赤瀬川原平の芸術原論展を見に行く
赤瀬川原平芸術原論展の入り口:千葉市美術館
10月28日〜12月23日までの2ヶ月間に渡って千葉市美術館で『赤瀬川原平の芸術原論展』が開催されているので見に行った。以前から、前衛芸術家であり、漫画家・イラストレーターであり、小説家・エッセイストであり、写真家であった赤瀬川原平の個展を見に行きたいと思っていたが中々その機会はなかった。私が富士山麓1周トレッキングの最後の行程を歩いている最中に赤瀬川原平の訃報が流れた。それは千葉市美術館での『芸術原論展』開催の2日前のことだった。その個展の関連イベントとして11月15日に11階の講堂で南伸坊、久住昌之、松田哲夫によるトークショー「原平さんは弟子の七光り」が企画されたので美術館に申し込んだところ運良く抽選に当選した。そこで『芸術原論展』を見てトークショーを聴くという2つの目的で出かけたのである。
『芸術原論展』に入ってビックリしたのは膨大な出品数だった。入口の第1コーナー「赤瀬川克彦のころ」の15点をスタートとして、出口の第11コーナー「縄文建築団以後の活動」までに展示された作品総数は554点。8階と7階の2フロアにびっしり展示されていた。個展の作品数でこれほどの規模を見たのは初めてだった。絵画で驚いたのは素晴らしいデッサン力だった。前衛芸術家などというと分けの分からない作品群が多いのが普通だが細密画は文句なく巧かった。しっかりしたデッサン技術を持ったうえで前衛であるがゆえに過激なパロディ風刺画を描いたのだろう。造形物は発想が奇抜なため私には意味の分からない作品群が多々あるが、その製作エネルギーは驚異的だと感じた。「ヴァギナのシーツ」シリーズは真空管やビニールを使った作品だが、イメージが豊富なんだなぁと改めて感じさせる作品だった。作品数が多すぎて1時間では見きれないのでトークショーを聴いた後に再入場して残りの作品を鑑賞したのであった。
トークショーは面白かった。編集者で筑摩書房顧問の松田哲夫を進行係として、坊主頭のクリ坊のキャラクターでおなじみのイラストレーターの南伸坊、「孤独のグルメ」の原作者の久住昌之が赤瀬川の弟子としての立場から様々な思い出を語っていく内容だった。スライド写しながら当時のエピソードを語ってくれたが、3人は赤瀬川の弟子なのだが上下関係の師弟ではなく友達関係のような間柄だったことが言葉の端端から窺え、3人は本当に赤瀬川を尊敬し慕っていたという心が滲み出ていた。スライドの最後のページは久住昌之が作成した笑顔の赤瀬川原平の切り絵作品だった。これを大写しにしたままトークは進んでいったが、あたかも葬儀の祭壇中央に掲げられている写真の前で語っているように感じられた。
私はテレビで第4シリーズまで放送された「孤独のグルメ」を必ず録画して見ていたが、その番組は最後に原作者の久住昌之が登場し、番組内で紹介した料理店の関係者とあれこれ雑談をするのだが、その雰囲気がトークショーの中でも出ていた。どこでも飾らない久住昌之は会場がしんみりするような場面でもあえて笑いをとるように言葉を継いでいた姿があった。しかし、天井の一点に目をすえ遠くを見るような場面や静かに視線を落とす久住の姿は、師であり友でもあった赤瀬川と永遠に話すことが出来なくなった今、寂しいのだろうなぁと思わせる姿でもあった。