お父さんとお母さんは連れだってよく映画を見に行きます。

近くの幕張メッセのそばに「幕張シネマ10」

という映画館ができたからです。

『阿弥陀堂だより』も二人で観に行きました。

 

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北林谷栄さんは素敵なおばあさんでした

                             岩井 彰子

『阿弥陀堂だより』ポスター

 

『阿弥陀堂だより』は長野県佐久市でお医者さんをされている南木佳士さんが書かれた本です。

南木佳士さんは『ダイヤモンドダスト』という作品で第100回芥川賞を受賞された方で、お医者さんという仕事から医療と人間の関係をテーマとした作品が多いようです。

 

 映画の『阿弥陀堂だより』は夫と一緒に観ましたが観る前に本を読みました。

夫から手渡された本の帯には「忘れていたもの­…真摯に生きること、人生を慈しむこと」と書かれ、「作家として自信を失くした夫と、医師としての方向を見失った妻は、山間の美しい村でふしぎな老婆に出会う」という作品のさわりが書かれていました。本は一気に読んでしまいました。その内容がどういう映画になっているのかとても興味がありました。

 

 映画は長野県飯山市というところで1年間かけて作ったとのことですから、物語りは春夏秋冬それぞれの美しい自然のなかで展開します。私は千葉の夷隅郡という田舎で生まれ育ちましたので、自然の中にどっぷりと包まれた生活を見ると田舎に帰ったようなかんじになり気持ちがホッとなごみます。

 

物語はヒモのような存在の売れない作家の寺尾聡さんと最先端医療現場で働くエリート医師の樋口可南子さんのたんたんとした夫婦関係と、妻が心の病気になってしまった後で夫が言葉ではあらわさないものの、妻を包み込みながら自然があふれ人の心が優しい田舎に帰って生活することで元気な姿を取り戻し、新たに生きていく方向を見出していく内容です。そのなかで阿弥陀堂を守っている90才を越える北林谷栄さんのおばあちゃんの短い言葉が町の広報誌に「阿弥陀堂だより」として載ります。

 

北林谷栄さんからは朴訥ながらも自分が生きてきた長い年月が身体全体から感じられ、話す言葉のはしはしに苦労を苦労と感じないように生きてきたし、又、そのように生きざるをえなかったおばあちゃんの生活の重みが伝わってきました。もう亡くなってしまいましたが田舎のおばあちゃんを思い出しました。北林谷栄さんはとても素敵なおばあちゃんだと思いました。

 

樋口可南子さんは田舎の自然がいっぱいでゆったりした生活の中で心も身体も回復し、「阿弥陀堂だより」を担当している町の職員である聴覚障害者の娘さんの生死をさまよう大病を都会で生活していた時の最先端医療知識と体験で見事に治します。その医師としての技術を見込まれて新たに建てられる町の総合病院の院長になることを頼まれ、医師としての自信も戻ってきたので快く引き受けます。

 都会の生活では決して満たされなかった人と人とのさまざまなふれあいと周りの自然との関係を通して本来の自分の姿を見つめなおし新たに出発していく樋口可南子さんの姿はとても素敵に輝いていました。

 

 今、私は46才。夫は54才です。

「阿弥陀堂だより」という映画は40代、50代の人たちが生活に追われてばかりいるのではなく一度立ち止まり、お互いを見直すと同時に自分自身を見つめなおすきっかけとなるような映画だと感じました。そして私も素敵に年をかさねていけたらいいなと思いました。

 

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