倒影の世界

 

緑映

 

 一度見たら忘れられない絵というものがある。私にとって東山魁夷が描く鏡の面に反射するような「倒影の世界」の絵がそれである。東山魁夷は日本を代表する偉大な画家であるが、91歳で亡くなるまで日本全国にスケッチ旅行に出かけ、それを元に多くの風景画を描いた。上にある絵「緑映」は80歳の時に描いた絵である。実に瑞々しい絵であり、見ているものの心が洗われていくような絵である。

 

 東山魁夷の美術館は全国に多々あるが結婚後の生活の居を構えた千葉県市川市に記念館が建っている。5月初旬に妻とともに出かけてみた。JR下総中山駅で下車し、真っ直ぐ北へ向かい日蓮上人が開いた中山法華経寺にお参りをしたあと東山魁夷記念館に向かった。中山駅から徒歩15分程度の距離だ。白馬の風見が屋根の天辺に飾られた瀟洒な記念館が住宅地の静かな環境の中に建っていた。

 入館料の500円を払い1F展示室、2F展示室を丹念に見た。1Fは東山魁夷の生い立ち年表に沿って特筆事項が写真パネルや映像となって流れていた。原画をリトグラフ印刷にする過程が展示されていた場所は多色刷り版画と同じだなぁと興味深く見学した。1Fの生い立ちを見ていくと、努力の人、誠実な人、という東山魁夷の人間性が自然と浮かび上がってくるのだった。

 

  2F展示室には今回の通常展「倒影」のテーマに沿って、北欧3国への旅行やドイツ旅行でのスケッチをもとにした作品や絶筆となった「有星」までが展示されていた。有星の絵も倒影であったが空に燦然と輝く一つ星だけが水面に反射していなかった。月の場合は反射して描かれるが、星は描かれていなかったことにより、より印象的な絵となった。

 

 通常展は1年間で7回ほど開催されているとパンフレットに書かれていた。年間パスポートは2000円なので次回はパスポートを購入し通常展が開催されるたびに訪れ、美しい絵を眺めてみようと思う。

 

 売店で図録を4種類買ったあとカフェレストランに入った。2日前に家族で上野精養軒のレストランで食事を摂ったのだが、偶然にも記念館のカフェレストランは上野精養軒直営店だった。サンドイッチを食べたのだがとても美味かった。

 

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