神秘の輝き・無垢の青さを湛える青池
青く輝く神秘の湖
「津軽国定公園十二湖」に出かけた。十二湖は世界自然遺産白神山地に隣接する標高250m付近に大小33の湖沼が散在し、近くの大崩から望むと12の湖が見えることに由来し、今から300年前の大地震によって形成されたといわれている。
東京発:6時56分の秋田新幹線「こまち」に乗車し、秋田で「リゾートしらかみ」に乗り換え、五能線の十二湖駅には6時間ほどかかり13時15分に到着した。更に駅前から奥十二湖駐車場(青池)行きの弘南バスに乗ると5分で「日本キャニオン入口」バス停に到着する。ここからぐるりと一周する十二湖廻りがスタートする。時間にして3時間ほどの森林浴が体験できる。日本キャニオン入口には八景の池があり、湖畔の宿として2泊目にお世話になった末丸旅館が八重桜の中に静かに佇んでいた。
日本キャニオンはこのあたりの土地が軟弱な凝灰岩で形成されているため1704年に発生した大地震よる崩壊によって形成され、その後も風雨による自然浸食が現在も続いている景勝地で、アメリカ・ユタ州のコロラド川の浸食によって形成されたグランドキャニオンに似せて1953年に国立公園審査員であった探険家の岸衛さんによって命名されたとのことであるが、当然ながらそのスケールはグランドキャニオンには比べようもないが、新緑の中に白や褐色の岩肌を露出させている荒々しさには一見の価値があると思う。
キャニオン展望所までは入口から10分ほど林の中の登りであり、展望所の先端は崩れ始めており転落防止・注意喚起のためにトラロープが張られている。そこから眼下の濁川と崩落侵食され白く剥き出した岩肌を見つめる。周りの緑とのコントラストがなんともいえない雰囲気を醸し出している。谷というのは上から見下ろすのよりも下から見上げたほうが迫力あるように感じる。3日目に道なき道を踏み跡を頼りに濁川を遡り、谷の下側から崩落侵食の崖を見上げたときにその感を再確認した。
日本キャニオンを見た後は林の中の遊歩道を「日暮の池」に進む。途中の道標が紛らわしく、途中で行き戻りしながらようやく到着した日暮の池の水面は周りの新緑が反射し鮮やかに緑色に染まっていた。風もなく音もなく時間が止まったような静寂の中の緑色の光景は思わず声を挙げたほどの感動の一瞬であった。
やがて遊歩道は車道へと出て北欧式ログハウスが立ち並ぶリフレッシュ村へと進んでいった。リフレッシュ村は夏休みになれば若者たちや家族連れで賑わうであろう広く清潔なキャンプ場である。入り口に管理人と思われる方がいたので挨拶を行った。十二湖名水センターの先で道路は車両進行止めとなり、その先は歩道となり静かなブナ林の中の歩みとなる。キョキョキョという鳴き声とタタタタタタというドラミングの音が木々の間から聞こえてきた。クマゲラに会えるかもしれないと思い、鳥の姿をしばらく探していたが見つけることは出来なかった。残念だがしかたのないことである。クマゲラに会えるチャンスなどは本当にラッキーな幸運に恵まれなければ夢のまた夢であろう。
逞しいブナの大木
歩道はやがてブナやミズナラが生い茂る原生林に入っていく。若い木から老いた木まで様々な樹齢の木々が生い茂っているが、幹の胴回りが一抱えでは抱えきれない大木があちらこちらに逞しく大空に伸びている。大きな樹に寄りかかって樹皮に耳を当て吸い上げる水音に耳を傾けたが残念ながら聴診器を着けていないせいか水音は聞こえなかった。
青池は上から覗く形になった。小雨がポツポツ落ちてくる空模様なのだが水は透き通って青みを帯びている。不思議な色である。水の中には魚や蛙が泳いでいるので水は化学的変化で変色しているわけではなく、科学では証明されていない現象だという。暫く眺めていたが飽きない光景である。この青池には3日目にも出かけていった。このときは快晴だったので最初の写真にあるように太陽の光を浴びた池の水は、より青みを増して光り輝き次々現れる観光客の誰もが一様に感嘆の声を挙げていたのは事実であった。
青池の隣に鶏頭場の池という大きな湖のような池があり、畔に大町桂月の歌碑が建っている。歌碑には「山の中 三十三湖 紅葉かな」という句が書かれているが、なぜこのような句が喜ばれるのかよくわからない。句の素晴らしさではなく大町桂月という歌人のネームバリューがこの歌碑を観光目的で建たせたのではなかろうかと思われた。歌碑の脇から崩山から白神岳へとつながる登山道が延びている。この崩山からの眺望が最初に記した十二湖の由縁であるが日本海の展望も素晴らしいという。次回は熊避けの鈴を鳴らしながら白神岳まで登ってみようと思う。
路線バスの終点である駐車場の隣に挑戦館という何に挑戦するのかわからないが大きなログハウス風の土産物屋が建っている。中に入り家族3人にひとつずつのお土産を買う。妻にはキティちゃんの携帯ストラップ。娘には菊花石を二つ重ねた小さな置物。息子には干支の携帯ストラップ。私は550円の冷えた地ビールを飲んだ。渋みの効いたなかなかの味であった。
挑戦館から車道沿いに下っていくと池が数珠繋ぎに次々と現れてくる。がま池、落口の池、中の池、越口の池、王池東湖、王池西湖、二つ目の池、八景の池、などなど。これらの池の周囲はぐるりと一周できる遊歩道が造られており雨の日でない限り歩くことが出来る。足元が悪く滑りやすく濡れている雨の日には歩かないほうが無難である。足を滑らせて池の中に落ちたならば岸に這い上がるにもスリップして大変であろう。王池東湖にはボートに乗った釣り人が2名、岸からの釣り人が1人、ジッと釣り糸を垂らして当たりを待っている。実に静寂な時間が流れている。
越口の池に流れ込んでいる渓流は沸壺の池が水源である。沸壺の池は池の底から白神山地の伏流水がこんこんと湧き出しており、青池同様にコバルトブルーをしている。流れ出ている水は1986年に「青森県私たちの名水」に認定され、車道脇に建つ無料の茶室・十二湖庵で出してくれる抹茶の水に使われている。渓流に手を入れ口に含んでみると甘みが感じられ美味かったが、もう少し冷たかったらより美味く感じたろうと思った。
谷底から望む日本キャニオン
芽吹いたばかりの新緑は黄緑色ではなくて柔らかな白色である。山全体が白っぽく感じられる。いつ見ても優しい気持ちを抱かせてくれる。その白さが日一日と緑の濃さを増し文字通りの新緑へと変化していく。池の周りの遊歩道では肌に触れながら柔らかな新緑を味わうことが出来る。その新緑に対比するように山躑躅の朱色が艶やかに咲き出し、北国にやってきた遅い春を喜びいっぱいに主張しているかのようである。春は誕生の季節であり若やいだ気持ちにしてくれる。
1日目の宿泊予定の網元・静観荘に戻るために十二湖を一周して日本キャニオン入口に戻ってきてバスを待つ間に、急に目前に見える八重桜の咲いている末丸旅館に泊まりたくなり旅館に入っていって2日目の宿泊の有無を問い合わせてみた。すると「空き部屋があるのでどうぞお泊り下さい」とのことで宿泊料金を尋ねると、8千円、1万円、1万2千円の3段階なので迷うことなく8千円を予約した。酒を飲めば1泊2食で1万円となる計算である。早速、宿帳に書き込みを入れた。