糞ストーブ

 

石段に貼りつけられた干し糞作り

 

 ネパールの首都カトマンズは北緯27.72度に位置し、日本の奄美大島と同じ亜熱帯気候です。ですから標高4000mを越えても山には低いとはいえ緑の木々が生えています。私たちがトレッキング6日目に宿泊した4410mのマッツェルモは牧草地になっており、夏になるとたくさんのヤクが放牧のためやってきて急峻な山に登って草を食べる風景が展開され、カルカと呼ばれる石囲いの柵があちこちに見受けられ、脇に石造りの牧童小屋が建っています。ヤクが長年歩いたところには道ができ、網の目のような模様となっています。

 

 標高4000mほどまではヒマラヤマツやヒマラヤスギなどの針葉樹が生えており枯れ枝や倒木は燃料となりますが、それ以上の標高になると燃料となる木が生えていません。そこで木に代わって燃料となるのがヤクやゾッキョの糞を乾かしたものです。糞燃料を初めてみた時はビックリしました。しかし、よく考えてみるとヤクやゾッキョなどが食べるものは草です。その糞を乾かせば固まった草そのものです。必要から生まれた糞燃料ですが、実にエコエネルギーだと思いました。しかも登山道や放牧する山に落ちているのを拾ってくればいいのですから費用はタダです。

 

 トレッキング途中でロッジの石垣や庭などを眺めると、どら焼きかパンケーキのように伸ばした糞が干してあるのに度々出会いました。乾いたものは籠や袋に入れて保存したり、軒下に積んでブルーシートで雨に濡れないように保護しながら保存している風景に出会います。

 

パンボチェ村3930mでの放牧中のヤク

 

 糞燃料は台所で薪の代用として炊事の燃料や室内を暖めるストーブの燃料として使われていました。ストーブで燃やすところを見ていましたが、1回の投入で15分ほどしか持たないため度々燃料を追加しなければならないところが少し面倒なことと、ストーブに投入する時に細かい糞塵が舞うことです。私は鼻が鈍感なのか糞塵については気になりませんでしたが、同行者の中には鼻がむずむずしてきてしまい席を外す方もいました。草を燃やすのと同じですから変な臭いなどはまったくしませんでした。糞燃料というのも標高の高いところで生活する人たちの生活の知恵であることを感じながら、温かくなった食堂でトランプに興じる私たちでした。