いやぁ〜 寒いのなんのって

 

オニオンスープは本当に身体が温まる

 

今シーズンも北海道河東郡上士幌町の「ぬかびら源泉郷スキー場」にやってきた。これで3シーズン連続である。私にとって「ぬかびら源泉郷スキー場」は、雪が締まっている・空いている・温泉が湧き出している、の3点セットで言うことなしのスキー場なのだ。それにしても、いやぁー、ビックリした。寒いのなんのって。手袋を外したとたん指先がジンジン痛む。冷たいのではなく本当に痛いのだ。写真を写そうとカメラをズボンのポケットから出してカットを決めるだけの短い時間で指先がジンジンする寒さ。いやはやなんとも凄い寒さだ。これがお昼の12時であり、千葉からきた身体には堪えた。こんなに寒い体験は初めてだ。標高6000m弱のタンザニアのキリマンジャロ山頂だってこんなに寒くはなかった。足の指先もジンジン、手の指先もジンジン、耳もジンジン、頬もジンジン、今回の糠平は今までで半端ないくらい一番寒い体験だった。まるで冷凍庫に入っている状態なのだ。

 

初日は、羽田空港7時10分発の十勝帯広空港行きのエァドゥに乗り、定刻通りの8時45分に快晴のもとに白く輝く滑走路に到着した。滑走路は除雪してあるが広い飛行場には積雪50cmほどの白い広場が拡がっていた。到着ゲートを出ると糠平舘観光ホテルの人が迎えに来てくれていた。ワンボックスカーに乗ったのは私一人だった。2時間もかかってホテルから雪道を走って迎えに来てくれたことを思うとドライバーさんには自然と頭が下がった。真っ白な雪の大地を走りホテルに到着したのは10時30分だった。幕張の自宅を出てから6時間後には真っ白に輝く北海道の雪の世界に到着したのだ。

 

糠平舘観光ホテルは、ぬかびら源泉郷にあるホテルの中で一番大きなホテルだ。私が宿泊するのは3回目なのでホテルの人も細かい説明を省いた。宅急便で送ってあったスキー用具、4日間のリフト券、部屋の鍵を受け取り、すぐさまスキーウェアに着替えゲレンデに飛び出した。スキーセンター前のメインゲレンデではスキー合宿が行われており、ワイドコースとサーキットコースは合宿専用のため立ち入り禁止だった。私はリフトを乗り継ぎ1230mの山頂まで行った。山頂は快晴だった。そこで写真を撮ろうとした時の異常な冷たさは今まで体験したことのないものだった。寒さというよりも痛さと言ったほうが正確だろう。

 

私は山頂から滑り降りてきてスキーリフトの係員に訪ねた。

「こういう寒さがずっと続いているの?」

係員は眼鏡の奥の小さな瞳を瞬きで隠しながら言った。

「この寒さは年明けからずっと続いていて、今朝なんかマイナス17度・18度ですよ。天気予報ではあと1週間続くって。まったく今年の冬は異常ですね・・・」

と寒さにうんざりした様子だった。

答えてくれた係員の頬は寒風にさらされリンゴのように紅かった。係員の返事を聞いてこちらのほうも余計に寒くなってくるのだった。しかし、そのような寒さの中でも山頂からのパノラマコースを8本すべり、第1高速コースとダイナミックコースをそれぞれ1本ずつ滑ってホテルに戻ってきたのである。雪は寒さのため締まっていいのだが、時折り強風がリフトを止め、粉雪を舞いあげ、舞いあがった粉雪は雪煙となって視界を塞ぐのだった。

 

夕方、テレビで天気予報を見ていたら、北海道は元日から冬型配置が強まり26年ぶりの寒波が襲来し、札幌でもマイナス5度の日が続いており日中でも連日氷点下だという。いやはやなんともの気象状況の中で北海道にやってきてしまったものだ。でも、こればっかりは気象状況なので仕方ないことである。

 

源泉温度59℃の掛け流し露天風呂

 

 2日目は目覚めた6時に露天風呂に入りに行ったところ、外に出るドアが凍っていたほどの寒さである。見上げた空はどんよりと曇り、顔には小粒の霰のようなものが当たった。外は寒いし天候は芳しくないのでテレビをみながら様子をみていると、薄日が差し天候は回復見込みなのでスキーに出かけることにした。リフトを乗り継ぎ山頂まで行って滑りだしたが、やはり寒い。スキーは極めて運動量の少ない年寄り向きのスポーツだと思う。リフトに乗れば汗ひとつかくことなく標高をかせいでくれ、そのまま滑降できる。身体の動きを最小限に抑えて滑り降りてくれば身体が熱くなることはなく、身体はかえって冷えてくる。フード付きリフトに乗っていても外温が低すぎて足や手の指先が痛くなってくる。しまいには身体も震えるほどの寒さで、まるで耐寒訓練でもしているような感覚だ。この寒さはホテルに戻りニュースを見ていると、中頓別では最低気温がー30.5℃を記録し、この冬一番の寒さだったとのこと。全く実体験から納得できる異常の寒さなのだ。

 

 今日は火曜日なのだが、昨日に比べるとゲレンデに出ている人の数が多かった。スキーヤーよりもボーダーのほうが7:3くらいの比率で多いのはどこのスキー場でも当たり前になってきているが、若者のグループが多いのは大学生がまだ冬休みなのだろう。そのような中で小学生9人のグループがインストラクターの指導のもとで元気よく滑っていた。私が宿泊しているホテルで合宿しているグループなのだ。昨日は第2高速リフトの下でレッスンを受けていた。今日は山頂リフトの下で気持ちよさそうに滑っていた。スポーツに限らず何をやるにしても好きっていうことが成長する度合を左右するが、あのくらいの年齢から指導を受けていれば上手くなるだろうなぁ、と思う。私は子どもたちやインストラクターとはホテルの食事時に会うだけだが、子どもたちがインストラクターの質問や指示に対して元気に答えているのを見ていると、よくあるスポーツ団体の上意下達だけの関係、あるいは大阪市で自殺者まで出した高校バスケット部の体罰問題とは異なり、お互いになんでも言い合える人間関係が出来上がっているのだろうと思った。

 

メインゲレンデ上部からの景観:白い建物が宿泊した糠平舘観光ホテル

 

3日目、4日目も冷凍庫のような中で滑っていたが、私は「ぬかびら源泉郷スキー場」に最低でも10年間は訪れたいと思っている。10シーズン目には70歳を超えているが元気にゲレンデを滑っている姿が想像できる。今年は、まだ3シーズン目だが、「ぬかびら源泉郷スキー場」もさびれてきていると思う。スキー客も減少し新たな設備投資もできず旧態依然としたスキー場である。ぬかびら源泉郷には目玉の観光スポットがあるわけでもなく、他の温泉地と同様に客が減少し経営がなりたたなくなり営業を終了したホテルもある。これも時代の流れであって仕方ないのだと思う。

 

昨年味わった「インカの目覚め」という焼酎がホテルの売店で売っていたので1050円で購入し、風呂上がりの夕食前に味わっていた。本来、インカの目覚めというのはジャガイモの名前であり、そのジャガイモを原料にして造った焼酎の名前を「インカの目覚め」としたのだ。ジャガイモ自体は、私も訪れたことがあるが草もまともに育たないようなアンデスの荒涼とした土地を反映して小さなものなのだが、私が昨年家庭菜園で作った時はビックリするほどの大きさになった。種イモは小さかったのだが畑の養分が多かったのだと思う。黄色みを帯びた美味いジャガイモである。そのジャガイモのデンプン質で造った焼酎は微かな甘みがあり、さっぱりした嫌みのない味なのである。

 

ホテルに現れたエゾジカ

 

 ぬかびら源泉郷には観光ポイントがなにもないと書いたが自然だけはいっぱいある。2日目のことだったがスキーを終えてホテルまで戻ってきたところ4頭のエゾジカに出会った。2頭が子どもで2頭が親のようだったが4頭は私と目を合わせた瞬間に停止し、鹿にとって私が危険人物か否かを判断し、安全だとわかるとそのまま悠然とホテルの駐車場を通過し山のほうに歩いて行った。私の宿泊した部屋は1階だったが窓の下を見ると積もった雪の上に鹿の足跡が残っていた。エゾジカには3日目にも出会った。

                             

 3日目の夕食を終えテレビの天気予報を見ていたら、糠平は最低気温がー24℃、最高気温がー7℃と報じていた。もはや笑ってしまうほかない気温である。今朝、ホテルの従業員と話したが、糠平は例年1月下旬から2月上旬にかけてー20℃にはなる寒い土地だが、年明け早々にこんなに冷えるのは珍しい。昨日はロッジの雪下ろしをしたが、いつもは半袖シャツでも汗が出るのだか昨日はジャンパーを厚く着こんでも汗は出なかった、と。いやはやなんともお寒い話で。。。

 

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