アルプスの光と山の画家

セガンティーニを観にいく

アルプスの少女-1

アルプスの少女

 

 陶芸教室の桑原先生が「岩井さんは山登りが趣味なので今度アルプスの山々を描いたセガンティーニ絵画展が久しぶりに開かれるので観にいきませんか?」と言って招待券をくれた。招待券の開催日時は2011年11月23日から12月27日となっていた。私はセガンティーニという画家の名前を聞くのは初めてだった。チラシと招待券に印刷された絵を見てシャープさに欠ける絵との印象を受けた。なぜそのように見えたのかの謎が実物の絵を見て分かった。

 

 絵画展の会場は西新宿の損保ジャパン本社42階にある東郷青児美術館だった。JR新宿駅西口から徒歩で5分。1階の手荷物ロッカーにショルダーバックを預けるとエレベーターで一気に42階の美術館まで直行である。会場に入って驚いた。観覧客が少ないだろうと思い平日月曜日の午前中をねらって出かけたのだが思った以上の人出である。世の中には暇な人がいるものだ、という感想と同時に「33年ぶりの回顧展」というから結構人気の画家なのだろうと思った。陶芸の桑原先生は33年前の展覧会のときに会場でセガンティーニの絵を見て感動し、それ以後ファンになったという。

 

 セガンティーニという画家はイタリアで生まれ育ち、後にスイスに移住しアルプスの山々とそこに暮らす人々や動物たちを描いた。イタリア時代はミラノ美術学校でのコンクールではたびたび金賞を受賞した。そのころ描いた絵は伝統的な宗教画の暗い色彩が多かったが、結婚して家族とともにスイスに移住したあとからアルプス高原の綺麗な空気と輝く光が絵に表れだし、それ以後の作品が「光と山・アルプスの画家セガンティーニ」と称されるようになった。今回はミラノ時代を含めて遺作までのセガンティーニの画家としての全体像が分かるように展示されていた。もちろん自筆の手紙や家族と一緒に写した写真も展示されていた。

 

 会場には60点ほどの絵が展示されていた。チラシを見たときに代表作とされるアルプスの山々を描いた絵がなぜぼやけているように見えたかということだが、その謎はセガンティーニが考え出した独特の描画方法にあった。通常の絵画だと対象の色を出す場合、絵具を混ぜ合わせるが、セガンティーニは絵具を混ぜることなく絵具をそのままに短い線として描き、それを組み合わせることによって全体としての色を出していくという「色彩分割画法」を考えだしたのだった。刺繍の表現方法と同じものだ。その方法によって描いているため絵全体にシャープさが足りないように感じたわけである。

 

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「生」

 

掲示されている絵を見て感じたことは、セガンティーニという画家は物凄く絵が上手ということだ。ミラノ美術学校卒業時の自画像が展示されていたが精密で写真のような出来栄えだった。そのような基礎デッサン力と彩色技術を持ったうえで後に独自の色彩分割画法を考案し、アルプスの澄んだ空気が反映する光と山々とその地方で生活する人々を対象にした絵がかけたのだろうと感じた。惜しむらくは41歳という若さで急性腹膜炎により急逝したことである。

 セガンティーニが亡くなったのはスイスのサン・モリッツの近くにあるシャーフベルクで今も営業している山小屋である。私は、その2731mの山小屋に登ってセガンティーニが見た雄大なアルプス高原を眺め、麓のサン・モリッツに建つセガンティーニ美術館に展示されている遺作のアルプス3部作『生・自然・死』の実物を見てみたいと思う。今回の展覧会には3部作は展示されず、小さなコピーが展示された。アルプス3部作は1900年のパリ万博に出品され大好評をとったとのこと。これでまた新たな楽しみができた。

 

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