船橋・三番瀬の野鳥を見に行く(2)
撮影開始から10分で出会ったウミアイサの雌
3月16日 晴れ
船橋の三番瀬にやってきた。今日の船橋の最大干潮時刻は12時44分だった。今回の目的はウミアイサの撮影である。三番瀬には9時25分に着き、準備を終えて9時30分から撮影を開始した。撮影を開始して間もなく、嘴の長いダイシャクシギに出あった。ダイシャクシギには5年ほど前に出会ったことがあったので2度目である。めったに出会えないダイシャクシギに最初に出会えて、幸先の良いスタートを切った。私は右手の防波堤に向かった。防波堤の直前でハシビロガモの夫婦と一緒にいたのが、ツッパリ頭のウミアイサの雌だった。早くも目的のウミアイサに出会えて、思わず心の中でガッツポーズをとった。撮影を始めてから10分と経っていなかった。
ウミアイサは潜水を繰り返して食事中だった
ラッキーだったのは、私が長靴を履いている時に追い抜いて行ったカメラマンが、遠くに移動した野鳥を双眼鏡で観察するために立ち止まったことだった。その時に私は彼を追い抜いて防波堤の近くまで歩いて行くことができた。もし彼が立ち止まらずに歩いていたならば、私はウミアイサに会えなかっただろう。なぜならば、野鳥は人間が近寄れる距離を越えて踏み込むと、身の危険を感じて飛び立ってしまうからである。私が撮影しながらウミアイサの許されない範囲内に踏み込んだ途端に、ウミアイサは飛び去ってしまったが、今回の目的であったウミアイサを早々と撮影することができ、思いもよらなかったダイシャクシギの撮影もできた。満足満足であった。後は余裕の野鳥観察に移った。
ただいま食事中のハマシギたち
防波堤から干潟を眺めていると、大量のハマシギが餌を探していた。チィチィピーピー小さな声を出し、歩きながら餌を探し続けている。干潟といっても、水が完全に引いてしまって砂が固くなったところではなく、まだ水に浸かっていて砂が柔らかく、嘴が簡単に刺さるところで餌を探している。したがって潮が沖の方に引いていくのに伴って、ハマシギたちも沖の方へと歩いて行くのだった。
ただいま食事中のダイシャクシギ
ダイシャクシギの餌の取り方を観察していると、長い嘴を砂に差し込み、嘴に触れた獲物を咥えるのだが、差し込んで獲物を獲得するのは15回に1回ぐらいの成功率である。適当に差し込んで獲物が見つかればいいような感じで突っ込んでいるように見えた。結構効率の悪い捕まえ方だと思うが、獲物が見えない砂の中にいるという条件からすれば、当たれば儲けものという感覚になるのは仕方がないことだと思う。それにしても長い嘴だ。
ただいまカイトの準備中
防波堤での野鳥観察を終え、前回休憩した草はらに戻ってきた。干潟では、まだ25人が観察と撮影を続けていた。私はビールとウイスキーで乾杯である。今日も風はなく穏やかで、雲ひとつない大空から陽の光が明るく降りそそいでいた。私が海を眺めながらくつろいでいると、私が座っている横にアンカーボルトを刺し込み、何やら準備を始めた若者がいた。その若者は赤いヘルメットをかぶり、ウェットスーツを着て、5mほどのオレンジ色の翼を広げ始めた。カイトであった。
風を捕えて膨らんだカイト
風は強く吹き出していたので、すぐ走り出すのかと期待したが、サーフボードのようなものを持って沖のほうに歩いて行ってしまった。待ち合わせたのだろう若者のカイト仲間が次々にやってきた。40歳くらいの人は青色のカイトだった。風がますます強くなってきた。しばらくしてから沖の方を眺めると、オレンジ色と青色と緑色のカイトが大きく風を捕えて膨らみ、それを操縦しながら海上を疾走する若者たちの姿が見えた。
トンポレ捕り
自転車の空気入れのようなステンレス製の筒を砂に差し込み、泥の中から吸い上げた何かの生物を採取していた人が2人いた。マグロの絵が描かれたシャツを着た作業中の若者に、「何をしているのか」尋ねたが、「数を数えている最中なので」と言われてしまった。しばらく見ていて、作業が一段落したときに再度、「何を捕っているのか」作業内容を尋ねると、「トンポレ」と答え、「冷やしておかないとね」と言いながら、収穫物を海水で洗ったあとにクーラーボックスに入れた。その時にチラッと見えた姿は、3cmほどの薄いオレンジ色をしたシャコのように見えた。トンポレと聞こえたのでGoogleで調べてみたが、該当する生物は確認できなかった。たぶん釣りのエサにするのだと思うが、再会したら何に使うものなのか確認しようと思った。
チュウシャクシギに挟まれたユリカモメ
ダイシャクシギとチュウシャクシギの姿はそっくりである。違いは身体の大きさと、ダイシャクシギにはなくチュウシャクシギにある側頭線である。チュウシャクシギの大きさは約45cmで、ユリカモメの大きさは少し小さく約40cmである。ダイシャクシギになると55cmほどになる。ほかの種類の野鳥が隣にいると大きさが比較できるので分かりやすい。
輝く三番瀬に浮かぶカモたち
3月17日 晴れ
三番瀬に9時15分に着いた。三番瀬には京葉線の二俣新町駅で降りて徒歩で向かうのだが、距離は約2kmある。その半分の1kmは防潮堤に沿って歩いて行く。防潮堤の高さは250cmほどだろうか。上部に50cmほど嵩上げした部分が白い。おそらく10年前の東日本大震災による津波被害を受けて、その対策として嵩上げしたと思われる。歩道の脇に植えられている柳が芽吹き出し、柔らかい黄緑色の葉は目に優しい。
嵩上げされている防潮堤と芽吹いたヤナギ
野鳥観察と撮影に来るのは4回目となった。空は晴れ渡り房総半島がよく見えた。しかし、驚いたことに鳥が全くいない。こんなことは4回目にして初めてだった。干潟の水がまだ引いていないからだろうが、これから鳥たちは集まってくるのだろうか。野鳥たちは何で干潮時刻を知るのだろうか。私は西側の防波堤に向かった。
小さいながら鋭い目つきのカイツブリ
防波堤の上は4mの幅があり歩くことができる。防波堤の西側は市川港である。貨物船の行き来が度々見られる。そのため水深が深く立入禁止になっているが、それでも水難事故が起きているようで、堤防の柵に注意喚起の看板が表示されている。港側は水深が深く干潮差に左右されないため、生活している野鳥の種類が干潟側とは異なる。目つきの鋭いカイツブリは港側で生活をしている。カイツブリは警戒心が強く、私と目が合うとすぐに水に潜ってしまう。
羽ばたくスズガモの雄
スズガモも水深が深いほうで生活をしている。雄雌合わせて20羽ほどの群れが泳いでいた。時折り羽ばたく姿も見られ、羽ばたいた後は嘴を使っての羽づくろいをしていた。ビンズイが尾を上下に振りながら防波堤の石垣で餌を探していた。小さな甲殻類が岩の凸凹の隙間に潜んでいるようだ。それを必死になって探していた。
ただいま食事中のミヤコドリ
10時を過ぎると、どこからともなくやってきたハマシギの4つの群れが干潟に舞い降りた。白と黒のパンダ模様のズグロカモメも4羽舞い降りた。さらに20数羽のミヤコドリが餌を探している。干潟の拡大とともに野鳥たちはやってきた。野鳥たちはどのようにして毎日変化している干潮時刻を知るのだろうか。不思議でならない。干潟に野鳥は集まってきていたのだが、撮影したいと思う種類はいなかった。
リードいっぱいで犬を遊ばせる女性
リードを最大に伸ばして犬を走らせていた女性がいた。犬は嬉しいのだろう。水の中でもバシャバシャ走り回っていた。本来ならばリードなどをつけず、犬の好きなように走らせればいいのだが、自由に走ることに慣れていない犬たちは、ときたま人間を噛んだりする。昔は違った。鎖につながれている犬などいなかった。犬は猫と同じように自由だった。犬が鎖に繋がれるようになったのは、いつの頃からだろうか。私の子どもの頃は、犬は自由で子どもたちの遊び仲間だった。
潮干がり場を整備中の海浜公園関係者
4月25日〜5月30日まで船橋三番瀬海浜公園の潮干がり場がオープンする。潮干がり会場はネットで囲われた長方形をしているが、そのネットの整備を公園の関係者8人が行なっていた。今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、入場券は公園売店での直接販売を止め、コンビニでのチケット販売とし、1日の最大入場者数を5000人に絞るとのことだった。その作業を眺めながら、私は草はらでおにぎりを食べながら一杯やっていた。風もなく穏やかだった。雲ひとつない晴天の下、太陽の光を全身で浴びながら一杯やる心地よさ。飲める身体でいられることに感謝した。