『隠し剣・鬼の爪』

 

主人公・片桐宗蔵と女中・たえ

 

藤沢周平原作『隠し剣・鬼の爪』が山田洋次によって映画化されたので初日の1回目を幕張シネプレックスで見ました。

藤沢周平原作、山田洋次脚本・監督の第1作『たそがれ清兵衛』も同時代背景の物語でしたので二つの作品を比べながら見てしまいます。

 

江戸幕藩体制が終わりを告げようとするころの東北・海坂藩の下級武士の身の上に起こる出来事を大自然のゆったりとした背景の中で淡々と描いていきます。

  かつて竜虎と言われた青年剣士がお家騒動に巻き込まれていく過程で藩命によって戦わなくてはならない主人公・片桐宗蔵のやむにやまれぬ心の葛藤が描き出されます。その中で常に自分の心に忠実に、相手に対しては誠実に対応していく主人公の姿が見ているものの心を打ちます。

 

『隠し剣・鬼の爪』という作品を読んでいなかったので「鬼の爪」という剣がどのようなものか興味を持ちながら見ていました。

鬼の爪が何かを見たのは、藩命による親友との戦いの時ではなく、戦いの報告のために料亭で祝杯を挙げている家老のところに赴き、報告のやりとりの中であまりにも人間として品性のない家老にたいして怒りがこみあげ、鬼の爪を使う決心をし、城中で密かにチャンスを伺い、ついにその秘剣を使います。小柄を使う剣法になるほどなぁと納得がいきました。

 

身分制度が残っているなかにあって永瀬正敏演じる主人公と松たかこ演じる女中・きえの心の触れあいが見ている者を暖かい気持ちにさせてくれます。

  商家に嫁に行った、きえが酷い仕打ちのなかで病気で臥せっていることを知った主人公はきえを商家から奪い取って帰り、大事に身体の回復に努めさせ、きえの身体が元通りに回復すると、主人公は好きな気持ちを抑えながらきえに「実家に帰れ」と命令する。きえは涙を頬に伝わらせながら「だんなはんの命令ですか。命令ならばお受けいたします」と寂しく去っていくシーンには思わず心が締め付けられます。

 

それに対して最後の場面で武士の命のやりとりが嫌になり、武士を捨て町人になり蝦夷地に渡るためにきえのところにやってきて一緒に蝦夷に行って欲しいと頼むシーンも心が締め付けられます。

  「一目見た最初の時からきえが好きだった。ずっと好きだった。一緒に蝦夷に行って欲しい」

という主人公にきえは暫く考えて「だんなはんの命令ですか。命令ならばお受けいたします」と笑顔で応えるシーンは前のシーンとダブリながらも映画を見終わった後のよかったなぁという印象につながりました。また白く覆われた雄大な月山の山なみも見事でした。

 

月山

月山:山形県教育委員会撮影

 

私が読んだ初めての藤沢周平作品は『蝉しぐれ』でした。

舞台は同じ海坂藩です。綺麗な東北地方の自然が描き出される中で主人公・牧文四郎と幼友達・小柳ふくの成長、お世継ぎにまつわるお家騒動を通して誠実に生きる人間が描かれています。『蝉しぐれ』は市川染五郎、木村桂乃で映画化が進んでおり、既にクランクアップしており来年秋に上映される予定とのことです。

 

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