楽しかった北信濃への還暦祝いの家族旅行
参加した12名の家族
3年ぶりに家族旅行を計画した。今回の参加者は12名。旅行タイトルは『戸隠蕎麦と上田繊維専門学校を訪ねての北信濃湯田中温泉への旅』と若干長い。また昨年11月に満60歳の誕生日を迎えた「岩井淑の60歳の還暦祝い」を兼ねての家族旅行である。
考えた旅のコースは、出発と帰着はJR松井田駅として高速道路を有効に使い、1日目は、戸隠神社参拝のあと、国の文化財に指定されている徳善院『極意』本館で戸隠蕎麦を食べ、小布施の『北斎館』で葛飾北斎の肉筆画や北斎漫画を見学したあと、『岩松院』で葛飾北斎の「八方睨み鳳凰図」の見学や蛙合戦の池を見た後、湯田中温泉の露天風呂でゆったり湯に浸り、ひと汗流した後は宴会に突入、というものである。
2日目は、ワイナリー工場見学の後、親父が学んだ信州大学繊維学部を訪ね、懐古園脇の『草笛』で蕎麦を食べ帰宅、というオリジナル旅行を考えた。
空は雲ひとつなく晴れ渡った。前日の土砂降りの荒れた天気から私たちの旅を祝うかのような晴れ方であった。まず、戸隠神社中社にお参りした。私が中社に参拝するのは3回目である。それぞれがお賽銭を挙げてお参りしたあと境内で記念撮影をして徳善院『極意』本館に向かった。『極意』は、中社から歩いて2〜3分の目と鼻の先にある。途中、蕎麦処『うずら家』に長蛇の列である。私は以前『うずら家』の蕎麦を食べたことがあるが、腰もしっかりしており、ここの蕎麦は美味い。今回は家族でゆったり食べたいので『極意』本館を予約したのである。戸隠神社の宮司でもある極意さんは、若き頃モンテカルロのカーレースに参加したほどのカーマニアと聞いたが、実際当時のスポーツカーの写真が貼られていた。徳善院蕎麦『極意』本館は国の登録文化財に指定されている。茅葺屋根の見るからに歴史を感じさせる建物である。玄関を入り上がり端から正面に祭られている祭壇にお参りし予め予約しておいた蕎麦御前・精進料理「華の膳」をいただく。ビールや日本酒が進む。甘辛く煮た蕎麦団子が香ばしく美味い。静かな時間が流れていく。
関東地方の桜は既に散ってしまったが北信濃は丁度花の季節を迎えていた。満開の桜は雲ひとつない青空に映えて美しい。車窓に広がるのどかな風景は、鮮やかなピンクの桃の花、白い杏の花などが畑一面に咲き誇るため、まるで絨毯を敷いたようだ。ゆったりした気分になる。
小布施に向かった。私が小布施の『北斎館』で観たかったのは北斎の肉筆画である。北斎版画は有名で度々目にする機会はあるが肉質画はあまり知られていない。今回、初めて肉筆画を観た。繊細な絵だ。失敗が許されない筆で一気にしかも伸びやかに男装の佳人・静御前を描いた「白拍子」や、富士の後景に立ち上る黒煙の中に昇天する竜を描いた「富士越龍」などは実に見事なものだ。菊や朝顔などの植物をデッサンした下絵も展示されていた。そのデッサンには植物の茎や花の色彩が細かくカタカナでメモされていたのには驚いた。北斎の絵が地味なデッサンなどの弛まない実践の延長線上に完成されたものという実感を得た。私にとっては実に有意義な北斎館見学だった。
「富嶽三十六景」で知られる葛飾北斎は90歳まで生きた生命力の強い人だった。その北斎は晩年度々北信濃の小布施を訪れているが、88歳から1年の歳月をかけて岩松院本堂の天井に「八方睨み鳳凰図」を描いた。広さは20畳である。300円の拝観料を払って本堂に入ると天井図の真下に長椅子が置かれ「椅子に腰掛けてご覧下さい」と注意書きが張られている。天井を見上げるのに寝転がって見る人が多いための注意書きと思われる。私は見物人も少ないこともあったので、見上げるのに楽なので「寝転がってみる姿勢」を選択した。大きな絵である。大きく羽を拡げた鳳凰が下にいる私たちを睨みつけている。細く鋭い目だ。北斎が描いてから160年経ったと言われる極彩色の絵は一度も手を加えることなく輝いている。
ホテルに到着し、桜を眺めながら露天風呂で一汗流した後は、赤の座布団に座り、赤いチャンチャンコに帽子を被り宴会のスタートである。料理も酒も美味い、思いがけないプレゼントや感謝の言葉を家族から貰い、興が乗ったところでカラオケ大会に突入である。隣の宴会場でもカラオケが始まりお互いが競っているようにも感じられたが年齢層のためか隣から聞こえてくる曲は演歌が殆どであり、こちらの部屋のポップス中心とは大分趣が異なっていた。宴会は2時間半を過ぎたところで部屋を移して続いていく。
2日目は「たかやしろワイナリー」を訪ねたが、朝まだ早いためか開いていなかった。仕方がないので「小布施ワイナリー」を訪ねたが、こちらは団体バスのお客は相手にしない、とかでけんもほろろの対応であり、上田にある信州大学繊維学部に向かう。
信州大学繊維学部は私の親父が学んだ学校である。当時は上田繊維専門学校という名前であった。煉瓦の正門の前に立ち微笑んでいる親父の学生服姿の写真を子どもの頃に見た記憶があるが、その正門が今も繊維学部の正門として残っていた。その前で記念写真を写した。キャンパス内に入り30分ほど散策した。小鳥の囀りと鶯の鳴き声が聞こえるのみで青葉が出だしたキャンパスは静かだ。明るい紫の躑躅の一叢の上を熊蜂が羽音をたてながら飛び回っているほかは日曜日のキャンパスは静かなものである。
お昼時間近くになるので『懐古園』入り口脇にある信州蕎麦『草笛』に昼食を予約してあったので向かった。桜は散り始めていたが丁度「桜祭り」を開いていた懐古園は物凄い人出である。私たちは運転手の丸山さんの案内で新館の蕎麦道場の方に向かった。ここでは冷酒を飲みながら細い蕎麦を啜る。美味い。蕎麦は太目のものよりも細めのほうが好きだ。
腹を満たした後はマンズワイン小諸工場に見学に行く。長野県小諸市にあるマンズワイン小諸工場は日本を代表するワイナリーである。工場見学とテスティングを合わせて30分程の時間で無料説明してくれる。最初は10分程のDVDによるワイン工場の全体説明がされた。次にマンズワインが、ヨーロッパに比べ雨の多い日本の気候に合わせ葡萄の棚の上をビニールで覆う「レインカット方式」を開発した葡萄畑を見学し、屋外貯蔵タンクの説明から工場内見学へと移っていく。見学が日曜日であったために工場は休みであったが貯蔵樽やタンクは見学できた。その後は心待ちしたワインのテスティングである。20種類ほどのワインの栓が開けられていた。片っ端から飲んでみる。美味い。「ルージュ・ルージュ・ルージュ」という赤ワインが口にあった。2500円のワインよりも1000円のワインのほうが美味く感じられた。味覚は一人ひとり異なるので自分にあったものを飲み美味いと感じるのが一番いいのだと思う。
かくして12名の家族旅行は好天に恵まれ満足満足の結果となった。「60歳の還暦祝いの会」は私が最初で、これから久芳、孝江、実、彰子、とほぼ2年ごとに続いていき、途中5年後に、お袋の「米寿の祝いの会」も控えている。笑顔は心を豊かにしてくれる。笑顔が一杯の楽しいことはいいことだ。