船橋・三番瀬の野鳥を見に行く(1)

 

三番瀬に集まるミヤコドリの向こうを貨物船が進んでいった

 

 3月10日 晴れ

水辺の野鳥の写真を見ていると、船橋・三番瀬で撮影した写真が多く見られた。三番瀬は東京湾の一番奥に位置し、船橋、習志野、市川、浦安に拡がる干潟・浅海域で、毎日繰り返される潮の干満により、土と海水に酸素が供給され、干潟にはたくさんの生き物が棲んでいる。その生き物を餌とする野鳥たちがたくさん集まっているのである。

 

1993年に千葉県は、この三番瀬を埋めたてて東京都大田区から千葉県市原市を結ぶ第2湾岸高速道路建設を発表した。当然反対運動が起き、自然保護の機運の高まりもあいまって計画は白紙撤回された。しかし国交省と千葉県は第2湾岸道路の建設を諦めず、2019年に再び千葉県湾岸地区道路検討会を立ち上げた。現在も検討会は回を重ねているが、検討会メンバーの船橋市は三番瀬を将来まで残す「三番瀬再生計画」を打ち出し、埋め立てることに反対している。現在も三番瀬には干潟・遠浅の海が残されている。

 

干潟が拡がる三番瀬

 

私の子どもたちが小さかったころ、私たち家族は東船橋に住んでいた。潮干狩りで三番瀬を訪れたこともあった。幕張に転居してからは三番瀬を訪れることはなかったが、野鳥観察と撮影のために訪れてみることにした。三番瀬には幕張の自宅からバス・電車・徒歩で約1時間である。8時40分に自宅を出て、三番瀬に着いたのは9時40分だった。予想通り1時間だった。

 

スタイリッシュなミヤコドリ

 

三番瀬には干潟が広がっていた。まだ潮干狩りのシーズン前だが、遠くまで目安の杭が打たれていた。野鳥撮影を目的とした三脚に超望遠レンズを付けたカメラマン3人の姿があった。野鳥で最初に目に着いたのは10羽ほどのミヤコドリの群れだった。三番瀬は日本におけるミヤコドリの最大渡来地とのことだ。ミヤコドリは目立つ野鳥である。身体は大きく白黒のツートンカラーで、朱色の長い嘴を持っている。私は失敗したと思った。干潟の撮影が初めてだった私は、うかつにも長靴の用意をしていなかったのだ。

 

よく目立つ頭が黒いズグロカモメ

 

 次に目についたのは、白黒パンダのようなズグロカモメだった。頭が黒いのでズグロと名付けられたカモメである。初めて出会ったカモメだったが、実にユニークなデザインである。1羽だけだったが、干潟で餌を探していた。

 

セグロカモメが飛び立った

 

カモたちが汀にたくさん佇んでいたが、そこまで行くのに潮が引いたとはいえ、まだ海水の残っている干潟を歩いていかなければ鳥たちに近づけない。スニーカーはずぶずぶ沈んでいってしまう。これも初めての体験だった。次回訪れる時はリュックの中に長靴を入れてこよう。長靴があればカモたちに近づけると思う。干潟は野鳥観察をする人と撮影する人たちで徐々に賑わってきていた。

 

シロチドリが3羽、餌を探していた

 

2時間の撮影を終え、帰り際に三番瀬海浜公園によってみた。娘が3歳、息子が1歳の時に家族で潮干狩りに来て、芝生広場でお昼ご飯を食べたことと思い出した。今日はテントが2張りあり、いずれも家族連れだった。風が強いが海は太陽の光を受けて銀色に輝いていた。 沖には行き交うタンカーや貨物船が6艘見えた。実に静かだった。私はポケットからスキットルを取り出した。

 

船橋・三番瀬海浜公園の芝生広場

 

 3月11日 晴れ

 昨日に続いて船橋の三番瀬にやってきた。到着したのは8時10分だった。潮の引き具合は昨日よりも大きかった。10時半に撮影を終えたが、その時点でのカメラマンの数は私を含めて24人だった。カメラマンの人数が多いせいもあって、ハマシギは近くにいるのだが、大きなミヤコドリやカモメたちは沖の方に去った。オナガガモもいたが昨日に比べるとごく少数だった。大きな鳥たちは再び汀まで戻ってこないと思う。やはり野鳥観察や撮影は、早い時間でなければならないと思う。

 

ただいま食事中のハマシギ

 

雲ひとつない快晴の下で、昨日に比べ風も微風程度だった。暖かい太陽の光を全身で浴びながら、ひと仕事を終えて缶ビールを飲む。楽しからずや。私が一杯やっていると、10人ほどのグループがやってきた。多分、三番瀬でのバードウォッチングと撮影会を兼ねてのツアーだと思われるが、今の時刻からの撮影は無理だろう。

 

干潟で野鳥撮影中のカメラマンたち

 

今日を振り返ってみると、私が今朝三番瀬に着いたのは8時10分だった。その時すでに10人ほどのカメラマンがいた。私は昨日の経験から右側防波堤の方に向かって撮影をしていった。10人のうち左側で2人、中央で5人、右側で3人だった。私は手持ちカメラで撮影しているが、大半のカメラマンは1脚や3脚を使っていた。野鳥の素早い動きに対応するため機動性を優先して手持ちにするか、手ぶれのリスクを避けるために1脚や3脚を使うかは、どのような野鳥の姿を撮りたいかの好みの問題だと思う。

 

砂紋の上を歩きながら餌を探すシロチドリ

 

今回は長靴を用意してきたので、鳥たちに近づくことができた。ハマシギやシロチドリなどは5mほどまで近づけるが、ミヤコドリは40mに近づくと移動を開始する。野鳥の場合、野鳥から見て何mまでは人間の接近を許せるという距離があり、その距離より踏み込むと警戒の鳴き声を発して移動、または飛び立ってしまう。観察者や撮影者は、その見極めが重要なのだが、安全な距離であれば野鳥たちは逃げずに餌をついばんでいる。

 

ミヤコドリの上を舞うハマシギ

 

私は撮影に600mmの望遠レンズを使っているが、三脚に装着し2倍のコンバーターをかませて1200mmで撮影できたら、素晴らしい野鳥の姿が撮れるだろう。でもアマチュアカメラマンとしては600mmで十分である。現在の三番瀬は湧き水が湧き出しているようで、干潟に小さな流れも確認できる。水は澄み、干潟に無数の穴が開いており、窪みにはイソギンチャクなども確認できる。カキをはじめとした貝殻は海岸に無数に打ち上がっている。それだけ生物が豊富なことを伺わせる。

 

バカ貝を捕らえたミヤコドリ

 

ミヤコドリで思い出すのは、時代劇の清水次郎長に登場する森の石松と都鳥吉兵衛のことだ。私の子どもの頃は、東映の時代劇が盛んだった。その中で清水次郎長といえば子分の大政・小政に続いてヒーローは中村錦之助が演じた森の石松だった。森の石松はチンピラヤクザだが、次郎長親分の代参で讃岐の金比羅さんにお参りした帰り道の浜松で、都鳥の吉兵衛親分の世話になる。その際に預かっていた次郎長へ渡す香典を吉兵衛に騙し取られ惨殺される。これに怒った次郎長が浜松に乗り込み、吉兵衛を仕返しで殺す筋書きなのだが、ミヤコドリという野鳥の名前を聞くと、次郎長・石松・吉兵衛の関係を思い浮かべる。今は時代劇のテレビ放映もなくなり、CSの時代劇専門チャンネルで見るだけである。

 

干潟には砂紋が広がっていた

 

干潟には砂紋ができていた。砂紋は波跡とも砂漣とも呼ばれているが、砂漠や砂丘などで風によって作られる風紋に対し、海底で波によって作られるものが砂紋である。砂紋は潮が引くことによって姿を現してくる。スーパーの買い物袋を左手に下げ、右手で砂紋をかき回している男の人がいた。近寄って「何が取れるんですか?」と尋ねてみた。男は「貝です。」と言った。手元を見るとバカ貝が10個ほど入っていた。私は足元の2個のバカ貝を拾って「ここに2個ありますよ」と言って渡した。3月はまだ海水温が低いため、潮干狩りシーズンではないが、三々五々干潟を訪れた人たちが貝を拾っている。 それも海遊びとしていいことだと思う。

ウミアイサの雌

 

冠羽がボサボサの2羽のウミアイサを撮影したが、距離が遠かったこともありピントが甘かった。ウミアイサは私が会いたかった野鳥である。撮影している時は遠すぎてウミアイサだとは分からなかったが、三番瀬に来ていることが分かったので、次回の撮影が楽しみである。

 

干潟に群れるミヤコドリ

 

12時現在、カメラマンの数は10人に減った。汀で餌を食べていたハマシギさえも、どこかに飛び去ってしまった。ここから見渡す限り鳥の姿は確認できない。はるか遠い沖の方にでも行ってしまったのだろう。諦めきれずに右や左に歩いていくカメラマンもやがて消えていくだろう。私は草の上で一杯やりながらまどろんでいた。

 

1羽のダイゼンが干潟の砂紋の上を歩いていた

 

1羽のダイゼンが干潟を歩いていた。その姿を眺めながら缶ビールのあと、ウイスキーの水割りを飲んでいたが、いつのまにか草の上でそのまま眠ってしまった。14時半に目が覚めると、潮は足元まで満ちて来ていた。すでにカメラマンたちの姿はひとりもなく、カモたちの姿も全く見えなかった。

 

飛び立つミヤコドリ

 

2日間三番瀬で野鳥観察と撮影して感じたことは、三番瀬干潟にはヨシなどの植物が生えていないために、集まってくる野鳥の種類が少ないように感じた。以前出かけた谷津干潟の場合は、干潟の脇にヨシや木々などが茂っているため、集まってくる野鳥の種類が三番瀬よりも多い印象を受ける。しかしミヤコドリ、シロチドリ、ハマシギ、ダイゼン、ウミアイサなどは、三番瀬に来て初めて出会った野鳥たちだった。

 

干潟で食事中のハマシギたち

 

今回気がついたことは、花見川沿いの野鳥観察や撮影では分からなかった潮の干満と野鳥たちの関係だった。野鳥たちは潮が引き、干潟が拡がったところに餌を探しに集まってくるので、野鳥観察と撮影は干潮時刻との関連が重要だということだった。潮の満ち引きは1日に2度あるので、その干潮時刻に合わせて観察と撮影に出かけていくことだ。ネットで調べれば干潮時刻表は簡単に調べられるので、次回は朝の干潮時に合わせた日にちを選んで出かけようと思った。野鳥は動物園で飼われている鳥と違い移動が自由なので、会いたい野鳥に出会えるかは全くの偶然である。

 

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