ブナ落葉の柔らかい山道
巨大なブナの木
ブナの林の中を歩いてみたくなったので白神山地に出かけました。前日は青森の三内丸山遺跡を訪れました。三内丸山遺跡は所謂縄文文化遺跡です。私は今まで日本全国で数多くの遺跡を廻っていますが、あれほどの規模の遺跡に出会ったのは初めてでした。栗の木の大きな櫓が建てられていました。その発掘遺跡を見ました。現在立てられている直径1mの栗の木はロシアから運んで建ててあるとの説明です。直径1mという途方もない幹の太さは今の日本には無くなってしまった栗の巨木です。このような巨木が実際に育っていたという林や森は物凄くたくさんの自然の恵みに囲まれていたであろうことが容易に想像できます。その森の近くに当事の縄文人が生活していた5000年の昔に思いを馳せました。
白神山地には弘前から直通シャトルバスで津軽峠まで入りました。バスで2時間の距離でした。津軽峠から徒歩10分の場所に有名になったブナの巨木である「マザーツリー」が立っています。地元の人に伺ったのですが、マザーツリーよりも大きいブナの木は他にあるのですが、ある写真家が1本のブナの巨木をマザーツリーとして報道したために、その木だけが有名になってしまったとのことです。マザーツリーは屋久島の縄文杉の二の舞を避ける智恵だと思いますが、巨木の根の周りは踏み固めないように立ち入り禁止のロープと板の踏み台で防護されていました。
マザーツリーに会ったあと、高倉森を抜けて暗門の滝までの山道に入りました。前日、弘前のホテルで聞いたニュースでは市街地から4kmの地点で山菜取りの老人が熊と出会い、熊の張り手で顔に大怪我をしたと報道されていましたので、一人で熊避けの鈴も持たずに山道に入っていくのはチョッと勇気がいりました。ま・いいか、と思い直し落ち葉でフカフカなった登山道を進んで行きます。次から次に大きなブナの木が現れてきます。
ブナという字を漢字で書くと「木へんに無」と書きます。木がゴツゴツ曲がっており使い物にならない無能な木、という意味だそうですが、ブナは効率一辺倒な視点から考えれば材木にもならない使用価値の無い木と見られます。しかし視点を変えれば、広葉樹としての葉の多さからたくさんの酸素を供給し、落ち葉は森のダムとしての保水力を保ち、濾過された地下水は名水を生みます。動物にとっては恵みの木です。白神山地は市街地から離れ、戦後の植林ブームからも取り残され、山の中に手付かずのまま残されたありあまる自然が見直されユネスコの世界自然遺産として登録されました。見棄てられていたからこそ現在になって見直されるという不思議さを感じます。悠久な自然は変わってはいませんが、全ては自然を取り巻く人間達の価値判断の巡り合わせです。
今回、私は津軽峠から高倉森を通って暗門の滝まで4時間休まずに歩きました。その中で世界自然遺産に登録されたことにより観光客は急激に増えていると思いました。特に津軽峠のマザーツリー周辺と暗門の滝周辺に多数の観光客が見受けられました。高倉森の山道は津軽峠から高倉森までは比較的楽に歩けますが、高倉森から暗門までが痩せ尾根の厳しい山道なのでそれほど多くの観光客は訪れず、山歩きの準備をした人たちのコースであることを実感しました。このコースで10cmほどの巨大なナメクジやニホンザルの群れ、足元には純白のギンリョウソウなどに出会いました。
インフォメーションセンターでは、「津軽峠から暗門までのコースは4時間を見てください。後半は滑りやすいので十分注意してください」とのアドバイスをもらいましたが、途中で休まないこともあり結局は2時間20分で歩きました。今度は紅葉の秋に訪れてみたいと思います。