森本草介の写実画を見に行った

 

横になるポーズ(1998年)

 

 東京芸術大学美術学部を出た森本草介の描く精密写実画を観に『ホキ美術館』に出かけた。

ホキ美術館は千葉市緑区郊外の静かな住宅街の中に建っている私立美術館である。館長の保木将夫は1931年生まれで80歳を超えているが、医療用不織布製品、滅菌用包装袋および各種医療用キット製品のトップメーカーであるホギメディカルの名誉会長をされている。その保木将夫が写実絵画に魅せられて作品を蒐集し日本初の写実絵画専門美術館として創ったものが『ホキ美術館』である。その美術館の開館2周年記念として「写実の可能性と大いなる挑戦」と題する企画展が20121121日〜2013519日まで開かれているので年始挨拶の途中に寄り道をして森本草介の絵画を観に行ったのである。

 

 以前、何かの雑誌でホキ美術館が紹介された記事を読んだことがあり、ずっと訪ねたいと思っていた美術館だった。妻は既に友達と一緒に出かけた場所であったが、今回は私に付き合って2度目の鑑賞だった。私が観たかったのは森本草介の絵だった。保木将夫が最初に蒐集したのは森本草介の「横になるポーズ」であり、それ以後、次々に他の画家の作品を含めて写実絵画を蒐集していったわけだが、とりわけ蒐集のきっかけとなった森本作品が一番多く、9ヶ所に分かれているギャラリーのうち、第2ギャラリーは全て森本作品が展示されていた。その数は31作品の多さだった。勿論、「横になるポーズ」も展示されていた。森本はフランスの風景を描くのを得意としているため、展示されている作品の半分は長閑な陽光が降り注ぐ風景画であり、都会の慌しさはなく静かな時の流れを伝えてくる。こういう絵を見ているとこちらも絵の中に吸い込まれ静かな時の中に生きているような気分になれるのである。

 

 絵画は大きく二つに分けることができる。ひとつは心の中に浮かび上がるイメージを描く抽象画と二つ目は画家の見たものを忠実に描く写実画だが、私は抽象画よりも写実画のほうが好きで、特に精密画が好きだ。好きな理由は単純で、写実画の場合は何が書かれているか見れば一目瞭然だからだ。

 

まどろむ(2007年)

 

 森本草介は1937年生まれなので現在75歳である。東京芸術大学芸術学部絵画科油画科を卒業後に専攻科に進み、そこを卒業すると東京芸術大学の助手をしながら絵の研鑽に励み、1966年に助手を辞してプロの画家となった経歴を持つ。見ればわかるが森本の絵は実に繊細である。髪の毛一本一本まで描き分けられ、遠目には写真と見間違うほどの出来栄えだが近くに寄って確認すると確かに油絵なのである。しかも皮膚の軟らかさ感が光の当て具合によって実に見事に表現されているのである。この文章には展示作品の中から私が気に入った3枚の裸婦の絵葉書を購入してきたのでその絵を貼り付けてあるが、女性の絵には着衣の絵もあったが身につけている服やスカートの生地までがわかるような表現がなされているのである。全体をセピア色としながら色彩を抑え、光を巧く使うプロの技に出会った。

 

Venus(2010年)

 

 2年前に描かれた「Venus」という作品に付いた森本のコメントとして「この世の中で、最も美しいものは女性像だと思います。その中でも特に裸婦。絵の題材として、これほど魅力的なものは無く、これほど難しいものも他に無いと思われます。」と述べている。

 

 今回の企画展には森本草介の「NUDE」と「アンティーク・ドール」の2作品が展示されており制作意欲は益々盛んだが、森本は描きだす作品を通して“静物でも風景でも人物でも私の全ての作品の底に流れている共通のテーマは「生きる喜び」--生の讃歌で‘生きていて良かった’と思えるような絵を描きたいと常に思っている。”ということに尽きるようだ。森本の作品は鑑賞者に‘観て良かった’と思わせる作品だと思う。

 

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