クマゲラを探して利尻山5合目へ

 

森の中にいる鳥

自動的に生成された説明

せっせと巣をリフォーム中のゴジュウカラ

 

 5月28日(6日目) 火曜日 小雨

今日は利尻島でのクマゲラ探索の最終日である。利尻富士町の午前中は、昨日に続いて雷・強風・濃霧・波浪注意報が発令されていた。クマゲラ探索を中止しようかと思ったが、利尻山3合目の甘露泉水の近くに東屋があったのを思い出し、その東屋に滞在して甘露泉水の周りに姿を現す野鳥を観察することにした。

 

森の中の木

自動的に生成された説明

雨に濡れる原生林も風情がある

 

4時45分に宿の車で国営北麓野営場登山口まで送ってもらった。同乗者は私を含めて4人で、3人は利尻富士に登るとのことだった。野営場に着くと利尻富士に登る4人グループが登山準備を済ませて出発していった。私は小雨のなか傘をさして3合目の甘露泉水近くの東屋に向かった。東屋に着くと周りからはコマドリやツツドリの鳴き声が絶え間なく届いた。小雨が止むまで東屋で待機することにした。雨に濡れる原生林もしっとりとしてなかなか風情のあるものだ。午前6時の段階で8人の登山者が小雨のなかを利尻山の山頂を目指して登って行った。

 

森の中の建物の窓

中程度の精度で自動的に生成された説明

東屋の屋根に落ちる雨だれの音は続いていた

 

キョキョキョキョという連続した鳴き声がしばらく続いたが、声が小さいので同じキツツキの仲間のアカゲラのものだろう。東屋の屋根に落ちる雨だれの音は続いていた。7時までに更に5人の登山者が雨のなかを登って行った。東屋について2時間経つが聞こえるのは屋根に落ちる雨だれの音だけである。野鳥のさえずりも少なくなってきた。

 

森の中の木

自動的に生成された説明

生木に残されたクマゲラの巨大な食痕

 

7時30分を過ぎると雨もほとんど止んだので、東屋を出て利尻山登山道の5合目までクマゲラ探索に出ることにした。登山道を歩き出してほどなく、利尻山登山の人数を調査するための計測カウンターが設置されていた。その奥のトドマツを見ると下の方のクマゲラの食痕は古いものだが、 5〜6m上に縦長の真新しい長さ1m ほどの食痕があった。こんな大きい食痕を見るのは初めてだった。この食痕は最近のもので、これからも掘り続けられるような気がした。

 

文字が書かれた看板

自動的に生成された説明

国立公園特別保護地区の看板

 

登山道を1時間ほど登ったところに利尻山登山道維持管理協議会名の「ここから国立公園特別保護地区」の看板があった。内容は、「国立公園のなかは特に優れた自然景観・原始の状態を維持している地区です。美しい自然を守るために最も厳しい行為規制が必要とされているので、ご協力をお願いします」ということで主な行為規制として、@草木を取らない。A動物を獲らない。B焚き火禁止。C歩道外に踏み出さない。利尻島固有の生物が数多く生育・生息地域です。生態系に大きな影響を与えるため動物を放すことや、植物の植栽・播種することは禁止されています、というものだった。

 

森の中に展示されている

中程度の精度で自動的に生成された説明

4合目の「野鳥の森」でクマゲラを探す

 

4合目の「野鳥の森」まで登って行くと、トドマツやエゾマツの大木が育つ森から相変わらずコマドリやウグイスの鳴き声が頻繁に耳に届いた。しかし枯れた立ち木を双眼鏡で確認してもクマゲラの食痕は見当たらなかった。さらに登って行くと笹原のなかにダケカンバが多くなり、大木はなくなってしまった。こうなるとクマゲラは棲むことが出来ないゾーンとなっていった。周りは次第に霧に包まれていった。

 

木の幹

中程度の精度で自動的に生成された説明

5合目の「雷鳥の道標」では小雨が降り続いていた

 

5合目の「雷鳥の道標」に着いた。利尻山にライチョウは棲息していないが、エゾライチョウが棲んでいるのだろうか? 面白い道標の名前である。霧から小雨に変わっていた。持っているカメラや望遠レンズは精密機械であり雨に弱い。一応、スーパーの買い物袋で望遠レンズ部分を覆っていたのだが、細かい霧や小雨がカメラや望遠レンズに浸水しないか心配だった。下の東屋で最後に見送った2人の若者が登頂を諦めて下山してきた。このまま登って行っても上部は更に天候が悪いのだから賢明な判断だろう。

 

森の中の木

自動的に生成された説明

5合目まで登るとダケカンバが密生していた

 

3合目の甘露泉水を出る時は雨が落ちていなかったが、標高を上げるのに伴って霧となり、やがて霧は小雨に変わっていったのだった。5合目では小雨が降り続いていた。今回は利尻山登山が目的ではないし、この辺りはダケカンバの低木が密生していて、クマゲラが棲む森ではないので下山することにした。クマゲラはエゾマツやトドマツが生えている森に棲んでいる。登山道に水溜まりができているので、スリップに注意しながら下山していった。今日はクマゲラの鳴き声もドラミングの音も耳に届かなかった。原始の森のなかを降りてくると、大人がふたかかえもあるダケカンバの巨木が何本もある。シラカバの寿命は約50年だが、シラカバよりも標高の高い場所で生育するダケカンバの寿命は約250年といわれている。千葉県佐原出身の伊能忠敬は徒歩による全国測量を行い、全日本地図を完成させたが、測量は当時の蝦夷地が最初で1800年のことだった。その際に利尻島にも寄っているので、忠敬が測量で来島した時に、今、私が見ているダケカンバは若木として育っていたのではなかろうか? こんなにも巨木のダケカンバの森を通っていくと、そのことが頭をよぎった。

 

森の中の木

自動的に生成された説明

霧の原生林のなかでクマゲラを探す

 

ポン山分岐まで降りてきて、右に折れてポン山の稜線に向かった。周りの木々のなかにクマゲラの食痕は確認できる。キョキョキョキョと短い鳴き音が移動しているが、小さな声だし姿は見えないがアカゲラだろう。しかし、稜線近くまで登ったがクマゲラは見つからなかった。6時間近くクマゲラを探したので、ゆっくりと旧登山道を歩きながら利尻富士温泉まで歩いて行こう。今日で4日間あちこちの森を歩いてクマゲラを探したが、クマゲラの姿は確認できなかった。まるで森の忍者である。

 

木の枝に止まっている鳥

自動的に生成された説明

ゴジュウカラの巣を覗きに来たハシブトガラス

 

北麓野営場の事務所近くのゴジュウカラが営巣中の木に寄ってみると、なんとハシブトガラスが来て巣のなかを覗き込んでいるではないか。巣のなかにゴジュウカラの姿や卵がないことを確認すると、ハシブトガラスは飛び去っていった。営巣中の穴はすでにハシブトガラスに目をつけられていたのだ。その後、10分ほど過ぎてからゴジュウカラがやってきて巣をリフォームしていた。私は、あなたがリフォーム中の巣は、すでにハシブトガラスが見つけて、卵を産んで雛を育てるなかで食われてしまう、ということを教えてやりたかったが、その術はなかった。そのことも知らずにゴジュウカラはせっせとリフォームの作業を続けていた。これも自然現象なので、なるようにしかならないのである。

 

白いバックグラウンドの前に立っている鳥

中程度の精度で自動的に生成された説明

アカコッコによく似ていた

 

温泉を出ると梢のてっぺんで美しく鳴いている鳥がいた。くちばしが黄色で頭は黒く、身体が赤茶色でアカコッコに似た鳥だった。アカコッコは三宅島などの伊豆諸島に棲む天然記念物に指定されている野鳥である。鳥の名前はわからないが、後で確認することにしてシャッターを切った。ピッピ ペロペロ〜、ピッピ ペロペロ〜というような複雑な鳴き方だった。宿に戻って食堂で飲んでいると、17時半頃に路線バス客が到着し、今朝利尻山に登ると出かけた3人が帰ってきた。話を聞いてみると3人全員が登頂したとのことだった。気温が暖かかったので雪の状態はグズグズでアイゼンも履かず、山頂は雨の中で周りは全く見えなかったとのことだった。でも登頂できたので、おめでとうの握手をした。

 

トレイの上にある数種類の食事

自動的に生成された説明

28日の夕ごはん

 

同じバスに乗ってきたのが千葉県船橋市の61歳の女性だった。この女性が話し好きで、お互いに酒を飲みながら話をした。女性は離婚しており、ひと月に1回は国内旅行をしているとのことで、今回は利尻島を1泊、礼文島で2泊、前後に稚内に2泊で約1週間の旅だと言った。今年8月にも利尻島と礼文島に来るとのことで、常に半年先の予約を取って日本全国を旅していると話していた。いわゆる旅中毒のような女性だった。夫と離婚した後は、娘も成人して手がかからなくなり、女ひとりで自由に旅しているとのことだった。話のなかで人口20人ぐらいの島に行って、宿の人も自宅に帰ってしまって、無人の宿に1人で泊まった時は、少しおっかなかった、など面白おかしく話した。私も全国を旅しているので話しが合ったのだろう。こういう人と出会い、さまざまな話をするのも旅でのいい思い出だと思った。非常にユニークな女性だった。

 

戻る