レディ・フィンガー
フンザ:ドィカルの丘からのスケッチ
今回のパキスタンの山旅にもスケッチブックと水彩色鉛筆をザック入れた。
ベースキャンプに到着しテントにザックを置く。ひと休憩したあとにスケッチブックを片手にテントサイトの周りの散策に出る。カメラを片手に足元の花々を撮影しながらスケッチに良い場所を探しての散策である。今回のパキスタンの山旅では8枚のスケッチを行い、そのうちの7枚に現地で着色した。今回出会ったヒマラヤは、昨年同様パキスタンのカラコルム地域の山々だがスケールが大きく、スケッチブックを両面ワイドで使用しているが、その中に収まりきれない。大きな対象としてヒマラヤの山々は存在している。
日本には氷河はないが、ヒマラヤでは間近で氷河に接することができる。氷河は年々再生産し続けているが、生産量に間に合わないスピードで氷河は融け続けている。それは地球温暖化の影響だと言われている。確かにミナピン村で昼食時に寄ったレストラン入口に貼られていた100年前の氷河の地図と現在の地図を対比すると氷河が小さくなっているのが明確に分かる。今回も私たちは昔、氷河であった場所を4WDで登ってきているのである。氷河を渡ってくる風は冷たいが、炎天下で容赦なく暑い太陽に照らされている身体には氷河の風は、むしろ快く感じる。
私が今回の山旅で一番描きたかったのはフンザに聳えるレディ・フィンガーである。天候は自分ではどうにもできないので、只、晴れるのを念じていた。それが伝わったのかレディ・フィンガーに出会った日は雲ひとつない快晴だった。宿泊したフンザのエンバシーホテルには各部屋への内線電話がない。モーニングコールならぬモーニングノックは早朝の3時30分。準備をして4WDのジープに分乗し、ホテルを出発したのが4時。走ること20分でドィカルの丘の麓についた。それからヘッドランプを点灯し、足元を確認しながら展望台まで登っていく。展望台に到着してもまだ日の出前だ。やがて東の空は明るさを増し、光の矢がラカポシ山頂7788mを朱に染める。ディラン7267mも山頂の白さに輝きが増す。私が描こうとするレディ・フィンガーは標高5400mと低く太陽はまだ射さない。隣のフンザピーク6800mもウルタルU峰7252m、T峰の影響でまだ日は射さない。
私は描き出し、スケッチの手を休めない。山々のアウトラインを描き、硬い絶壁の岩壁と氷壁を描いたあとは水彩色鉛筆で着色し、その上を水筆でなぞれば完成である。描き始めて30分ほどで1枚のスケッチが完成する。レディ・フィンガーとフンザピークを描いたあと、私はフンザ渓谷を挟んで左に繋がるラカポシを描いた。ラカポシはフンザ地方から眺めることのできる最高峰である。白く輝く山頂は美しく気高い。