楽しかった礼文島への夫婦旅

 

濃霧の地蔵岩 レブンアツモリソウ

濃霧の元地海岸の地蔵岩     高山植物園のアツモリソウ

 

結婚25周年記念に3泊4日の日程で夫と一緒に北海道の礼文島に花を見に出かけました。新婚旅行の時は隣の利尻島を訪れましたので、今回は礼文島だけを回ることにしました。最初は結婚届を船橋市役所に出した6月7日あたりを考えていましたが、子どもたちがお世話になった「ちびっこ学童保育所のお母さんの会」で6月上旬に済州島旅行を計画したため、日程が重なり礼文島旅行は3週間早めて5月20日からにしました。

 旅行の2ヶ月前から航空機の予約、宿の予約、歩くコースの選定などの旅の計画は全て旅なれている夫の役割です。旅なれない私のために夫はゆったりした日程で計画を立ててくれました。旅行会社が企画しているツアーに乗ってしまえば簡単なのですが、それでは自分のペースで旅を楽しむことができません。ですから私たちは最初からオリジナル旅行に行くことに決めていました。礼文島に行って感じたことは、みんな話し好きで親切な方ばかりでした。

 その1
2日目の桃岩展望台から知床間のトレッキングコースを終了し4kmの距離をフェリーターミナルに向かって歩いていく途中のできごとです。乗っていかないかい? と声をかけてくれたのはワンボックスカーの運転手さんです。4kmを歩くには1時間かかりますし、山道を歩いてきた私たちにとってはラッキー!でした。ふたつ返事で車に乗り込みました。ありが
レブンコザクラたいことです。

 その2
昨年10月にオープンした「礼文うすゆきの湯」に入浴し、バスの時刻待ちをしながら休憩室で休んでいると、隣のテーブルで飲んでいたスコトンの漁師さんが話しかけてきて、その日に泊まるコリンシアホテルの玄関まで送ってくれました。ラッキー! 送ってもらう車中で漁師生活のことや礼文島の抱えている問題点などをざっくばらんに教えてもらいました。おおよその内容は、礼文島の人口は約3000人で、働いている人の7割が漁師、3割が役場、郵便、信金、観光などになっている。漁師の数は礼文島全体で約350名。漁業協同組合は二つあり、香深漁協に100名、船泊漁協に250名ほどが所属し、漁師に定年はないが年ごとに高齢で10名程度が辞めていく。漁は4月からウニ漁が始まり、7月解禁のコンブ漁が主で9月に終了する。漁獲量でいえば香深漁協は以前制限なしに資源を獲ったので現在は資源枯渇状態にあり、船泊漁協は資源保護を前提に漁獲量制限を設けていたので安定しているが、漁師の年収は約200万円なので漁師の収入だけで生活していくのは困難な状態である。定年後の年金生活者が漁のシーズン中だけ島にやって来ての漁師をやってくる人もいる。漁師の漁場選択は早い者勝ちなのでスタート時はボートレースのように先陣争いをし、自分で見つけた良い漁場は他人には教えない。などなでで話し好きで親切な二人の漁師さんでした。

 その3
私たちが歩いたトレッキングコースは天候不順で2日間ともに遠望はきかない霧か曇りでしたが、千葉に帰る最終日は雲ひとつなく晴れ上がっていました。天候だけはしかたないと諦めていたのですが、民宿の若主人がフェリーの出航時刻にあわせて車で桃岩展望台まで連れて行ってくれました。海の上に浮くように聳えたっている利尻山の雄姿や眼下の透きとおった真っ青な海、360度の展望で素晴らしい光景を堪能することができとっても感謝しています。

二日目の朝、朝食前に旅館の近くの地蔵岩まで散歩に行きました。地蔵岩は高さ50mほどの切り立った岩塔です。立ち入り禁止の鎖を乗り越えて近くまで行ってみました。左側の崖が崩れてくるので立ち入り禁止になっているようでしたが、昔は海岸沿いの道はお互いが手を出し合い助け合いながら岩場を越えていかなければならず「恋が生まれる8時間コース」のキャッチフレーズだった、とのことです。海岸コースで事故が起きコースの安全を考慮して立ち入り禁止になった、と民宿の夕食時にお客さんから聞きました。ですからスコトン岬から出発した「8時間コース」は、海岸伝いに地蔵岩が立っている元地の「めのう海岸」まで歩き通すことが出来ず、礼文林道に合流するコースへと変更になったとのことです。コース変更は残念に思いますが、観光という視点から考えると止むを得ないのかもしれません。これは桃岩登山にもいえることです。香深から元地の間に桃岩と呼ばれている桃の形をした大岩がありますが、この桃岩へ登る登山道も崖崩れたために登山禁止になっています。桃岩展望台から見ると登れるルートはいくらでもあると思うのですが管轄する文部省は許可しないようです。元地海岸に行くバスの運転手さんは礼文島生まれの方で、子どものころに桃岩によく登ったと言ってました。


 礼文島の代表的なトレッキングコースは5ゴロタ浜の穴あき貝つ設定されています。私たちが歩いたふたつのトレッキングコースは花を見ながら歩く礼文島を代表するコースです。2日目のトレッキングコースは礼文島の南西部にあたる桃岩展望台から知床まででした。春一番に咲くレブンコザクラは殆ど蕾でしたが、時たま桃色の小さな花が小雨にぬれて咲いていました。本当に可愛い花です。エゾノハクサンイチゲは真っ白な清潔な花を広げだしています。群落地にもたびたび出会いましたので、満開になったらさぞかし素晴らしいだろうなぁと思いました。私は花の名前を知らないので夫が一つひとつ教えてくれました。夫はたびたび山に登っているので高山植物の花をよく知っています。ザゼンソウがだるまのように座っているのがおもしろかったです。桃岩展望台から知床までは約3時間の散歩でした。遊歩道の両側に柵が設けられ木道や階段が設置されクッションの役目を果たす木屑が撒かれていました。その上を歩くと身体が沈むようなほんわかした感じがします。礼文の花々はまだ眠っているようでした。観光客も少なく私たちが出会ったのは僅か3人でした。これが花のシーズンともなると数珠つなぎになるようです。私はそのようは光景を想像しただけで嫌になります。

 3日目のトレッキングコースは、日本最北端の岬のキャッチフレーズの須古屯(スコトン)岬にいきました。岬の目の前に無人島のトド島が見えるはずですが、霧のため全く見えませんでした。しかたないのですがちょっと残念でした。これから4時間ほど歩いて澄海(スカイ)岬まで行く予定ですが、その間にお店は全くないので、スコトン岬にあるお土産屋でおにぎりを買おうとしましたがありませんでした。おにぎりの代わりにイカ焼きとニシンの昆布締めとペットボトルの水を買いました。準備が整ったところで礼文町観光協会が発行した「須古屯岬〜澄海岬〜平井までの4時間トレッキングコース」に沿って出発です。スコトン岬から出発し、ゴロタ岬、ゴロタ浜、スカイ岬を歩き、途中でレブンアツモリソウの群生地をみて、船泊の双葉食堂に寄って塩ラーメンを食べ、高山植物園までの8時間コースです。

 

トレッキングコースは右に海岸線を見ながら進みますが結構登り下りが出てきます。礼文島は小さな沢がいくつもあります。その沢沿いにエゾノリュウキンカの黄色の花が咲いていました。とても鮮やかです。夫は残雪の尾瀬ヶ原に咲いているよ、と教えてくれました。また、途中のゴロタ浜の波打ちぎわにたくさんの貝殻が打ち上げられていました。波打ちぎわに降りていき貝殻を見てみると、その中に真ん丸い穴のあいた貝が混じっていました。最初、穴あき貝を見たときは、何でこんな丸い穴が開いてるの? と思いましたが、お世話になった民宿の若主人が「穴の開いた貝は、ツメタガイという貝に食べられたものです」と教えてくれました。ツメタガイは肉食の貝で二枚貝の殻にヤスリのような歯で穴を開け、吸口器を挿し入れて中身を食べるそうです。最近はホタテやアサリを食い荒らす悪者として駆除の対象になっているとのことです。それにしても自然界には不思議なことが起きるものです。10分ほどで30個ほどの穴あき貝が拾えました。私は向こう側が見通せる縁起の良い貝としてお守りにしようと思いました。

 

鉄府の漁村に入るとこの村も他の村と同じで猫が目立ちます。路端に佇む猫を見ながら歩いていると笹原の道穴あき貝で礼文島を形どった看板が立てかけてある家がありました。窓辺には丸いビーズ玉のようなものを糊で貼り付けた絵が飾られており、絵は「敦盛草」「梅に鶯」「孔雀」などで、ベットが置かれた部屋の窓際に作成中のものも置かれてありました。絵を眺めていると玄関から80歳くらいのお年寄りが出てきたのでいろいろ話しかけてみました。お年寄りは杖を突きながら、家の中に居ると身体に悪いので時々散歩に出ており最近は耳が遠くなった、と言って、こちらの問いかけた内容には答えてくれませんでしたが、アツモリソウはこの地でも生えており盗掘が絶えないので24時間カメラで監視中とのことでした。絶滅種に近いアツモリソウは貴重な花として一株2万円での売買が相場になっているとのことでした。それにしても世知辛い世の中になったものです。お年寄りの話を伺っているなかで「やはり野におけ山野草」という言葉が頭に浮かんできました。

 

4時間かかって澄海岬まで歩いていきました。花を眺めたり花の写真を撮ったりしながら通常のコースタイムよりゆっくり目でした。歩いたコースの大半は笹原に覆われた明るいコースです。時たま霧が晴れて遠くまで見渡すことが出来ました。礼文島は高い山もなく木々もあまり生えていないので、なだらかな曲線から女性的な感じを受けます。反対に隣の利尻島は高い利尻山と緑の木々に囲まれているので男性的な感じです。利尻島と礼文島の関係は、男と女、夫と妻の関係のように、二つで一つの感じがします。いいコンビで不思議な関係ですね。

 

結構、私は足にきました。今回の旅はレブンアツモリソウとの出会いが目的でしたが、自生地ではまだ芽吹いたばかりの5cmほどで、花のハの字もありませんでした。例年に比べて4月、5月が低温であったため、花の開く時季が10日から2週間遅れていると聞きました。私はレブンアツモリソウの花を見るのは初めてでしたが、高山植物園で面白い形をしたふんわりした柔らかさを感じさせる花に出会いました。夫が持っていたデジカメの電池が切れたので携帯電話のカメラで撮影しました。礼文島は高低差の少ない島ですが、それでも波打ち際から150mほどの上り下りはたびたび登場します。綺麗な海を眺めながらの、のんびりしたハイキングを予定していましたが、あいにく霧の中の歩行となり展望所に行っても全く周りが見えないことがしばしばでした。しかたのないことですが、抜けるような青空の下で真っ青な海を見ながら足元に花が咲き誇るなかを歩きたいと思いました。

 今回お世話になった旅館、ホテル、民宿、は3者3様で思い出深いものとなりました。

スカイ岬1泊目の旅館は夕陽の綺麗な元地海岸にある『旅館うすゆき』を選びましたが、あいにく霧のため夕陽は見えませんでした。5月20日が旅館の今シーズンの開館日でしたが宿泊者は私たち夫婦のみで貸切状態でした。5、6年前までは元地海岸まで足を伸ばす旅行者はいたのですが、最近は旅行者が少なくなりましたと旅館の娘さんが言ってました。その娘さんに翌日はトレッキングのスタート地点の桃岩展望台まで車で送っていただきました。気持ちの良い娘さんでした。夕食は新鮮な魚介料理です。ウニが美味しいのは勿論ですが、ソイの活き造りは最高でした。私もビールがすすみましたが、それ以上に夫の地酒がすすみました。

 2泊目は船泊のプチホテル『コリンシア』です。以前、私が偶然にテレビ番組の「旅サラダ」でコリンシアホテルを紹介していたのを見て、必ず泊ろうと思っていたので、計画段階で夫に宿泊予約をお願いしました。私が想像していたような素晴らしい綺麗なホテルでした。大きいばかりで味気のないホテルとは違って、細かいところまで気の届いたホテルでした。敷地内に天然温泉もあり、ホテル内の至るところにテディベアを始めとする縫いぐるみや礼文島の芸術家仁吉さんの作品が掲げられています。女性が喜ぶ雰囲気でした。夕食時の魚介類料理は西洋風の料理にアレンジしたものでしたが、いずれも品の良い料理でした。食事中に料理を運んできてくれる元バスガイドのウエイトレスさんが生の英語の歌詞でエーデルワイスが歌ってくれました。綺麗な声で歌を歌ってくれた人も綺麗な人でした。

 3泊目は香深に戻って漁師さんの民宿『山光』にお世話になりました。外で料理人の修行をしていた息子さんが島に戻り、お父さんと一緒に漁をしながら若夫婦で民宿を親から継いでやっています。夕食に出たウニは朝、獲ったばかりのウニで潮の香りがするもので美味いのひとことです。刺身も美味いもので、ここでも夫は地酒がすすみました。朝の散歩から帰ってきたときに裏庭で花の手入れをしていたお父さんと偶然出会いました。お父さんは漁で逞しく焼けた顔色をしていましたが花を育てるのが趣味で漁から帰ると毎日花の手入れをしているとのことでとても花のことに詳しい人でした。高山植物園よりも自然に近く花の種類も多く、無料で開放しているために花の時期にはツアー会社の観光客もたくさん訪れるとのことでした。盗掘にあった跡も生々しく残されており、お父さんは穏やかに話していましたが、お父さんが手塩にかけて育てている花を、人の庭に忍び込んで花泥棒をする人間の欲深さにはまったく呆れるしかありません。

 最終日は朝ごはんの前に港周辺を1時間ほど散歩しました。海に浮かぶ残雪の利尻山は見事なものでした。夫は来年夏に利尻山に登る予定だと言っています。1週間の予定で利尻島に3日、礼文島に3日滞在するので、私は山に登らないので礼文島のほうに合流したらどうかと、言ってくれています。元地海岸の『旅館うすゆき』さんと、香深の『民宿・山光』さんは、ぜひ再訪したいと思っています。観光客の殆どはツアー客ですから利尻島と礼文島をセットにして1日ずつのハイライト観光が多いようです。私たちのように足元の花々を観ながらゆったりとした時間を過ごすことなく慌しく去っていきます。せっかくの自然を楽しむ時間が持てるのにおしいことをしているなぁと思います。3泊4日と短い旅でしたが夫婦の絆が強まった旅でした。

 

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