船橋・三番瀬の野鳥を見に行く(3)

 

餌を探すダイシャクシギ(右)とミヤコドリ(左)

 

 3月25日 晴れ

 船橋三番瀬に出かけた。今回で5回目となる。今日の最大干潮時刻は9時30分。潮の干満差は57cm。三番瀬に着いたのは7時20分だった。今回は干満差が少なく天気予報は崩れていくため、野鳥観察と撮影者は私を含めて3名だった。私は前回同様に西側防波堤に向かった。薄日が差してきた空を見上げると、青空が透き通ったように見え始めていた。

 

餌がやって来るのを待ち受けるアオサギ

 

干潟ですぐに目についたのはアオサギだった。三番瀬ではサギ類はあまり見かけない。浅瀬に小さな魚やカニなどがいないためと思われる。次に目についたのはミヤコドリだった。80羽ほどの群れがいた。ミヤコドリは片足で立って休憩しているようだった。移動するにしても、片足ケンケンのように歩いていた。

 

ミヤコドリの群れに混じって休憩中のダイシャクシギがいた

 

遠くに3羽のダイシャクシギがミヤコドリの群れに混じっているのが見えた。片脚で立って休憩中だった。野鳥観察ガイドブックには、ダイシャクシギに出会うのは稀と書かれているが、私の場合は5回のうち2回も出会っていて、4割という高い出会い率である。本当に稀に出会う野鳥なのだろうか。考えられることは、東京湾には干潟として残っている海岸が少なくなっているため、貴重な三番瀬にやってきているのではないか、と思われる。私は群れに近づいても群れが遠ざかるだけなので、防波堤の上で群れが来るのを待つことにした。

 

せわしく食事中のハマシギたち

 

30分ほど防波堤で待っていると、ミヤコドリ、ダイシャクシギ、ハマシギも汀線の後退とともに私の前にやって来た。ハマシギは150羽ほどの群れだった。相変わらずピーピーチーチー鳴きながら忙しく餌を探していた。ミヤコドリはこんなに広い汀線なのに、餌を探しながら喧嘩をしているものがいる。喧嘩をする暇があったならば、餌を探したほうがよっぽど効率的だと思うのだが、ミヤコドリにはミヤコドリなりの理由があるのだろう。ミヤコドリの心は私には分からない。甲高いピピューレという鳴き声を残して飛び立つミヤコドリもいた。

 

シオフキガイを捕らえ、浅瀬に運ぶミヤコドリ

 

ミヤコドリは餌を探し当てると、その場所で食べるのではなく、嘴で咥えたまま浅瀬の方に移動する。ウキウキしながらスキップを踏むように移動するのが微笑ましい。貝を探し当てた時は思わず心が踊るのであろう。浅瀬で貝を放し、2枚貝を突つきながら中身を取り出して食べるのである。

 

長い嘴を全て砂に差し込んで餌を探すダイシャクシギ

 

タイシャクシギは適当に砂の中に嘴を差し込み、相変わらず効率の悪い餌の探し方をしているように見える。しかし、40cmもあろうと思われる嘴を全て差し込み、顔を激しく左右に振りながら餌を探している姿は感動的である。私には泥の中を横にさらっているように見える。嘴を砂に差し込む時は勢いをつけて差し込むため、尻がぴょこぴょこ上がって滑稽な姿になるのが面白い。

 

餌を探すシロチドリ

 

私は9時10分に撮影を終えた。今回も2時間弱の撮影だった。干満差が少ないため、撮影を始めた時に比べ、汀線が殆ど後退しなかった。一時的に青空が見えていたのだが、空は薄い雲に覆われ、海風が吹いてきた。まだ撮影を続けている人が2人いた。大きな三脚に望遠レンズを据付け、折りたたみ椅子に座って頑張っていた。満ち潮でやってくる鳥を待っているのだろうが無駄だろう。

 

1本足で、ただいま休憩中のミヤコドリ

 

私は草はらに座り、缶ビールのプルトップを開けた。一杯やっていると突然6人の観察者がやってきた。鳥たちは沖の方に飛び去ってしまい、視界から消えていた。私も干潟で撮影を始めたころは分からなかったが、潮の干満差と最大干潮時刻を知ることが、干潟での重要な撮影テクニックだと思う。それと同時に気づくのは、私が1回目に失敗したように干潟の撮影にスニーカーで来る人が割と多いのである。干潟という特殊性を考えずにやってくるのだろうが、スニーカーでは鳥に近づけない。沖の汀線に浮かんでいる鳥を眺めながら右往左往しているが、これも失敗して覚えることなのだろう。

 

鳥は遠くに去ってしまった

 

お父さんと息子がバードウォッチングにやってきた。お父さんはカメラを首から下げ、息子は双眼鏡を下げていた。最初は西側防波堤の方に歩いて行った。鳥たちは沖に去り、点のように見えていた。しばらくすると戻ってきた。親子は干潟の野鳥観察で重要なことは、最大干潮時刻だということを体験から学ぶだろうか。

 

 3月26日 晴れ

 私は野鳥の観察や撮影に行く時、毎回テーマを持って出かけている。今回はウミアイサの雄を撮影することだった。

 

ウミアイサの雄(右)と雌(左)

 

今回も7時20分に三番瀬に着いた。潮干狩り場の柵内にミヤコドリの群れがいたので、その撮影から開始した。するとユリカモメの群れが飛んできた。餌の小魚を追っているようで賑やかだった。しばらく見ていると、なんとそのすぐ後ろに20羽ほどのウミアイサの群れがやって来たのだ。私はウミアイサの群れに初めて出会った。数が多いので感動しながらも、どの個体に焦点を当てたらいいのか戸惑った。ウミアイサも潜水を繰り返して小魚を追いながら移動していた。その群れの中に雄の姿も含まれていた。 

 

飛び去るユリカモメと悠々と泳ぐウミアイサの雄(手前)と雌(奥)

 

今回のテーマは、未だ撮影していないウミアイサの雄を撮ることだったので、早くもそのチャンスが巡ってきたのである。実にラッキーだった。ウミアイサの群れはユリカモメの群れとともに小魚を追って西側に移動していった。私はウミアイサの群れを追った。ウミアイサは雄も雌も潜水を繰り返していた。水から出たばかりだとトレードマークの頭髪が立っていない。やはりツッパリ頭でないとウミアイサとは思えないのだ。

 

ウミアイサの雄(右)と潜水中の雌(左)

 

ウミアイサの撮影を終えて西側防波堤に上がった。そこで他の鳥を待ち受けることにしたのだった。やがてダイシャクシギがやってきた。私が三番瀬に来るようになって6回目だが、そのうちダイシャクシギに出会ったのは3回である。確率にして5割という高い出会い率である。ダイシャクシギはめったに出会わないとされているが、やはり私が想像していた通りに東京湾沿いには干潟が減少し、そのために僅かに残っている三番瀬に餌を探しに来るのではないだろうか。私は全国に残る干潟を回ったわけではないので、ダイシャクシギに出会う確率は分からないが、ガイドブックの記載を信じるならば、そうとしか理由がつかないのである。

 

獲物を捕らえたダイシャクシギ

 

ダイシャクシギを双眼鏡で観察しながら、長い嘴を砂に差し込んで餌を捕まえるまでの回数を数えてみた。1度目は8回目で、2度目は7回目で小さな餌を捕まえていた。効率が悪いように見える餌の獲り方に見えたが、結構確率がいいことが分かった。

 

獲物を捕らえたチュウサギ

 

チュウサギがやってきた。水面を睨んで小魚やカニなどを探しているのであろうが、なかなか捕まえることができない。私が水面を見下ろしていても、小魚やカニなどの姿を確認することができない。ほとんどいないものと思われる。それでもチュウサギは辛抱強く待っているのだ。30分間チュウサギを見ていたが、獲物はひとつ捕まえただけだった。

 

今日も干潟は快晴だった

 

9時になり鳥の数も少なくなった。私は撮影を終えた。私が撮影を終えた時、まだ7人のカメラマンがいたが、鳥は沖に飛び去ってしまった。もう撮影することは無理だろう。 私は草はらに座り、ザックの中から缶ビール、ウイスキー、おにぎり、バナナ、サラミソーセージ、大福餅を出した。これから朝ご飯が始まるのだ。自然の中で澄んだ空気を吸い、全身に太陽の光を浴び、素晴らしい景色を眺めながらの食事は最高の贅沢ではないだろうか。健康な身体、酒を飲む体力、その場所まで行く脚力、それを備えていなければ、どんなにお金を積んでも体験できないのだ。ひと仕事終えたので乾杯である。実に気持ちのいい朝ごはんだ。

 

干潟に貝堀りと野鳥観察に来た人たち

 

私は野鳥観察と撮影を終えると人間観察に移る。干潟には色々な人がやってくる。野鳥観察と撮影の人はもちろんだが、バケツや網を持って貝掘りにやってくる人。ディバックを背負って干潟に佇み野鳥を見ている人。もちろん親子連れもやってくる。親子連れは見ていてほのぼのとする。子どもたちは自由な空気を身体いっぱいに感じるのだろう。走り回る姿はまるで子犬のように元気で愛らしい。それを優しく親たちは見守っている。 私の子どもたちが元気に走り回っていた30年前の光景が見えた。

 

大型ゴムボートを持って海洋調査に向かう人たち

 

エンジン付き大型ゴムボートを女性リーダーのもとに引っ張ってきた3人グループがいた。3人はウインドブレーカーを着て、胸までの長靴を履いていた。3人の姿からして単なる海遊びではなく海洋調査なのだろう。3人は沖のほうに出ていった。双眼鏡で確認すると肉眼ではよく見えなかったが、はるか沖の方に海岸線と平行に杭が打ち込まれていた。ゴムボートはそこまで行って何かの調査をしているようだった。

 

カメラマンも撮影のあとは貝堀り

 

10時30分の最大干潮時刻に合わせるようにやってきた4人のグループがいた。しかし鳥たちは沖に去っていた。私が何度か三番瀬に来て感じるのは、最大干潮時刻よりも3時間くらい前に到着して撮影を開始することがベストだと思う。撮影時間は2時間である。それ以降、鳥たちは食事を終えて遠くに去ってしまう。私は11時になって神輿をあげたが、その時に干潟に残っていた野鳥観察者と撮影者は18人に増えていた。貝を掘っている人が6人。浜辺で遊んでいる人が4人だった。風もなく温かで、とても過ごしやすい日だった。私はウミアイサの雄に出会えて満足だった。

 

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