おじいさんの手

 

私は2001年6月27日〜7月4日までの7泊8日の日程で中国・内モンゴル自治区・恩格貝クブチ沙漠にポプラの苗木を植える国際ボランティア活動に参加しました。

クブチ沙漠では10年前から「沙漠を緑に」をキャッチフレーズに日本からのボランティアグループが次々に集まり、すでに200万本を超えるポプラの木々が荒涼とした沙漠を緑に変え、農地に変えています。

私が今回参加したのは『NTT東日本本社支部・第1次緑の協力隊』というもので、参加するにあたり、過去の参加者や『沙漠緑化実践協会』のホームページなどを覗いて事前知識を吸収したわけですが、実際に現場に行ってポプラの苗木を植える作業を通してさまざまな思いが浮かんできました。

 

遠山正瑛先生・95才

 

その第1は、遠山正瑛さんのことです。

遠山さんは95歳で、現在も中国・内モンゴル・恩格貝クブチ沙漠の緑化実践の陣頭指揮を取っています。日本の砂丘といえば鳥取砂丘が有名ですが、遠山さんは鳥取大学の教授として砂丘の研究をし、その延長線上として沙漠を緑化することに生涯をかけている方です。クブチ沙漠の緑化に取り組み始めたのは、なんと80才を過ぎてからです。

背筋を真っすぐにし過去10年間の実践結果としての緑化された沙漠を前に、今後10年を展望する言葉を発する時、身長152cmの小柄な体のどこにそのようなエネルギーがあるのだろうかと不思議に思えました。

 「ニイハオ カンペイ シェイシェイも良いが、大切なことは実践です」という過去の参加者が遠山さんに言われたことをホームページで読んでいましたので、私の頭の中には常にその言葉が残っていました。

 現地2日目の遠山さんの「沙漠講座」に引き続き、3日目の夜には遠山さんを囲んでの討論会がありました。

私は第1の発言者として話しながら遠山さんの手を見てさすった時に、農学博士として机の上で論文を書くだけでなく、それを自らの実践によって検証していったことが遠山さんの手に現れていました。

その手は黒く、太い指の大きな手でした。つめの中は黒ずんでいました。それは単なる学者の手ではなくまさしく働く者の手でした。

私は、無限の可能性を内在していながらも見捨てられた沙漠という土地を緑化するための実践の先頭に立ち続ける遠山さんのかくしゃくたる態度に接する時、その姿には執念が感じられ胸を打たれました。長生きして欲しいと切に思いました。

 

3日目の夜の「沙漠講座」の後で

 

第2点は、クブチ沙漠における緑化活動は次の段階に進む時期に来ていると思います。

遠山さんを先頭にした緑化実践協会と関係者、賛同する多くのボランティアの10年間

の活動により沙漠は確実に緑化できることが証明されました。今後は内モンゴル自治区、

あるいは中国政府が沙漠開発に主体的に取り組んでいくべきだと思います。

私たちが入った地域はクブチ沙漠のほんの一部にすぎませんが、手のつけられていない圧倒的な広さはボランティアではどうできるものでもありません。ボランティアはあくま

で補助・補佐をする立場であって、主人公にはなりえません。そして、一刻も早く恩格貝地区の人々が自立した生活が出来るように願うものです。

 

内藤くんとともに

 

第3点は、沙漠とはこういうものか、というのを身体で感じたことです。

沙漠の定義は学術的には構成粒子の大きさによって5種類に分けられ、私たちの入ったクブチ沙漠は「土沙漠」でした。「砂沙漠」に比べてより小さい目の細かい土の沙漠で、緑化に適していると言われています。

クブチ沙漠の中でも緑化に適している地域と適さない地域があると、現地スタッフから聞きました。水脈の問題です。私たちが植林した地域はサバンナ状態でした。

 スコップはサクッサクッと快い音と共に砂にめり込んでいきます。スコップで穴を掘るのは30数年ぶりですが子どもの頃、秋になると毎週のように山芋を掘った体験が蘇り、土埃が舞うのもものともせずにセッセと楽に穴を掘ることが出来ました。

 穴掘りの後は水入れでしたが、現地スタッフはNTT労組からのポンプの贈呈があってからバケツリレー方式からホースでの水入れに変わったので、労力的にも効率的にも飛躍的に向上したと感謝されました。実作業をしてみるとその言葉が実感できます。

共に汗を流した仲間たち

 

吹きつける砂からの防備姿

 

今年は4年続きの旱魃で現地では6月〜8月は雨季にあたるのですが全く雨が降らず、

私たちが滞在していた時も雷雲が発生していたので雨を期待したのですが、パラパラで終わってしまいとても残念でした。雨がこないと植えた苗木は完全に枯れてしまいます。

 照り付ける太陽に熱せられた空気が西風によって吹きぬけ、苗木は丁度、ドライヤーの熱風が髪を乾かす状態と同じ立場に立たされ水分を蒸発させられます。従って、私たちの作業の半分は前回植林した苗木も含めての水遣りです。これも自然条件と対応した植林の方法です。植林の本数だけが目標ではないことを学びました。

私にとってとてもよい体験が出来たクブチ沙漠への旅でした。

2001,7,7、記

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