交通手段は徒歩か馬
急ぐ時は馬で
ネパールは南はインド、北は中国にはさまれた東西に細長い国で、面積は日本の北海道、四国、九州を足したほどであり、南側はインドから続く平らなタライ平原ですが、残りは全て山岳地域であり、7000m〜8000mのヒマラヤ山脈を越えてチベット高原へとつながっています。このような地形のためネパールには鉄道はなく、南側の平原と中央部にある首都カトマンズからネパール第2の都市であるポカラにバス路線があるほかはプロペラ機やヘリコプターが離着陸できる山岳飛行場が主な交通路です。簡単にいうと、山あり谷ありの地形が続くため自動車道路は作れない、と考えた方が分かりやすい。そのため村々を結ぶ交通手段は徒歩が主流となります。
カバンを背負って学校に行くのにも、ドッコと呼ばれる籠を背負って買い物に出かけるにも全て歩きです。彼ら彼女たちは歩き慣れているので、鼻歌が後ろから聞こえてきたなと思う間もなく私たちのパーティを追い抜き、ちょっとの時間で気がつくと遥か先を歩いているという具合で、とにかく足が丈夫で歩くスピードが速いのです。江戸時代の日本人も江戸の日本橋から京都の三条大橋までの東海道487kmを11泊12日で歩いたと言いますから1日当たり40km歩いたことになり、徒歩だけが交通手段の場合は必然的に健脚になるんです。
日用品の運搬もロバ、ヤク、ゾッキョなどの動物の背に括り付けて運ぶか、人間が背負って運ぶ以外には手段がありません。動物で運ぶ場合は左右に均等にバランス良く荷造りできるものしか運ぶことができず、他のものは全て人間が運んでいます。今回のトレッキング中に出会った中で運ばれていたものでは、ベニヤ板、トタン板、建築用の柱、机、缶ビール、トイレットペーパー、インスタントラーメン、衣料、プロパンガスボンベ、解体した動物の生肉、生卵、など種々雑多なものが運ばれていました。
荷物運びの人たちに欠かせないのが街道の要所要所に設置されている石造りのチョータラと呼ばれる休憩所です。背負った荷物を置くのに適した高さに造られていて、重い荷物を肩からおろしホッと一息入れるための休息の場所が街道のあちこちに作られています。チョータラの脇には桜の木が植えてあったり、菩提樹が植えてあったりして木陰を作っている場所もあります。チョータラは物資運搬を人の背に頼っている山岳地域の一つの文化だと感じました。
全ての日用品は人によって運ばれる
徒歩が唯一の交通手段の場合、急ぐ時はどうするのかというと登場するのが馬です。日本でいえば時代劇で登場しますが、その馬が緊急時の交通手段として登場し、「貸し馬屋」が商売として成り立っています。日本ではレンタサイクル、レンタバイク、レンタカーなどは見かけますが、そのようなものが走ることができないネパールにあってはレンタホースなのでした。村々には必ず「貸し馬屋」を生業とする看板を見つけることができました。トレッキング中にも颯爽と馬にまたがり見事な手綱捌きで疾走してくる姿に出会い道を開けることが度々あり、これも山岳地域のひとつの文化であると感じたのです。