる鳥

自動的に生成された説明

採餌中のハマシギ

 

船橋三番瀬のバードウォッチングに出かけた。2日前が皆既月食の満月だったので、まだ大潮の期間にあたり、最大干潮時刻は12時16分となっていた。三番瀬に着いたのは9時30分だった。バードウォッチャーが集まってくるハマシギを撮影していた。以前訪れた時よりもハマシギの数が断然多くなっているのを感じた。小さい体で数千kmを渡ってきた冬鳥である。飲まず食わずで何日も、日夜飛び続けるその体力に脱帽である。

 

砂の上に立っている鳥

自動的に生成された説明

採餌中のミヤコドリ

 

ピュッピュッピュッという甲高い鳴き声があちこちから聞こえてくる。ミヤコドリの鳴き声だ。ミヤコドリは3羽から10羽ぐらいの群れとなって、あちこちに散らばりながら餌を探していた。群れは家族単位ではなく集合離散は自由なようで、採餌が終わると50羽、100羽という群れになって休んでいるのを見ることができる。野鳥撮影は太陽のあたる順光の位置まで行かないと、野鳥の美しい羽の色を撮ることができない。順光の位置まで動く間に野鳥が移動したり飛び去ってしまうことが多く、野鳥撮影も結構難しいのである。

 

水の上に立っている鳥

自動的に生成された説明

静かに佇むミユビシギ

 

11時になると西堤防側で貝を掘る人は17人に増えていたが、バードウォッチャーは私を含めて3人に減っていた。野鳥は朝方の採餌時間を過ぎると沖のほうに去ってしまうか、休憩中になるため、動きが少なくなってしまうのである。今回見られた海鳥は、ミヤコドリ、ハマシギ、ミユビシギ、ダイゼン、シロチドリであり、渡りの時期を逃すと留鳥や冬鳥しかいなくなり種類が少ない。

 

水の中にいる鳥

自動的に生成された説明

マテガイをゲットしたミヤコドリ

 

ミヤコドリの採餌を眺めていると、2枚貝のシオフキガイやマテガイなどが捕れるのはまれであり、ほとんどがコメツキガニなどの底生生物の小さなものを捕らえて食べている。従ってマテガイなどが捕れると、小躍りするばかりに浅瀬まで走り、貝の殻をこじ開けて食べるのである。ミヤコドリは細くて長い朱色のくちばし、ピンクの脚、黒と白のツートンカラーのボディ、しかもカラスぐらいの海鳥としては大きい方であり、実に目立つ鳥である。よく観察していると10羽ぐらいの群れの中にも性格の合わないのがいるらしく、広い干潟なのに喧嘩をしながら採餌をしている風景が見られる。

 

砂浜にいる鳥

自動的に生成された説明

コメツキガニの脚をもぎ取るシロチドリ

 

シロチドリの採餌方法は、千潟でじっと動かずに干潟と一体化することによって自分の体を隠し、眼は注意深く周囲を見渡し、底生生物の動きを見張りながら、獲物を確認すると素早く走って行って捕獲する。これがシロチドリの採餌方法である。シロチドリの腹は白いが背中から翼は薄茶色をしており、干潟と一体化できる。じっとしているとどこにいるのか見つけづらい鳥である。その自分の長所をいかし獲物が動き出すのを待ち、狙い定めた獲物に一直線に走っていき捕獲している。シロチドリは真っ直ぐ前に走ることも、斜めに走ることもできるのである。

 

砂の上に立っている鳥

自動的に生成された説明

コメツキガニを飲み込むシロチドリ

 

シロチドリは小さいカニなどはひと飲みしてしまうが、大きくなるとカニも抵抗し、2つのハサミを振り上げて盛んに戦っている。するとシロチドリはハサミや脚をくわえながら左右に振り回し、1本1本もぎ取っていく。その結果カニにはほとんど脚もハサミもなくなったところで飲み込まれてしまうのでる。ちょうどカワセミが捕らえた魚を左右に振りながら木や岩に打ち付けて獲物の体力を奪うように、シロチドリも嘴に咥えながら左右に振り、獲物の体力を奪いながら脚をもぎ取り丸飲みにするのである。弱肉強食という自然界の循環である。

 

座る, ボウル, カップ, テーブル が含まれている画像

自動的に生成された説明

バケツにはアサリがいっぱい

 

西堤防側で貝を掘る人の姿が増えていった。大潮なので遥か沖の方まで歩いて行くことができる。貝堀りの人と話をしてみると、「ここには毎日やってきている。アサリは店で売っている大きなものよりも、小さいほうが出汁が出て旨いんだ。家で母ちゃんの顔を見ているよりも、ここに来てアサリを掘っていた方がよっぽどいいよ」と言っていた。バケツの中をのぞいてみると、小さなアサリがいっぱい入っていたのでびっくり。確かにそうかもしれない。家で見慣れた見飽きた妻の顔を見ているよりも、アサリを取っていた方が実用性があると思われた。おじさんは楽しそうにニコニコしながら貝を掘っていた。

 

川の上の橋

中程度の精度で自動的に生成された説明

徐々に潮が満ちてきた干潟

 

私は12時で海鳥の観察と撮影を終えた。双眼鏡で干潟を確認すると、2人のバードウォッチャーが残っていた。私はいつものように草はらに戻り、レジャーシートを広げて宴会を楽しんだ。海は太陽の光を浴びてキラキラと光っていた。13時を過ぎると徐々に潮が満ちてくるのが干潟の形の変化でわかった。雲が広がってきたが全く風がない小春日和なので、心地よい酔いが回ってきていた。

 

水の中にいる鳥

自動的に生成された説明

採餌中のミヤコドリとハマシギ

 

幕張の自宅から三番瀬を訪れて野鳥観察を楽しむ費用は、往復のバス電車代が860円、昼食用のおにぎり2個で270円、飲み物代のチューハイ2缶が452円、ツマミは柿ピーとドライフルーツで300円、合計1882円である。1日の行楽として、晴れた青空の下で可愛い野鳥を見ながら観察と写真撮影をし、終わると草はらで360度の空を仰いでいっぱいやるのは、実に贅沢な趣味ではないかと思う。今回のスマホの歩数計は、歩いた距離は13、7km、歩数は20447歩を示していた。私は現在74歳である。山口県下関に住む医師の友人は、80歳まで健康で動ける身体が必要です、とアドバイスをくれる。私は毎日酒を飲んでいるが、日ごろから野外に出て身体を動かし、80歳までは医者いらずの生活を送っていきたいと思っている。

 

戻る